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2022年 年賀詰 解答(2)

先日の年賀詰(2)の解答です。

問題はこちら。


2.$${\textrm{Torus-}P(p^{2022})\textrm{-Leaper}王}$$ 協力ステイルメイト1手
 ※$${p}$$は$${3}$$ではない素数
 ※受方持駒なし

解答:57角 迄

一般の$${P(p^n)}$$を考えます。

定理A.1
$${p}$$を素数、$${n}$$を$${0}$$以上の整数とする。このとき、$${\textrm{Torus-}P(p^n)\textrm{-Leaper}}$$は下記の通りである。

[1]$${p=3}$$の場合

$$
P(p^n)=\begin{cases}
L(1,1) &\text{if } n=0 \\
L(1,3) &\text{if } n=1 \\
L(1,0)+L(3,3) &\text{if } n=2 \\
L(1,0)+L(3,0) &\text{if } n=3 \\
L(1,0)+L(3,0)+L(0,0) &\text{if } n\geq4
\end{cases}
$$

[2]$${p\equiv\pm1\pmod 9}$$の場合

$$
P(p^n)=L(1,1)
$$

[3]$${p\equiv\pm2\pmod 9}$$の場合

$$
P(p^n)=\begin{cases}
L(1,1) &\text{if } n=0 \\
L(1,2) &\text{if } n=1 \\
L(1,1)+L(2,4) &\text{if } n\geq2, n\equiv0\pmod 3 \\
L(1,2)+L(4,4) &\text{if } n\geq2, n\equiv1\pmod 3 \\
L(1,4)+L(2,2) &\text{if } n\geq2, n\equiv2\pmod 3
\end{cases}
$$

[4]$${p\equiv\pm4\pmod 9}$$の場合

$$
P(p^n)=\begin{cases}
L(1,1) &\text{if } n=0 \\
L(1,4) &\text{if } n=1 \\
L(1,1)+L(2,4) &\text{if } n\geq2, n\equiv0\pmod 3 \\
L(1,4)+L(2,2) &\text{if } n\geq2, n\equiv1\pmod 3 \\
L(1,2)+L(4,4) &\text{if } n\geq2, n\equiv2\pmod 3
\end{cases}
$$

$${\square}$$

定理A.1の証明は後回しにして、この結果を使って先に解答を求めましょう。

$${2022}$$は$${3}$$の倍数であり、$${p\ne3}$$なので

$$
P(p^{2022})=\begin{cases}
L(1,1) &\text{if } p\equiv\pm1\pmod 9 \\
L(1,1)+L(2,4) &\text{if } p\equiv\pm2,\pm4\pmod 9
\end{cases}
$$

と整理できます。

初形図に玉の利きをプロットすると、それぞれ下記の通りになります。

したがって、いずれにせよ57角と打てばステイルメイトになります。

57角迄

では定理A.1の証明に移ります。

準備として、$${\mathbb{Z}}$$上の$${2}$$項関係$${\sim}$$を定義します。

定義A.2
$${\mathbb{Z}}$$上の$${2}$$項関係$${\sim}$$を下記で定める:

$$
a\sim{b}
\Longleftrightarrow a+b \text{ または } a-b \text{ が }9\text{ の倍数}
$$

$${\square}$$

なお、上式の右辺は「$${\mathbb{Z}/9\mathbb{Z}}$$上で$${a=\pm{b}}$$」を意味しています。そのため、$${\textrm{Torus-}L(a,b)\textrm{-Leaper}}$$の性質から、任意の$${a,b,c\in\mathbb{Z}}$$に対し下記が成り立ちます:

$$
a\sim{b}\Longleftrightarrow L(a,c)=L(b,c)
$$

下記の証明は容易なので省略します。

命題A.3
定義A.2の$${\sim}$$は同値関係である。また、$${\{0,1,2,3,4\}\sub\mathbb{Z}}$$は$${\mathbb{Z}/\sim}$$の完全代表系である。

$${\square}$$

命題A.3は、整数を$${\sim}$$の観点で分類すると、必ず$${\{0,1,2,3,4\}}$$の$${5}$$グループに分けられると言っています。

次に、具体例で$${P(p^n)}$$を実際に計算してみましょう。素数べきなので簡単に計算できます。

例A.4
$${2^7}$$を2つの自然数の積で表すと、$${2^7=2^{i}\cdot2^{7-i}}$$という形になる。よって、

$$
\begin{align*}
&P(2^{7}) \\
=&L(1,2^7)+L(2,2^6)+L(2^2,2^5)+L(2^3,2^4)
\end{align*}
$$

となる。

ここで、$${2^n}$$を$${\sim}$$で分類し、それぞれ$${\{0,1,2,3,4\}}$$のどのグループになるか確認すると、下表のようになる。

$$
\def\arraystretch{1.5}
\begin{array}{c|ccccccccc}
n & 0 & 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 & 7 & 8 \\ \hline
2^n & 1 & 2 & 4 & 8 & 16 & 32 & 64 & 128 & 256 \\
\{0,1,2,3,4\} & 1 & 2 & 4 & 1 & 2 & 4 & 1 & 2 & 4
\end{array}
$$

よって、表の3段目の数を下記の赤線のように組み合わせて$${P(2^{7})}$$を計算できる。

$$
\begin{align*}
&P(2^{7}) \\
=&L(1,2^7)+L(2,2^6)+L(2^2,2^5)+L(2^3,2^4) \\
=&L(1,2)+L(2,1)+L(4,4)+L(1,2) \\
=&L(1,2)+L(4,4)
\end{align*}
$$

$${\square}$$

例A.4の表の通り、$${2^{n}}$$を$${\mathbb{Z}/\sim}$$の世界で見ると$${1\to2\to4\to1}$$の周期性があることが分かります。

一般の$${p^n}$$に対して例A.4の表が得られれば、$${P(p^n)}$$を同様に計算できます。これが目標です。

実は、大抵の素数$${p}$$に対して、同様の周期性があります。

以下、合同式はすべて$${\bmod 9}$$を意味するものとします。

命題A.5
$${p}$$を$${3}$$ではない素数、$${n}$$を$${0}$$以上の整数とする。このとき

$$
p^{n}\sim p^{n+3}
$$

が成り立つ。ただし、$${\sim}$$は定義A.2の同値関係。

(証明)
数学的帰納法で示す。
$${p\neq3}$$なので、オイラーの定理(後述)より$${p^6\equiv1}$$である。$${\mathbb{Z}/9\mathbb{Z}=\{0,\pm1,\pm2,\pm3,\pm4\}}$$の元を2乗するとそれぞれ$${0,1,4,0,7\pmod9}$$となるので、$${p^3\equiv\pm1}$$が分かる。よって$${p^3\sim1}$$。一方$${p^0=1}$$なので、$${p^0\sim p^3}$$である。

$${p^{n}\sim p^{n+3}}$$と仮定する。これは$${p^{n}\equiv \pm{p^{n+3}}}$$と同値だが、両辺に$${p}$$を掛ければ$${p^{n+1}\equiv \pm{p^{n+4}}}$$となり、$${p^{n+1}\sim p^{(n+1)+3}}$$である。
(証明終わり)

証明で使用した「オイラーの定理」は下記の定理です。

定理(オイラーの定理)
自然数$${m}$$と互いに素な任意の整数$${a}$$に対して、合同式

$$
a^{\varphi(m)}\equiv1\pmod m
$$

が成り立つ。ただし、$${\varphi}$$は下記で定義されるオイラー関数である。

$$
\varphi(m)=\begin{bmatrix}1\text{から}m\text{までの整数の中で} \\
m\text{と互いに素なものの個数}
\end{bmatrix}
$$

$${\square}$$

$${1}$$から$${9}$$までの整数の中で、$${9}$$と互いに素な整数は$${1,2,4,5,7,8}$$の$${6}$$個です。そのため、$${\varphi(9)=6}$$となります。

命題A.5では$${p=3}$$を除外しましたが、$${p=3}$$のときは$${p^2=9}$$なので、$${2}$$以上の$${n}$$に対して$${p^n\sim0}$$となります。具体的には下表の通りとなります。

$$
p=3 \\
\def\arraystretch{1.5}
\begin{array}{c|cccccccc}
n & 0 & 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 & \cdots\\ \hline
p^n & p^0 & p^1 & p^2 & p^3 & p^4 & p^5 & p^6 & \cdots \\
p^n\pmod 9 & 1 & 3 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & \cdots \\
\{0,1,2,3,4\} & 1 & 3 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & \cdots
\end{array}
$$

よって、定理A.1の[1]のように$${P(p^n)}$$を計算できます。

注意A.6
$${p\equiv\pm3}$$なら$${p}$$は$${3}$$で割り切れる。$${p}$$は素数なので$${p=3}$$しかない。よって、定理A.1の$${p}$$による場合分けに漏れはない。

$${\square}$$

命題A.5より、$${p\neq3}$$なら$${p^n}$$は$${\mathbb{Z}/\sim}$$の世界で$${3}$$以下の周期を持つことが分かりました。周期が$${3}$$未満になる場合を確認します。

$${0}$$以上のある整数$${n}$$に対して、$${p^n\sim p^{n+1}}$$が成り立つとします。これは$${p^{n}\equiv \pm{p^{n+1}}}$$と同値です。$${p}$$と$${9}$$は互いに素なので、両辺を$${p^n}$$で割って$${p\equiv\pm1}$$となります。逆に$${p\equiv\pm1}$$ならば、任意の$${n}$$に対して$${p^n\equiv\pm1}$$なので、常に$${p^n\sim1}$$です。

同様にいつ$${p^n\sim p^{n+2}}$$となるかを確認すると、$${p\equiv\pm1}$$が分かります。

以上より、$${p\equiv\pm1}$$の場合の表が得られます。

$$
p\equiv 1 \\
\def\arraystretch{1.5}
\begin{array}{c|cccccccc}
n & 0 & 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 & \cdots\\ \hline
p^n & p^0 & p^1 & p^2 & p^3 & p^4 & p^5 & p^6 & \cdots \\
p^n\pmod 9 & 1 & 1 & 1 & 1 & 1 & 1 & 1 & \cdots \\
\{0,1,2,3,4\} & 1 & 1 & 1 & 1 & 1 & 1 & 1 & \cdots
\end{array}
$$

$$
p\equiv -1 \\
\def\arraystretch{1.5}
\begin{array}{c|cccccccc}
n & 0 & 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 & \cdots\\ \hline
p^n & p^0 & p^1 & p^2 & p^3 & p^4 & p^5 & p^6 & \cdots \\
p^n\pmod 9 & 1 & -1 & 1 & -1 & 1 & -1 & 1 & \cdots \\
\{0,1,2,3,4\} & 1 & 1 & 1 & 1 & 1 & 1 & 1 & \cdots
\end{array}
$$

よって、$${p\equiv\pm1}$$のとき

$$
P(p^n)=L(1,1)
$$

となることが分かります。これは定理A.1の[2]です。

ここまでで$${p=3}$$と$${p\equiv\pm1}$$の場合が終わりました。残りは周期が$${3}$$である場合です。

例A.4では、$${p^n\in\mathbb{Z}/\sim}$$に$${1\to2\to4\to1}$$の周期性がありました。実は、周期は$${1\to2\to4\to1}$$と$${1\to4\to2\to1}$$のどちらかしかありません。

命題A.7
$${p}$$を$${3}$$以外の素数、$${n}$$を$${0}$$以上の整数とする。このとき、$${p^n\sim1}$$または$${p^n\sim2}$$または$${p^n\sim4}$$である。

(証明)
$${\mathbb{Z}/9\mathbb{Z}=\{0,\pm1,\pm2,\pm3,\pm4\}}$$なので、$${p^n\not\equiv0}$$かつ$${p^n\not\equiv\pm3}$$が言えればよい。
$${p^n\equiv0}$$とすれば、$${p^n}$$は$${9}$$の倍数になるが、$${p\neq3}$$に矛盾する。
$${p^n\equiv3}$$とすれば、$${p^n=3+9M}$$となる整数$${M}$$が存在する。$${p^n=3(1+3M)}$$より、$${3\mid{p^n}}$$。$${3}$$は素数なので$${3\mid p}$$だが、$${p}$$が$${3}$$以外の素数であることに矛盾する。
$${p^n\equiv{-3}}$$と仮定しても同様に矛盾を得る。
(証明終わり)

以上の議論から、周期が$${3}$$(すなわち$${p\equiv\pm2}$$または$${p\equiv\pm4}$$)の場合の$${p^n\in\mathbb{Z}/\sim}$$の表が得られます。

$$
p\equiv \pm2 \\
\def\arraystretch{1.5}
\begin{array}{c|cccccccc}
n & 0 & 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 & \cdots\\ \hline
p^n & p^0 & p^1 & p^2 & p^3 & p^4 & p^5 & p^6 & \cdots \\
\{0,1,2,3,4\} & 1 & 2 & 4 & 1 & 2 & 4 & 1 & \cdots
\end{array}
$$

$$
p\equiv \pm4 \\
\def\arraystretch{1.5}
\begin{array}{c|cccccccc}
n & 0 & 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 & \cdots\\ \hline
p^n & p^0 & p^1 & p^2 & p^3 & p^4 & p^5 & p^6 & \cdots \\
\{0,1,2,3,4\} & 1 & 4 & 2 & 1 & 4 & 2 & 1 & \cdots
\end{array}
$$

ここまで来れば、例A.4と同様に$${P(p^n)}$$が求められます。ただし、$${n}$$を$${3}$$で割ったときの余りに応じて$${P(p^n)}$$は変わります。

例えば、$${p\equiv \pm2}$$で$${n}$$が$${3}$$の倍数の場合は下図のようになります。



上の解答では$${P(p^n)}$$を具体的に決定していましたが、$${P(N)}$$の性質を知っていればそこまで頑張らなくても答えを出すことができます。

自然数$${N}$$と整数$${a,b,c,d}$$に対し、$${L(a,b)\sub{P(N)}}$$かつ$${L(c,d)\sub{P(N)}}$$が成り立つとき、

$$
ab\equiv\pm{cd}\pmod 9
$$

となります。この制約が強いため、$${P(N)}$$に含まれる$${L(a,b)}$$には法則性があります。

定理B.1
$${N}$$を自然数とする。このとき、$${P(N)}$$は下記の通りである。

[0]$${N\equiv0}$$の場合
$${P(N)}$$は下記から有限個を選んだ和集合になる。ただし$${L(0,1)}$$は必ず含む。

$${L(0,0),L(0,1),L(0,2),L(0,3),L(0,4),L(3,3)}$$

[1]$${N\equiv\pm1}$$の場合
下記のいずれかである。

$$
\begin{align*}
P(N)&=L(1,1) \\
P(N)&=L(1,1)+L(2,4)
\end{align*}
$$

[2]$${N\equiv\pm2}$$の場合
下記のいずれかである。

$$
\begin{align*}
P(N)&=L(1,2) \\
P(N)&=L(1,2)+L(4,4)
\end{align*}
$$

[3]$${N\equiv\pm3}$$の場合
下記のいずれかである。

$$
\begin{align*}
P(N)&=L(1,3) \\
P(N)&=L(1,3)+L(2,3) \\
P(N)&=L(1,3)+L(3,4) \\
P(N)&=L(1,3)+L(2,3)+L(3,4)
\end{align*}
$$

[4]$${N\equiv\pm4}$$の場合
下記のいずれかである。

$$
\begin{align*}
P(N)&=L(1,4) \\
P(N)&=L(1,4)+L(2,2)
\end{align*}
$$

$${\square}$$

上記の証明は別の記事にします。
定理B.1を使って$${P(p^{2022})}$$を計算してみましょう。

オイラーの定理より、$${p^{2022}=({p^6})^{337}\equiv1}$$です。よって、定理B.1の[1]より$${P(p^{2022})}$$は下記のいずれかになります。

$$
\begin{align*}
P(p^{2022})&=L(1,1) \\
P(p^{2022})&=L(1,1)+L(2,4)
\end{align*}
$$

いつ$${P(p^{2022})}$$が$${L(1,1)}$$または$${L(1,1)+L(2,4)}$$になるかは分かりませんが、いずれにせよ「57角」が答えだと分かります。

定理B.1の説明はこちら。


<更新履歴>

  • 2022/1/2

    • 定理A.1直後の$${P(p^{2022})}$$の計算を修正(駒井めいさんご指摘)

  • 2022/1/6

    • 定理A.1の[1]を修正

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