ギンリョウソウの咲く森で

4月、5月と、新緑を楽しむ山行のベストシーズンをStay Homeしていると、気持ちがクサクサする。山に行けないのなら、せめて森に行こうと、最近は明治神宮の森を散策することが多い。
シイ、カシ、クスノキなどの照葉樹(常緑広葉樹)の巨木がはるか上空で樹冠を形成し、多様な落葉中層木、低層木とともに、美しい天然複層林を形成している。この杜、どこから見ても天然林だが、100年前、「何をどう植えたら100年後、天然更新していく永遠の森になるのか」を考え抜いたドイツで学んだ本多静六ら森林科学者や当時を代表する造園家たちが作り上げたものだ。
関東ローム層の洪積台地、松がまばらに生える野っ原に、全国から寄進された数百種に及ぶ樹木を持ち寄って永遠の森を作ったのだ。もっとも、どういう森を、どういう目的で、どれくらいの期間でつくるのか、本多たちの「100年かけて、深くて大きな照葉樹林を中心にした森をつくる」という狙いがはじめからうまくいったわけではない。当時の首相、大隈重信は、本多たちの計画を聞いて、「神宮の森を雑木(ぞうき)の藪(やぶ)にする気か。杉を植えろ、ヒノキを植えろ」といったという。
大隈を説得し(実際、乾燥した関東ロームの台地で杉の巨木は育たないだろう)本多たちがガンバったからこそ、コロナ禍の今、東京のオアシス、巨木の森が都心に存在しているのだが、美しい広葉樹林を「雑木の藪(ゾウキのヤブ)」と見る大隈のセンスは、戦後、拡大造林政策に受け継がれ、日本列島を、美しい新緑の季節を持たない、薄暗いスギ・ヒノキの単純林によって覆い尽くしたのである。
ふと気配を感じて足元を見ると、林床にギンリョウソウ(銀竜草)が咲いている。自らは光合成を行わず、森林土壌に暮らす菌類から養分を得て生活している純白の異形の花だ。幽霊茸とも、水晶蘭ともいう。その生活史から、庭で栽培するのは難しい深い森の植物だ。
初夏のひととき、明治神宮の癒やしの森の散策をおすすめしたい。

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