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国際政治の道具と化しているアマゾン熱帯雨林の火災問題(1)

この数日間でSNSを中心に爆発的に画像やコメントが拡散し、日本のニュースにも取り上げられるようになった、アマゾン熱帯雨林の森林火災。アマゾンで大規模な山火事が起きているというニュースが流れ、早く火を消さなきゃ大変!という反応をされた方が多いと思います。

しかし、アマゾンの熱帯雨林保護をめぐっては、実は1年前ほどから欧州諸国とブラジルの間にくすぶりがありました

これが一気に爆発したのがこの数日間の話だったというわけなのですが、残念ながらその辺りの経緯は、日本社会にはきちんと伝わっていないようです。

一方でこの問題をブラジル国内から見ている私からすると、アマゾン熱帯雨林がすっかりイデオロギー対立と国際政治、そして貿易戦争の道具と化してしまっている感があります。

今回、どうしてこのような騒ぎになっているのかの経緯と、ブラジル国内からのこの問題の見え方を、数回に分けて記していきます。

森林破壊は今に始まったことではない

まず、アマゾン熱帯雨林の伐採や森林火災は今に始まったことではなく、常に起きているという認識が大事になってきます。

下図は、ブラジル国立宇宙研究所(INPE)が公表している衛星による国内の林野火災の検知件数です。

年によって波がありますが、2006年以降は比較的件数が減っていることが分かります。気候の影響を受けての増減はあるとはいえ、このように林野火災そのものはブラジルでは常に起こっているもので、珍しいものではありません

2019年について見てみます。年初から8月22日の時点で、すでに年間76,000件を突破しており、確かに今年は例年よりも件数の多い年となりそうです。ただ、ブラジルの国土の大半が10月に乾季から雨季に入るため、年間を通じて今のペースで火災が発生し続けることは、通常ならばあまり考えられません。例年通りなら8, 9月がピークとなります。

個人的に1つ気になっているのが、今年に入ってから検知された火災76,000件余りについて、その約半分にあたる49,000件が今月1~21日の間だけに検知されているという点です。火災のピークの時期であることを考慮しても、これは2018年の年間件数を遥かに超えています。

なおこの76,000件という数字には、ブラジルの他の植生(セラード、大西洋岸林、パンパなど)で検知された火災の件数も含まれていることにも注意が必要です。

そこでアマゾン地域のみの火災検知件数を抜き出してみましょう。年初から2019年8月21日までの火災検知件数のうち、アマゾン地域で検知された火災の件数は、全体の65%だったと言います。つまり、この8月のわずか3週間の間に30,000件の火災がアマゾン地域で検知されたことになります。

ちなみに、アマゾン地域の火災件数が全国総数の65%にまで達したとありますが、過去最もその割合の大きかった2005年8月の46%よりもずっと高い数字です。つまり、今月はアマゾン地域での火災が集中的に起きていると言えます。

アマゾン地域の森林伐採にブラジル国内で大きく注目が集まったのは、8月初頭でした。その後、世界で大々的に報じられるようになったのはこの数日の話です。私の疑問は、なぜ敢えてそのようなタイミングで、今も森に火が放たれて続けているのか?あるいは延焼によって検知数が増えたものなのか?ということ。この点の検証は数字を追うだけでは不明となっています。

続いて、ブラジル環境省の統計でアマゾン地域における1994年以降の森林伐採面積の推移を見てみます。

27,772平方キロを失った2004年と比較して、2018年(速報値)は4分の1程度の7,900平方キロとなっています。比較参考までに、2004年は関東地方から千葉県を除いたくらいの面積、2018年にはおよそ静岡県くらいの面積の森林が伐採されたことになります。

森林伐採と火災には強い相関性がある

今、ニュースで話題になっているのは森林火災ですが、森林の伐採と火災にはどういう関係があるのでしょうか?

実は、森林伐採面積と検知された火災発生件数には、過去の統計から強い相関性があることが明らかになっています

森林を農地や牧草地にする際の流れは、大きく2段階からなります。

まず電動のこぎり等で樹木を切り倒し、時にはブルドーザー等の重機なども用いて根を掘り起こします。違法伐採である場合には、経済的価値のある木材は闇市場で取引されます。続いて、土地利用のための準備として伐採後の土地に火を放ち、葉や枝など地上の有機物を焼却します。雨期には火が付きにくいので、乾季に集中的に燃やすことになります。そのため、乾季に火災検知件数が増加します。

そうして利用のための準備が整った土地は、傾斜地であれば牧草地に、平らであれば穀物の農地となります。牧草地になった後も、粗放牧の場合は、乾季の少雨で乾燥しもはや家畜の食料とならない草藁を除去する目的で火を放って処理することがあります。これも火災検知の対象となります。

いずれの場合も、放たれた火が当初想定していた区画以上に広がり、手が付けられなくなることで、より規模の大きい森林火災へと発展することもあります。

このように、森林の伐採と火災は切っても切り離せないものです。森林火災の件数が例年よりも多い今年は、森林破壊もそれなりに進んでいるということになります。

ブラジル国内では、それが8月頭にデータで明らかになりました。その後火災の増加に伴い、アマゾン熱帯雨林が危機的状況にあるとして国際社会の注目を一気に集めるようになって今に至っています。


次回(2)では、こうした森林破壊のデータ上の変化が見られたにせよ、なぜ今のタイミングで改めてアマゾン熱帯雨林がクローズアップされるに至ったのか、1年前からくすぶっていたその前からの経緯をもう少し詳しく記します。

何回かに分けて投稿していきますが、最終的には今後考えられるビジネスへの影響まで考察を進めていきたいと考えています。


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