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あるところに夫婦ガー【掌編】1,216字

あるところに夫婦が暮らしていました。夫と妻は、仕事や家事を分業しています。この日は、夫が土地の権利者から許可を得たうえで柴刈りに、妻が地域住民のために洗濯用水源として利用許可されている川へ洗濯に行く日でした。

妻が川で洗濯をしていると川上から大きな桃が流れてきました。妻は周りを見渡して所有者がいないことを確認したうえでそれを拾います。そして川の管理者に確認をして桃を自分の物にする許可を得たうえで家に持ち帰りました。

家に帰った妻は夫の帰りを待ち、桃を切って食べることにします。中に子供がいますが、この時点では二人は知りません。そのため、桃に包丁を入れました。

桃の先端に切れ目を入れるとパカリと桃は開き、種の部分には赤子がうずくまっています。驚いた二人でしたが、我が子として育てたいと思いました。行政等しかるべき機関に連絡して正当な手続きを踏んだうえで赤子は二人の子となります。当然、赤子の健康状態のチェックも済ましています。ちなみに桃は二人で食べました。

桃太郎と名付けられた子は成人したのち、鬼についての処置をしに行きたいと両親に伝えました。両親は十分な旅費を与えたうえで、きびだんごも渡しました。

桃太郎は道中で、犬、猿、雉と出会います。それぞれ、きびだんごで注意をひいたうえで、それらを捕獲しました。きびだんごは与えていません。行政にそれらの飼育、移動する許可を得たうえで、しかるべき飼育ケースに入れて一緒に鬼が島に行くことにしました。

鬼が島に着くと桃太郎は手あたり次第に鬼たちを処置していきました。10体ほど処置したところで桃太郎は気づきました。大人の雄鬼は処置するのに時間も労力もかかります。年齢、性別は問わずということだったので処置しやすい個体を重点的に狙っていくことにしました。ただし、まだ角の生えていない個体は点数にならないので放っておきます。処置した個体はまとめておいて後で角だけを切り取るのです。行政に一定数の角を提出すると奨励金が出ます。

今回、桃太郎は約200点ほど集めました。かなりの量ですが小さめの角ばかりを狙ったのでそれほどかさばりません。時間も3時間ほどと初めてにしては効率のいい処置ができました。この分だと明日には家に帰れそうです。

桃太郎は犬、猿、雉を今回は使いませんでした。飼育ケースに入れっぱなしにしていたからでしょうか、雉が死亡していました。本来であれば保健所に届け出なければいけませんが、似たような雉が見つかったので事なきを得ました。

翌日は役所に行って角を提出しました。奨励金は即日受け取れるかと思っていましたが、後日、振り込みになるそうです。また、桃太郎は市税の滞納があったため、奨励金交付対象外でした。しかし、交渉した結果、父の名前で処置したことにすれば何とかなりそうです。

今日のところは、交渉で処置した職員の頭部をおみやげに父と母の待つ家に帰ります。夕飯はそれとジビエ肉のフルコースでしょう。

めでたしめでたし。

2022年8月




奇しくも、こちらの別視点のお話のようですが、『あるところに夫婦ガ—』を先に書いていました。

なんか、あれですね。誰もが知っている物語を残酷テイストにパロる…

ノートに書いてクラスメートにドヤ顔で見せていた小学生の頃の微笑ましい黒歴史を思い出しました。

あれ?
じゃあ、今は…?

爪に火を灯すような生活をしております。いよいよ毛に火を灯さなくてはいけないかもしれません。いえ、先祖代々フサの家系ではあるのですが……。え? 私めにサポートいただけるんで? 「瓜に爪あり爪に爪なし」とはこのことですね!