『桃山 天下人の100年』地衣類の発見

東京国立博物館で10月から始まった特別展『桃山 天下人の100年』を見てきた。桃山といっても、この展示会の桃山は、安土桃山時代の30年(室町幕府滅亡から1603年の江戸開府まで)ではなく、1543年の鉄砲伝来、堺商人の隆盛から、島原の乱による鎖国が行われた1639年までの100年を指す。今年の大河ドラマが描く世界もその一部だろう。展示されるのは、刀剣や鎧兜、屏風絵、襖絵から茶碗まで、幅が広い。
悪く言えば、テーマがとっ散らかった展示会だが、展示されているものはすごい作品ばかり。朝鮮半島からの渡来物、志野や織部、黒楽など、なかなか一度に見ることがかなわない茶碗が一堂に会しているのには、圧倒された。
私が一番に目を奪われたのは、狩野永徳の4曲1双の檜図屏風だ。ヒノキの老巨木が8面の屏風のなかを、力強くうねっている。1本の老木をクローズアップして、その一部分を、8面で展開するという驚きの構図。老木の幹と枝には、ウメノキゴケの仲間のマツゲゴケ(たぶん)が全面に描かれている。
コケという名前でも、菌糸の上層に緑藻かシアノバクテリアが共生している地衣類だ。成長が遅く、ここに描かれているような大きさに成長するには、数十年の歳月が必要だったろう。幹や枝に張り付いて地味に栄える地衣類がこの作品の隠されたモチーフかもしれない。4面からなる長谷川等伯の楓図壁貼付でも、カエデの枝に、地衣類が丹念に描きこまれている。
週末のナイトミュージアム、コロナ禍でガラガラの会場で、16世紀の国宝に描かれた地衣類とじっくり向き合う贅沢な時間をすごした。

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