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転校生は巨獣と微睡む

「グッド・アフタヌーン、吾が友」

 目の前にいる、見目の良い男はニヤニヤしながら大仰に両腕を広げる。
 長い白髪を一つに束ね、赤いロングコートを着た姿は、漫画に出てくる登場人物めいている。


 僕の夢に何度も出てきた男で、顔見知りだ。
 夢の中でって注釈をつければ、だけど。
 で、今は真っ昼間の午後四時で、僕は下校の真っ最中。

 そして、僕は殆どの人間とおなじで、映画と違って夢と現実の見分けくらいつく。

「トマリ、僕って夢遊病だっけ」
「吾の知っている限りでは違う」
「だよね」

 転校したての僕にとっての親しい人物が、夢の中からコイツだけだという事実で泣けてくる。

 アスファルトから、カラフルなアルパカでも生えてきてくれれば、単なる夢だって言ってのけられたのに、その気配は微塵もない。

「お前が出てきたって事は」

 僕の記憶の断片が全部詰め込まれたレム睡眠の世界。
 その混乱して超現実的な無秩序をこんなに恋しくなる事なんてなかった。

「昨日の夢が本当ってこと?」
「そうだとも」

 我が意を得たりと、トマリは指を鳴らした。
 舞台上の奇術師だってこんなにキザじゃない。


 夢の世界の住人が現実に居る状況を飲み込めるのは、覚えていないだけでもっと多くの時間をトマリと過ごしているからだろう。
 寝ているときの夢って、起きると殆ど忘れるらしいから。


「僕の通う学校と通学路のある、この山自体が、クソバカでっかい怪獣で。今にも目覚めそうだなんて」

 流石に荒唐無稽すぎる、トマリと同じくらい。

「なんで、僕なんかに言うのさ」

 雰囲気V系バンド男が、絶望的な一言を紡いだ。

「お前が、唯一の『転校生』でトマリ・サンドマンの友人だからだ」

 次の瞬間、無駄に偉そうな阿呆の顔へ、僕は拳をめり込ませていた。

 右ストレートで吹き飛ぶトマリと、確かに人を殴った感覚が残る手の甲が、これが現実だと痛いくらいに訴えてくる。

 現実ってのは本当にナンセンスだ。

【続く】

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