誇りを持ちプライドを捨てる
〜アスリートのセカンドキャリアで大切なこと〜
はじめまして。にしだつくるです。
2021年5月からBリーグ福島ファイヤーボンズの運営会社の社長になりました。
去年の12月までは大学ラグビーの指導者、その前は営業マン、更に前はラグビープレイヤーでした。プレイヤーから経営者になるまで、色々なことがありました。
アスリートの中には自身のセカンドキャリアの課題と不安を抱えながら現役生活を過ごしている人も多いのではないかと思います。
僕の経験が現役のアスリートや引退を考えているアスリート、次の一歩を踏み出そうとしている人へのヒントに少しでもなればと思いnoteを書いてみることにしました。今回の記事はマインドセット(意識・気の持ち方)と行動の話ですので、捉え方は人それぞれになると思います。
今回の記事で僕が伝えたいことはタイトルの通り、「誇りを持ちプライドを捨てる」という、アスリートがセカンドキャリアを踏み出す時に持つべき意識です。
「誇り」と「プライド」は同じ意味のようで、違うニュアンスをもっていると考えています。
「プライド」は、ここでは自尊心という意味でとらえています。
「誇り」は自分の経験からくる矜持であり「信念」ととらえます。
「プライド」は傷つきますが、「信念」は容易には傷つきません。
僕が伝えたい結論は、『新たなチャレンジをする時には、アスリートとして積み重ねてきた経験は自分の信念として胸に秘め、ちっぽけなプライドは捨てて謙虚に学ぶ姿勢が求められる』ということです。
そう考える理由を以下に述べます。
セカンドキャリアのステージは大きく2通りに分かれる
前提として、セカンドキャリアのステージは大きく2通りに分かれると考えます。
一つ目は自分の競技の延長線上にあるもの。
二つ目は競技の延長線上にないもの。
競技の延長線上にあるものは、指導者(コーチ)や運営スタッフ、講師、研究者(大学教授等)などです。度合いはそれぞれですが、自分がアスリートとして積んだ経験をそのまま上に伸ばす事が次のステージでも有利にはたらき易い仕事です。
延長線上にないものはそれ以外の分野です。
つまり多くのアスリートが競技の延長線上にない分野に足を踏み入れることになります。そして、競技の延長線上にない分野に進む場合には特に「誇りを持ちプライドを捨てる」意識が重要になってくると思います。
もちろん白か黒か境界線がはっきりと分かれているものではありませんので、競技の延長線上にある仕事でも新しく学ぶ姿勢は大切ですし、延長線上にない仕事でも競技の経験を生かせる場面は沢山あります。
僕はどちらの経験もあるので、新たなチャレンジをするアスリートにそれぞれの立場で読んでいただき、生かしていただけることがあれば幸いです。
誇りを持ちプライドを捨てるべき理由
①現実を知る
当たり前の話ですがアスリートとビジネスマンでは求められる能力が違います。ラグビーの場合は筋肉量、スピード、パワー、パス、キックなどの競技に必要なパフォーマンスを高いレベルで発揮することを常に求められ続けます。
ビジネスにも色々な形がありますが、組織の中で働く一般的なビジネスマンであれば、その業務を遂行する能力を高め、求められた成果をあげることを求められます。(会話力、提案力、分析力、情報処理力、論理的思考力、自社知識、競合他社に関する知識など・・)
この差を埋めるためにプライドを捨てる必要があると考えるのです。
僕がラグビーを引退した時に初めに受け入れなければならなかったのは、「努力の矛先が合わない」という現実でした。早く走れることがビジネスの役に立たないことなどは当然分かっていましたが、ラグビーから離れビジネスマンになった時に、今までと全く違う種類の能力を高める事を求められるという事を受け入れなければなりませんでした。
そして、これまでに身につけたアスリートとしての能力は、応用できるものもありましたが、ゴリゴリのビジネスの現場では全く役に立たないことを思い知らされました。「ラグビーやってました!」という話のつかみで終わりです。
その経験は自分にとっては強烈なものでした。お客さんに怒鳴りつけられたり、上司に叱責され、社内の他部署の人にダメ出しされたりすることもありました。
アスリートは常に自分に厳しく向き合っているから、会社員になっても自分に厳しく行動できるということは一理あるとは思いますが、自分の好きな(生きがいである)スポーツでの成功を目指すことと、いち会社員として極端に言うと「好きではないこと」に向けて行動しなさいと言われることのギャップは大きく、現役の時と同じような行動(努力)を積み重ねられないケースも多いのではないかと思います。
日本でも指折りの世界基準のアスリートであれば、その存在そのものに社会性があるため、アスリートとしての能力と存在感で、引退後も活躍できるシーンはあると思います。
ただ、そのような活躍ができるのはごく一握りであり、むしろそのようなトップアスリートほど、最近はしっかりとビジネスを勉強をされている人も多いように見えます。
僕は現実を知り、受け入れ、目指すゴールを再設定するのに時間がかかりました。ほんの数ヶ月前までお客さんの前でプレーしていた自分なんて誰も知りません。自分のちっぽけなプライドを捨て、心の底から「教えてください」と学ぶ心を持った時に、ビジネスマンとしての道が拓けたと思います。お客さんに喜んでもらえたり、人のためになる製品を導入できたことで自分の存在意義を感じることができました。
アスリートとしての能力がその後のビジネスの役には立たないという現実を受け止めることはアスリートとしてのプライドを捨てる作業でもあると思います。今まで評価されていたことが全く評価されないという現実を受け止め、謙虚に学ぶ姿勢をもち、目標を再設定し、自分のゴールの延長線と属する組織のゴールを合わせることが、セカンドキャリアを成功させる一歩目だと思います。
どうしてもゴールを合わせることが難しい状態が続けば、その組織からは離脱をせざるを得ない状況になっていくでしょう。
② 覚悟を持ってやり切る
僕の場合、自分のちっぽけなプライドを捨ててから、「学ぶ」という姿勢が出てきました。人は学ぶ姿勢を持っている人に教えたいと思うものです。
「この人に教えたい」と思ってもらえれば、人の経験を自分にインストールすることができます。意思決定の場面で正しく使えるようになるには、実際に自分でもやってみることが必須ですが、人の経験を聞けることでかなり効率よく学びを得ることができます。
転職先の株式会社識学では初めてコンサルティングという役務提供型のサービスを提案する仕事に就きました。営業兼講師という仕事です。
ここで、僕は大きな壁にぶつかることになりました。
大学ラグビー部のヘッドコーチをしながら、識学の講師として成果をあげるというミッションが、あまりにも膨大な作業時間を必要とし、1日24時間では全く足りないという状況が続き、睡眠時間を削るしかない日々が続きました。同時期に首のヘルニアの手術、父の他界も重なりました。
講師の認定テストまでに覚えなければならないテキストの量と、先輩講師と自分の講義のレベルの違いに、自宅のリビングで大の字になって呆然としたことを思い出します。(全く自分のプレーが通じず涙した高校1年生の時以来でした)
それでも日々のラグビー部の指導やメニューの作成、選手の評価や面談なども止める訳にはいかず、まさに死に物狂いで日々を過ごしていました。
結果的に、講師になりお客様の課題解決のお手伝いができ、大学ラグビー部も一定の成果を上げることができました。
がむしゃらに過ごした日々でしたが、「自分で生き抜く力を身につけたい」という気持ちと、『かっこいい父ちゃん(息子)でいたい』という意志が自分を支えていたと思います。
中学でラグビーを始めてから、今でも「家族の喜ぶ顔がみたい」が僕の心の支えであり、動機の中心にあるものです。
中学では一生懸命やろうとしてイジメられ、高校では一番下のチームでボロカスに言われ、大学では1年間全敗を経験し、社会人では日本一を逃し、引退後はビジネスの壁に絶望しました。
そんな時でも「両親や兄弟、妻や子ども達を笑顔にしたい」という思いで、覚悟を決めてとにかく只々必死でやるべきことを積み上げてきました。
今となっては、できないことをできるようにするための行動は当たり前に積み上げられるので、ちょっとやそっとのことでは揺るぎません。成長の為の行動を積み重ね続けられることが自分の誇り(信念)になっていると思います。
がむしゃらな日々は無駄ではなかったのです。
できるまでやれば、できる。
僕自身の新たなチャレンジ
この春から経営者としてステージを変えたチャレンジをさせていただいています。
僕にとってはまだまだ分からないことばかりです。
正直にいうと、一年前はPLもロクに書けませんでしたし、BSも読めませんでした。(こんな残念な経営者いないでしょう)
ただ、とにかく日々学び続ける行動を積み上げています。分からない事は自己投資をして吸収しています。教えて欲しい時は「教えてください」と頼みます。
今こそ僕自身が誇りを持ってプライドを捨ててチャレンジし続けます。
そしてアスリートのセカンドキャリアを輝くものにするための支援や受け入れなども検討していきたいと思っています。
まとまりがなく長い文章になってしまいましたが、これからセカンドキャリアを迎えるアスリートには、ぜひ誇りを胸にプライドを捨てて積極的に学んで欲しいと思います。デュアルキャリアという言葉を目にする機会が増えましたが、僕はあまりピンときません。これについてはまた機会があれば書きたいと思います。
まとめ
・競技者引退後、違う質の成長を求められる
・競技の延長線上にない領域では競技者としての経験が役に立たないことがほとんど
・役に立たないことを受け入れてゼロベースで学ぶ姿勢が大切(この切り替えが早い人ほど社会に適応できる)
・競技者として試練を乗り越えてきた経験は自分の信念として生き続ける
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