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【気候変動】200人の専門家、14,000本の論文、その重み。

歴史的なメッセージ

8月9日、国際連合の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、第6次評価報告書を発表した。

IPCCはこれまで、1990年、1995年、2001年、2007年、2013年と気候変動に関する研究成果をまとめた報告書を提出しており、今回発表された第6次評価報告書がその最新の成果となる。

その第6次評価報告書の中で、今年(2021年)も日本に異常気象をもたらしている気候変動が、「人間の影響によるものである」ことが、

「疑う余地がない」

と明記された。

BBCをはじめ多くのメディアが報じたこのニュースは、我々人類が極めて重く受け止めるべきものだ。

IPCCは、20世紀以降の地球温暖化の主な原因が、人間活動によるものである可能性について、2007年の第4次報告書では「非常に高い(90%以上)」、2013年の第5次報告書では「極めて高い(95%以上)」としてきた。

「95%以上」というのは、一般の私たちの感覚からすれば、「ほぼ間違いない 」と見て差し支えないレベルの表現だ。だが、IPCCの報告書が科学的なプロセスで書かれているために、0.1%でも不確かさがある限り、100%と断定しないようにしてきたのだろう。

それが今回の第6次評価報告書では「疑う余地がない」という表現に変わった。

何度も言うが、この変化は極めて重い。

なぜなら、今回発表されたIPCCの第6次評価報告書は、

66か国からの200人以上の専門家」が参加し、
14,000本の論文を引用」し、
3回にわたる査読(レビュー)」を経て、
「78,000のレビューコメントにすべて対応」し、
「コメントと対応もすべて公開

されたものだからだ(国立環境研究所動画チャンネルの動画 【速報版】IPCC執筆者が独自解説!「気候変動 国連最新レポート」 より。太字は記事作成者による)。

今までIPCCの報告書には、地球温暖化の「懐疑派」と呼ばれるグループから多くの批判があり、またその批判を土台に温暖化対策をしない口実にもされてきた(もちろん、「建設的な批判」は、科学に限らず大切なことだ)。

IPCCの専門家たちは、それらの批判を取り入れた上で新しい研究を行ってきたが、批判に対して長年答えられなかった部分や、数値の幅がどうしても広くなってしまう部分があった。

しかし、14,000本の論文を引用し、最新の知見とデータに基づいて執筆された今回の報告書では、そういった批判に応える数々の研究の総決算として、「2000年間の気温の変化の記録(現在の気温上昇が、過去2000年の間、前例のないものであることがわかった)」や「CO2が増えることによって上昇する気温の予測幅(気温上昇量は、CO2の累積排出量にほぼ比例するということがわかった)」などのさまざまなデータについて大きな改善が行われた。

三度言うが、私たちはこの事実を重く受け止めなければならない。

なぜなら、この報告書は、一部の国の一部の科学者が、部分的な事実を都合よく集めてきて作成したものではなく、さまざまな立場と事情を抱えた66か国の200人の科学者が、今日までの研究の成果を結集してまとめあげたものだからだ。

私たちは、地球が温暖化して多くの異常気象が起きているのは「私たちの活動が原因」だということを真摯に認め、多くのエネルギーを消費する生活様式によって排出しているCO2(通例として、メタン等の温室効果ガスの全体を指して「CO2」と呼ぶことが多いため、本記事でも通例にならいCO2と記載)を減らす方向に、社会全体で向かっていかなければならない。

もちろん、今も脱炭素に向けたさまざまな研究があり、政治や企業活動のレベルでも多くの行動・変容が起きている。それはすばらしい、称賛されるべきことだ。しかし今のペースでは、将来日本でも多くの人が住む場所を追われたり(東京・大阪・中部など。本記事でも言及する)、生態系が変化したり、食糧が得にくくなるかもしれない。

だからこそ私たちは、今回の科学者の仕事とメッセージに敬意を表し、より効果的なアクションを起こす必要がある。それが、大きな災害を防ぎ、日々の暮らしを守り、景観や四季を守り、そしてなにより命を守ることにつながるのだ。

このようなメッセージを聞くと、「いろいろ我慢しなくちゃいけないのかな」あるいは「もうこれ以上はムリ・・・」と思うかもしれない。

しかし、社会的にはできることはまだまだたくさんある。さらにいえば、気候変動対策をすることが、私たちの生活をもっと豊かにしてくれるかもしれない。その方法についても伝えて行くが、それはまたの機会とする。

気候変動の影響と現状

地球の気温が高くなっていることは、「地球温暖化」あるいは「気候変動」と呼ばれている。

それぞれで意味が違うのかというと、基本的には同じ意味だと考えていい。ただ、「地球温暖化」という言葉からは、漠然と地球の気温が上昇するというイメージしか得られないかもしれない。

むしろ、その影響について理解することの方が重要だ。地球の平均気温が上昇していくと、もともと台風や大雨が多い場所では、その規模がより大きくなると予想されている(現在進行形の出来事として、豪雨や巨大台風が日本の各地で多くの被害を引き起こしている)。一方、もともと雨が少ない地域ではさらに雨が少なくなり、干ばつや渇水が起こると予想されている。

あるいは、一見「温暖化」とは矛盾するようだが、1日に降る雪の量も増えると予測されている(年間の降雪量は減る)。温暖化によって空気の温度が高くなり、空気中に含まれる水蒸気の量が増えることで、1日で大量の雪が降る現象、いわゆる「ドカ雪」が多くなると考えられているのだ。

科学者たちの研究の蓄積によって、「地球温暖化」はこのようにさまざまな現象を生じることがわかってきた。そのため、より多く「変化」するというイメージをみんなで共有するためにも、「気候変動」という言葉を覚えておくのもいいだろう。

さて、ここまで気候変動によって起きうる出来事の「予想」を示してきたが、「予想」という言葉を見ると将来のできごとのようで「まだ大丈夫」と思うかもしれない。しかしここ数年は非常に激しい雨に見舞われたり、40℃に近い、あるいはそれを超える非常に暑い日も体験する。地球温暖化の影響を実感しない方が難しいかもしれない。

実際、第6次評価報告書の「政策決定者向け要約」では、現在の地球の気候の現状について、

人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。大気、海洋、雪氷圏及び生物圏において、広範囲かつ急速な変化が現れている。
人為期限の気候変動は、世界中の全ての地域で、多くの気象及び気候の極端現象に既に影響を及ぼしている。

と断定している。

ここで、気候変動の現状についても確認しておこう。

今回のIPCCによって、現在の地球の平均気温は産業革命前から1.07℃上昇しているということが明言された。

この1.07℃の上昇によって、すでに「極端現象」(「極端現象」というのは「異常気象」のことだと考えて差し支えないようだ)が増えている。例えば、1850~1900年の50年間には一度しか起きなかった猛暑の日(50年に一度の猛暑)が来る可能性が、当時(1850~1900年)から比べて1℃上がった現在では、4.8倍に増加している。つまり、50年に一度の異常気象が10年に一度来るようになったということだ。

ちなみにこれからさらに地球の平均気温が高くなっていく場合、

・当時から比べて1.5℃上がった場合、8.6倍に増加=約6年に一度

・当時から比べて2.0℃上がった場合、13.9倍に増加=約4年に一度

となる見込みだ。

この1.07℃の上昇は1850年以降の150年間に引き起こされた。今回の報告書では、この急激な上昇は過去2000年の時間スケールで見ても前例のないものであることが示された。日本に限って言えば、私たちは少子高齢化やテクノロジーの急激な発達とそれによる経済構造の変化というかつて社会が体験したことのない課題にぶつかっているわけだが、それに加えて気候変動という課題も抱えることになる。

では、今回の第6次報告書で報告された影響を、「海面上昇」に絞って見ていきたい。

海面上昇中。しかしまだ序の口。

過去及び将来の温室効果ガスの排出に起因する多くの変化、特に海洋、氷床及び世界海面水位における変化は、百年から千年の時間スケールで不可逆的である。
(『気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書 第1作業部会報告書(自然科学的根拠) 政策決定者向け要約(SMP)の概要(ヘッドライ・ステートメント』より)

地球の気温が上がることにともなって、海面も上昇している。

現在海面(海の表面)の高さは、産業革命の前と比べて世界平均で約20㎝高くなっている。

現時点では日本ではあまり影響を感じないかもしれないが、キリバス、ナウル、ツバルといった小さな島国ではすでに海面上昇の実害を受けている。これらの国では、政府による海外移住計画が検討されており、すでに自主的に移住した人も出てきているそうだ。その数は、キリバス5000人(人口の4%)、ナウル1000人(人口の8%)、ツバル2000人(人口の20%)に上る(『データでわかる 2030年 地球のすがた』夫馬賢治、2020年、日経プレミアシリーズ)。

*キリバス、ナウル、ツバルに住む人々の移住の原因は、海面上昇による浸水や塩害がすべてではない。強いサイクロン等の被害も原因だ。あるいは経済的な理由もあるかもしれない。しかいいずれにせよ気候変動の影響は大きい。

世界平均で「約20㎝」といってもあなどらず、私たちはこういった被害が出ていることをまず認識したい(「世界平均」ということは、20㎝よりもさらに高くなっているところもあれば、そうでないところもあるということだということも理解しておこう)。地球は大きすぎて見えにくいが、想像力を拡大し、生まれたときから住んでいる土地を無慈悲にも追われる人の身になって感じる必要がある。

少し考えてみよう。キリバス等の小さな島国に住んでいる人は、CO2排出に関してはほとんど責任を負っていない。CO2の排出量が多いのは圧倒的にアメリカ、ロシア、日本、ヨーロッパなどの「先進国」であり、そこに中国とインドが加わるという形になっている。小さな島国の人々は、CO2を大量に排出する先進国のツケを払わされているのだ。

もちろん私たち日本人もそうした先進国の一員なのだが、島国の人々の心を理解するために一旦それを棚に上げて考えたい。もし、私たち日本人が、CO2排出量の非常に多いアメリカから「もう日本は沈むので、この国から出て行ったほうがいいです」と言われたらどう思うだろうか。

とはいえ、現在のところ日本に海面上昇の影響はないのだから、「まだ安心」と思えるかもしれない。だがしかし、2100年、そして2300年に生きている世代の人々のことを思えば、私たち日本人も当事者意識を持たざるを得ない。

IPCCは、世界のCO2排出のシナリオを「非常に高い」「高い」「中間」「低い」「非常に低い」の5つに分けてシミュレーションしている。

そして2100年には、「非常に低い」のシナリオで海面は世界平均で約50㎝上昇。「非常に高い」シナリオでは約1m上昇するという予想だ(可能性は低いが、南極の氷の塊が非常に早く溶けた場合には、1.7mの上昇というのも想定される)。

もし、海面が59㎝上昇した場合、東京の江東区・江戸川区・葛飾区などは海中に没する(護岸などで浸水から都市を防御する術を考慮しなかった場合)。それに満潮や高潮が重なった場合、埼玉県の一部までが浸水することになる。大阪も中部地方も59㎝の上昇で沿岸域は沈んでしまう(以上の予測は「沿岸域への影響」『地球温暖化はどれくらい「怖い」か』江守正多+気候シナリオ「実感』プロジェクト影響未来像班 編著、2012年 による)。

もちろん、日本に豊富にある海岸も大きな被害を受ける。30㎝の上昇で(あと10㎝!)全国の砂浜の56.6%が侵食されるという。このままでは、日本の都市や国土も持続可能ではない。そして現在のCO2削減のペースは、「低い」のシナリオにも「非常に低い」のシナリオにも届いていない。

さらに、海面上昇は2300年には「低い」シナリオで0.5~3m、「非常に高い」シナリオで2~7mの上昇が予測されている。最悪のケースでは、15mの上昇もあるかもしれないそうだ。

私はできるだけ人を脅し恐怖におびえさせるような情報発信はしたくないとは思っている。だからまだ人類は間に合う可能性があるということは書いておきたい。

北極の氷と海面上昇について

ここで、ひとつ触れておきたいことがある。

海面上昇に対する反論として、「北極の氷が溶けても、水に浮かんでいる氷が溶ける分には海面の高さは変わらない。だから海面上昇はしない」という主張がある。

温暖化をテーマにした映像やドキュメンタリーなどで、巨大な氷の塊の一部が海に落ちていく映像や、少なくなった氷の上でシロクマが立ち往生しているというショッキングな映像を見たことがあるかもしれない。

そのような映像を見て少なからぬ嫌悪感を抱いた経験のある我々にとって、上記の主張は目を引くものである。実際、私も本をよく読むようになってからこの主張に出会い、「海面上昇はウソだ(ということを知っている自分は、世界の真実をひとつ暴いてやった!)」という考えを持っていたこともある。これは私の黒歴史だ。

しかし、もうわかっているように、これは間違いだ。ただ、ここからフェイクニュースを見破るための教訓を得ることもできる。詳しく見ておきたい。

「北極の氷が溶けても、水に浮かんでいる氷が溶ける分には海面の高さは変わらない。だから海面上昇はしない」という主張を、A(原因)B(結果)に分けて考えてみよう。

A(原因)=北極の氷が溶けても、水に浮かんでいる氷が溶ける分には海面の高さは変わらない。

B(結果)=海面上昇はしない。

実はAの「水に浮かんでいる氷が溶けても、水面の高さは変わらない」というのは「アルキメデスの原理」という物理の法則にもなっていることだ。

だから、A(原因)は正しい。

A(原因)が正しいことに加えて、私のような文系人間にとっては、「科学者の先生が物理の定理を示しながら説明している」ということが、どうにも本当らしく思えて、B(結果)=海面上昇はしない。という主張まで正しいことだと思えてしまったのだ。

だが、A(原因)が正しくても、B(結果)が間違っているということはあり得るのだ。「北極の氷が溶けても、水に浮かんでいる氷が溶ける分には海面の高さは変わらない。だから海面上昇はしない」という主張をしている人は、意図的に海面上昇のデータを示さなかったり、あるいは「世界平均」で20㎝なのだから、海面上昇の数値が小さい場所のデータを持ってきて、「ほら、海面上昇していないでしょう」と示すこともできる。

ただ、地球全体を扱っているデータを見れば、上昇していることは明らかだ。つまりB(結果)は間違っている。

この主張をしていた作者は、A(原因)について、海面上昇をしていないという結論ありきでデータを探していたということになる。

本当は、海面上昇の原因は、

地球の温暖化に伴って海水の温度が上昇しているため、海水が熱膨張を起こして体積が増えていること

南極大陸や、北極にあるグリーンランド(非常に大きな大陸で、約170万平方キロメートルの氷床が乗っかっている。グーグルマップや地球儀で調べてみてほしい)の氷床=氷の塊が溶け出して海に流れ込んでいる

という原因によるのだが、「海面上昇はしていない」という主張をする人は、「北極」という言葉を使うときに、意図的か実際に知らなかったのかは不明だが、グリーンランドを排除している。そして私たち地理や物理に暗い一般人(日本人は理系の比率が非常に低い)が勘違いしてしまうような印象操作を行っているのだ。

また、グリーンランドや南極の氷は増えているという観測結果を持ち出すパターンもあるのだが、全体で見るとグリーンランドと南極の氷床は減っているようだ。これも部分的なデータを持ってきたのではないだろうか。

ここには2つの教訓がある。

1つは、「原因(の一部)」が正しいからといって、「結果」も正しいとは限らないということ。最高の包丁を使っている(=原因の一部)からと言って、最高の料理になる(結果)とは限らないように、ある結果が起きるためには、さまざまな原因が重ね合わさっているのがこの世界というものだ。最高の料理をつくるためには、最高の包丁の他に、最高の料理人、最高の食材、最高の調味料が必要だ。あるいは最高の食器も必要かもしれないし、逆に最高の包丁である必要はないかもしれない。

ただ、私たち一般人は、「論理」という道具の扱い方をしっかりと学んでいないため、多少論理を上手く扱える知識人の言説に、コロッとやられてしまうことがあるのだ。

2つ目は、専門外の知識全般(理科系の知識は特に利用されやすい?)について、私たちは免疫を持っていない、ということだ。例えば、私は20年以上野球をやっている。もし、あなたが野球を全く知らない人だったら「オリンピックの決勝戦で、村上選手が先制のソロホームランを打つことができたのは、ベンチから山田選手が相手ピッチャーに対してディレードスチールをしかけることで心理的に動揺させたからだ」という説明を信じてしまうかもしれない。実際には「ディレードスチール」というのは、通常よりも少し遅い、相手の意表を突いたタイミングで盗塁を仕掛けることだ。これを行うには塁に出ている必要があるので、ベンチから行うことはあり得ない。

ただ、「大学教授」のような肩書を引っ提げて「専門家」として登場した人が専門用語で解説している場合、そしてその人が「こんなことは専門家には当たり前なんだけど」などと言っている場合、私たちは簡単に信じてしまいやすい。そういう無防備な心理状態になりやすいということだ。

ただ、よく見てみると、その人は科学者であっても気候変動については専門家ではないかもしれないのだ。特にYouTubeで情報発信をすることが容易になった時代なのだから、多くの人が専門外のことについてさまざまな発言をしている。情報というのは包丁と同じように注意をして扱わなければならない。いかに頭がよさそうな人でも、そして世の中から支持を勝ち取っているような人でも(フォロワーやチャンネル登録者数、再生回数が多くても)、正しいことを言うとは限らない。感染症に感染するかはわからないけどマスクをするように、自分の専門外の情報に騙されることもあると思って、注意して接しよう。

もちろん、日頃からリテラシーを高めることも必要だ。私たちは人類史上、「情報」に触れる機会が圧倒的に多い時代を生きているのだから、情報と安全に接し、扱えるようになることも、今の時代の「成長」の一要素かもしれない。

今回の報告書で示された世界の気温上昇の予測。そしてリスク

海面上昇を50㎝に抑えるには、CO2排出量が「非常に低い」シナリオに合わせなければならないことは既に触れた。「非常に低い」シナリオというのは、2100年に世界気温の上昇を産業革命前と比べて1.5℃に抑えるというシナリオだ。つまりあと4℃。そのためには、CO2排出量を2030年には現在の約半分に、そして2050年には排出と吸収を合わせて約ゼロに、その後は吸収量の方が多いという状態にもっていかなければならない。

ただ、もう人類はCO2を非常に多く出していつので、今回の報告書で「非常に高い」から「非常に低い」までのどのシナリオでも2030年には1.5℃は超えるという予測が示された(「非常に低い」シナリオでは、一度1.5℃を超えたあとで上昇が止まり、世界平均気温は下降に転じる予想となっている)。

2015年に採択された「パリ協定」では、人類は2100年までの世界平均気温の上昇を2.0℃に抑えること、できれば1.5℃に抑えることが合意された。しかし現状では、各国が公表しているCO2対策を合わせても、「低い」「非常に低い」シナリオには届いていないという。

もしCO2排出量が「標準」以上のシナリオに当てはまる量になった場合についても簡単に見ておこう。一例をあげると、もし2.8℃の上昇した場合(あと1.7℃)、生物種の15~37%で絶滅のリスクが高まると予測されている。

これだけの生物種が絶滅した場合、生態系が変わることで、未知の感染症が人類にもたらされるかもしれない。国連環境計画の調査によると、1940年から2004年までに発生した感染症335のうち、60.3%が動物由来感染症だったという。その原因は生態系の変化による悪影響と言われている。

もちろん、このほかにもリスクはたくさんある(念のため、温暖化することで北国が住みやすくなるなどのメリットもあることは伝えておきたい)。

だから2.0℃、できれば1.5℃で収めたい。人類はそこに、持続可能な世界に向かう。

そのためにも、IPCCで気候変動に関する報告書をつくってきた科学者のメッセージを、誠実な心で受け取りたい。自分のために、子どものために、大切な人のために、より豊かな未来のために。


 月齢9の日、記録的な大雨の日本列島で。


参考(拾い読み含む)

▲動画

・【速報版】IPCC執筆者が独自解説!「気候変動 国連最新レポート」(YouTube 国立環境研究所動画チャンネル)

*この記事は、こちらの動画の内容の多くを土台として作成しています。IPCCの報告書の執筆者である江守正多さんに感謝します。

【ともだちに話したくなる!地球温暖化のリアル】第1回 地球温暖化のウソ?ホント?(YouTube 国立環境研究所動画チャンネル)

【ともだちに話したくなる!地球温暖化のリアル】第2回 温暖化ってヤバいの?(YouTube 国立環境研究所動画チャンネル)

▲書籍

・『地球温暖化はどれくらい「怖い」か?』(江守正多+気候シナリオ「実感」プロジェクト影響未来像班 編著、2012年、技術評論社)

・『地球温暖化の予測は「正しい」か?不確かな未来に科学が挑む』(江守正多、2008年、DOJIN選書)

・『データでわかる 2030年 地球のすがた』(夫馬賢治、2020年、日経プレミアシリーズ)

・『地球温暖化は解決できるのか パリ協定から未来へ!』(小西雅子、2016年、岩波ジュニア新書)

・『人類と気候の10万年史』(中川毅、2017年、講談社ブルーバックス)

・『気象学入門』(古川武彦・大木勇人、2011年、講談社ブルーバックス)

・『地球温暖化で雪は減るのか増えるのか問題』(川瀬宏明、2019年、ベレ出版)

・『トコトンやさしい異常気象の本』(一般財団法人日本気象協会 編、2017年、日刊工業新聞社)

・『人新生の「資本論」』(斎藤幸平、2020年、集英社)

・『地球温暖化は本当か?』(矢沢潔、2007年、技術評論社)

・『偽善エコロジー―「環境生活」が地球を破壊する』(武田邦彦、2008年、幻冬舎)

▲webで読むことができる資料

『気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書 第1作業部会報告書(自然科学的根拠) 政策決定者向け要約(SMP)の概要(ヘッドライ・ステートメント』

IPCC報告書からの「希望」のメッセージ – 地球温暖化を抑えるために今できること (HP 『国際環境NGPグリーンピース』のブログより)




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