この長い長い下り坂を

今朝、私はとある事情で郵便局に向かっていました。ですが、営業時間が短縮になっていたため、着いた時にはまだ空いていませんでした。どうしようかな、そうだ。せっかく自転車でここまできたんだからサイクリングでもしよう。そう思って私は自転車を走らせました。

しばらくすると、小学校が見えてきました。私は少し嫌な気持ちになりました。というのも、私は小学校に良い思い出がないのです。いいや、早く通り過ぎてしまおう。学校の横を足早に通り過ぎた後、少し急な長い長い下り坂が目に飛び込んできました。小高い丘にある小学校から、下の河原に向かうための坂道です。早くここから立ち去ろうとと思って、力を入れてしっかりブレーキを握りしめて顔を上げました。その時、思わず私は息を飲みました。ブレーキを握る手もおもわず緩みました。そこには、今までにみた事のないほどの絶景が広がっていたのです。5月のまだ少し春らしさが残る柔らかい青空、その空をバックに、明るい緑色に生い茂る山、頰を撫でる穏やかな青東風、優しく照る朝の太陽。ここってこんな綺麗な景色が見えたのか。知らなかった。初めて知った美しさに圧倒されていたその時、ある記憶が頭に浮かびました。低学年の頃、授業で河原に遊びに行くのによくこの坂を通ったな。はぐれないよう友達と手を繋いで、先生の後を追って歩いた。その日も、今日と同じくらい天気が良くて、あまりにも気持ちが良くなって歌を歌った。なんの歌だったかはもう覚えていない。でもそれを見た先生が「はるかは歌が上手やねぇ」と褒めてくれたっけ。そのあとはみんなで歌いながら河原に向かった。この道に関するいろんな楽しかった思い出が次々と浮かんできて、少し驚きました。楽しかった記憶だってちゃんと残っていた。ずっとつまらない小学校生活だとばかり思い込んでいた。今日の景色みたいに、綺麗なのに、ずっと知らなかった。

その後郵便局に戻り、用事を済ませた私は、あほ坂を下りて家に帰ろうと思いました。どちらかというとその坂を通るルートは遠回りなのですが、全く気になりませんでした。もう一度坂の上に立って、綺麗な景色を眺めました。それからしっかりブレーキを握りました。でも、さっきとは意味合いが違います。今日見た素晴らしい景色を忘れないように、思い出した楽しかった記憶を手放さないように、しっかりと握りました。そしてゆっくりゆっくりと、思い出を噛みしめるように坂を下って帰りました。

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