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技術士(経営工学・情報工学)が教えるDX(デジタルトランスフォーメーション)講座23デジタライゼーション(①SoR)の実践-部署で閉じる業務システムから部署横断、企業連携する業務システムへ-

販売管理や生産管理システムなどの業務システムは、その規模の大小はあるとしても多くの企業で導入されています。わざわざDXの必要性を持ち出さなくても、既存の業務システムが老朽化し、再構築の必要性に迫られている企業が少なくありません。DXにまだ取り組んでいない企業であっても、古いシステムが保守できなくなる「2025年の崖」の現実感がますます強まってきていることでしょう。

 「2025年の崖」の元となった2025年末でのSAPのサポート切れは、2027年末に延長されました。このことが意味するのは、喜ばしいことではなく、2025年末までに古いSAPからの脱却に間に合わない企業が多すぎて切り捨てられないという残念な事情があるということです。大元のSAP社はDX推進のリーダーとして、クラウドベースの新しいソリューションを展開したいにも関わらず、旧来からのSAPユーザに足を引っ張られるというのは何とも皮肉なことです。

 本来、標準的な業務パッケージソフトであるERPとして代表的なSAPを利用しているユーザ企業であれば、業務の標準化を志向するDXの推進はやりやすいと思われますが、実は、SAPユーザのほとんどがSAPをそのまま利用せず、自社の事情に合わせてカスタマイズしているため、SAPをバージョンアップすることが困難になっているのです。

 最新のSAPソリューションでは、カスタマイズによってシステムがブラックボックス化することを避けるために、業務をパッケージに合わせて利用する「Fit to Standard」の考えを徹底しており、どうしてもカスタマイズせざるを得ない場合であっても、コアとなるSAPには手を入れず、周辺にアドオン開発する「Core Clean」を推進しています。

 SAPなどERP導入のメリットは本来、ERP導入同士の企業であれば、システム連携が容易という点にありました。DX推進においてもERP導入企業にとっては有利だったはずです。しかし、現実にはERPを標準のままで利用している企業はありません。DX推進において、最もデジタル化できていると思われる「SoR」の分野が一番やっかいな存在になっているのです。

 健全な「SoR」を実現させるためには、業務システムという概念についてユーザ企業もITベンダーも一から見直す必要があります。業務システムの要件定義や基本設計において、ヒアリング対象となるメインユーザは業務の担当部署です。しかし、そもそもその業務を必要としているのは担当部署ではなく、その業務の成果を必要とする顧客あるいは社内顧客としての他部署のはずです。ユーザ企業もITベンダーも聞くべき相手をずっと間違えてきたのです。

 「記録のためのシステム」であるSoRも、その本質は「関係のためのシステム」であるSoEに行き着きます。全てのデータは連携しており、部署間でフィードフォワードとフィードバックされるべきものです。ビジネス機能が一社だけで完結できないことを考えれば、データをフィードフォワード、フィードバックさせる関係先はサプライチェーン全体に広がっていくことは必然なのです。

 DX推進において、「D」であるデジタル化の方法や手段はSAP社などから次々と提供が始まっています。DX推進の障害となっているのは、「X」の方であり、企業連携どころか隣の部署との連携すらできていないユーザ企業側にあります。
 ITの問題はシステム部門やITに強い社員にまかせようという考えは大きな間違いです。DX推進において、大切なことは顧客価値を最大化するために、どうやって業務を組み立てるかを考えることにあります。ただデジタル化するだけでは、従来の業務システムと同じ失敗を繰り返すだけです。

 棚卸しは店の仕事、決算は経理の仕事、工場の掃除は製造の仕事でよいのでしょうか。全ての仕事は連携しており、「おかげさまで」という気持ちを持って、他部署の仕事を理解すること、協力することから始めてみてはどうでしょうか。

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