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(こちらの記事は当初2021/05/26に公開されたものです)

ある意味、「全て1点もの」です。

お店を始めてみて改めて感じることは、世の中には器好きの人が本当にたくさんいらっしゃるのだなということです。

お陰様で紡ぎ舎でも取扱商品が少しずつ充実してきていますが、やはりその中でも「器(うつわ)」を求めてご来店されるお客様がかなり多くいらっしゃいます。

産地ごとに異なる表情、釉薬による印象の違い、絵の付き方、「焼け」の具合、などなど本当に多種多彩な表情で私たちを楽しませてくれる器。その中から自分だけのお気に入りを探すときの高揚感と、実際に出会った時の喜び、そして大切に使い育てていく愉しみが私たちを惹き付けて止まないのでしょう。

一点一点丁寧に手作りされています

器との出会いはいつも刹那的です。「覚えておいて後で買おう」とか「気に入ったからまた同じものを探そう」と思っていても、その時を逃せば全く同じものと出会うことは恐らくもうないでしょう。例え同じシリーズであっても、焼けの違いや微妙な歪みや反り具合の違いなど、一つとして同じものはありません。このことが更に人を惹きつけるのかも知れません。

そう考えると、よく「1点ものの器」などといった言い方を耳にしますが、実は手作りされた器はどれもが「1点もの」なのだと思います。

一点一点違う器との出会いをお楽しみいただくために

紡ぎ舎の実店舗にお越しいただければ全ての商品をお手に取っていただくことができます。実際の重みや感触もお確かめいただいた上でお選びいただけます。ですので、特に焼き物などの場合、本当は実店舗にお出かけいただくのが一番理想です。でも全国にいらっしゃる紡ぎ舎のお客様皆様に直接ご来店いただくことは難しく、実際にはオンラインストアでお買い上げいただく機会が多くなっています。

ということで、今回は手作りされた器を(特にオンラインで)お買い上げいただくにあたってぜひ知っておいていただきたいことをいくつかご説明したいと思います。

同じ品番の商品でも大きさが異なることがあります

焼き物は一つ一つ轆轤(ろくろ)などを使って手作業で成型されています。製作時に大きさは測られていますが、機械ではありませんのでミリ単位で完全に同じ大きさに揃えることは困難です。また、産地ごとの土の特性や焼成の方法等々によって度合いはことなりますが、焼成の過程でかなり縮みます。この縮み具合によっても出来上がりの大きさに多少の差が出てきます。

紡ぎ舎ではあまりに大きさの違いがある場合(ざっくりですが、例えば4寸(約12cm)くらいのお皿で6-7mm程度以上など)には品番を別にして販売するようにしていますが、それでも同品番の商品内で5ミリ程度の差は生じてしまいます。


こちらは紡ぎ舎店主の私物です。同じ商品ですが、高さが違っています(2-3mm程度)。この大きさの違いで夫婦どちらのカップか見分けられて意外に便利。
こちらも同じ商品ですが、高さに違いがあります。
こちらは同じ商品のお皿を重ねたもの。写真の左側の縁は揃っていますが、右側はずれています。

歪みがあったりします

大きさの違いと同じ理由で、成型時や焼成時に歪みが生じている商品もあります。

特に大きなお皿(7寸や8寸など)の場合に顕著にわかりやすい場合が多いです。お皿の歪みや縁の立ち上がりの反り具合などは1点1点差が出やすい部分です。

そもそもあまりに歪みの大きな商品は窯元さんが出荷対象外としていますし、紡ぎ舎でも歪みの程度が大きすぎると判断した場合には販売対象外としています。それでも大なり小なりの歪みは出てしまいます。

横から見ると歪みがあることがわかります。歪みや反り具合は個体差が出やすいです。写真は7寸皿。

色の出方が違ったり釉薬の濃淡があったりします

例えば同じ粉引のお皿でも、下地の色合いが少し見えている部分があったり、ピンクがかった色合いのものや黄色っぽいものがあったりします。同じ釉薬をかけて焼成しても、ちょうどいい具合に焼けるものもあれば、「焼けが甘い」ものもあり、それぞれに風合いが異なって来たりします。また、備前焼などでご存知の方も多いと思いますが、釉薬を施さずに高温で焼成する焼きしめの器なども、窯の中のどの部分に置いて焼成するか、焼成中の灰のかかり方、などなどの様々な要因によって驚くほどに多様な表情を見せてくれます。

昔から、焼成によって釉薬や土が炎によって変化した様子を人々は「景色」と呼んで愉しんできた歴史があります。焼き物の豊かな表情に景色を見出し、1点1点の違いを愛でる日本人の豊かな感受性の表れですね。

真っ白なものもあれば、少しピンクがかった部分があるものもあり、黒の点(土に含まれる鉄分が酸化したものと思われる)が付いたものもあり。この少しずつの違いが愉しいところでもあります。
同じ釉薬でも焼けが甘めに出るもの(左)とよく焼けたもの(右)によって風合いが変わってきます。
本当に豊かな表情の違いを見せてくれる焼しめの器。オンラインストアではどんな「景色」のものが届くのかは、届いてみてのお楽しみ。

小さな穴や少し焦げたような跡、あるいは釉薬のひび割れがあったりします

ものによって、小さな穴のようなものや、少し焦げたような跡がある場合があります。これは、素焼きをした時に素地に残った空気や焼成時に付着していた埃、或いは土に含まれる鉄分が焼成時に酸化されることなどが原因で出てくるものです。

また、釉薬のひび割れのようなものは「貫入」といって、陶器が焼かれた後に冷えていく過程で、陶器本体の素地と釉薬の収縮度の違い(釉薬の方が土よりも縮む)により表面の釉薬がひび割れのような状態になって固まる現象を言います。

例えば萩焼などでは、この貫入に少しずつ茶が染み込んで色合いが味わい深く変化していく様子を「萩の七化け」と呼んで古来から愛でられてきました。

器の表面に付着していた埃などが焼成時に焼けることでこのような表情が出ることがあります。
萩のお茶碗。貫入にお茶が染みることで器が変化していく様を昔から茶人は愉しんでいました。
紡ぎ舎店主の私物(お湯呑み)。貫入に茶渋が入り込んで味わいが出てきました。

高台がガタガタすることがあります

あまりに安定の悪い商品については、当店にて販売対象外としていますが、多少のガタつきがある商品もございます。お手元に届いた商品のガタつきが気になるようでしたら、砥石や粗目の紙やすりなどで削っていただくときれいにお使いいただけます。

色々書いてきましたが

兎にも角にも、一点一点手作りされた器の最大の魅力は一つ一つの表情の違いだと思います。ぜひその豊かな表情や個性を楽しんでいただきたいと思いますし、特にオンラインで器を注文されるお客様には、「どんな個性の器が届くだろう」と箱を開けた時の楽しみとしてワクワクしながらお待ちいただけたら私たちもとても嬉しく思います。

大きさや色合いの微妙な違いや歪み方などを上手に楽しみながら、器の世界をますます広げていってください。

ぜひ一点一点作られる光景にも思いを馳せてお楽しみください(写真は小鹿田焼の里)


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