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技術士(経営工学・情報工学)が教えるDX(デジタルトランスフォーメーション)講座1 DXの流行に思うこと

 DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉がはやりだしたなと思ったら、あっという間にたくさんの本やセミナーが出てきて、ITにあれだけ消極的だった中小企業の経営者でさえDXは知っているとおっしゃります。しかし、そこで聞こえてくる話のほとんどがIT化であったり、せいぜいクラウド化だったりします。DXの中のDだけ取り出した「デジタル化」にすぎません。

 そうかと思えば、反対にDXの中のXだけを取り出して「イノベーション」の必要性を訴えるコンサルタントもおられます。でもそれでは、以前から言われてきたことと何も変わりはしません。それならばと少しだけDを付け加えたXの必要性をとなえるコンサルタントがRPAやERPを活用することを勧めるのですが、それらは当たり前のITであって目新しさは何もありません。新しければなんでもいいと言うわけではありませんが、当たり前のITを使って当たり前のビジネス改善をやったところで、いつまでたってもグーグルやアマゾンには勝てませんし、ユニコーンと呼ばれるDX当たり前のベンチャー企業にも抜かれていく運命にあるといっても過言ではありません。

 現時点での最先端ITということであれば、IoTやノーコード・ローコード開発ツール、BI、ブロックチェーン、AIなどがそれにあたり、こうした最先端ITを駆使した上で、新しいビジネスモデルへと変態(トランスフォーメーション)していくことが大急ぎで必要なのです。しかし、AIのような最先端のITですら、いずれ枯れた技術になっていくことでしょう。もはやAIもノーコード化の動きをみえており、AIプログラマーですら職を失っていく恐れがあります。最先端を走っているはずのIT業界ですらビジネスモデルどころか産業全体が変態し、昨年(先月、昨日かも)の仕事はもうなくなっているということが起こりはじめています。

 DXの影響は企業だけにとどまりません。社員の立場も大きく変動し始めています。急速に変貌するビジネスモデルや産業構造の中で必要とされる人材ニーズも激変し、職を失う人とオファーが殺到する人に二分されていくことが推測されるのです。ルーチンワークを繰り返すだけの営業担当者や事務員、工場要員、さらには技術者、高度な専門職であっても、みんな同じです。多くの仕事がRPAやAI、ロボットに奪われていく運命にあります。

 反対にこれからはどうあるべきか、もっとよくするにはどうしたらいいのかを考え、行動できる人にはWantedly(ウォンテッドリー)からスカウトが集まることでしょう。しかし、そのためには意識が高いだけでは足りません。今まで苦労して築き上げた知識やスキル、経験であっても、新しい時代に合わないと思えば思い切って捨て去り、新しい知識やスキルを勉強し続けなければならないのです。

 これからどんな新しいITが出てくるのか、革新的な経営技法が出てくるのかは予測がつきません。しかし、そんな不確定なDXであっても、根本的に変わらない原理原則のようなものがきっとあるはずです。実はそれは、顧客共創マーケティングやサプライチェーンマネジメント(バリューチェン、エコシステムという言い方の方がこれからは適切かもしれません。)、GAFAが取り組むリーン・シックスシグマも昔からあった考え方が発展したものであり、日本が得意としてきた分野でもあります。DXへの取り組みでは、こうしたDXの原理原則をおさえた上で、最先端のITを駆使することによって、どのような変態(トランスフォーメーション)が企業やさらには人にとって可能になるのかを考えていくことが必要になります。そしてそれが企業や人、社会にとって幸せなことなのかを考えることができる人こそDXの旗振り役になっていくべきなのです。

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