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技術士(経営工学・情報工学)が教えるDX(デジタルトランスフォーメーション)講座10 DXのファーストステップ-デジタイゼーションによる情報の電子化

 前回まででなぜDXが必要なのか、DXとは何を目指すものなのかについて詳しく述べてきました。今回からは、DXの進め方としてDXの三つのステージである、①デジタイゼーション(Digitization)、②デジタライゼーション(Digitalization)、③デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)のそれぞれについて解説していきます。

 DXの進めるにあたっては、急激に変化する内外の経営環境に対応していくため、IT利用によって圧倒的な競争優位を持つ欧米企業に追いつくために、スピードと割り切りが不可欠になります。場合によっては、古いシステムもしばらくは使い続けられるのであれば、あえてそのままにして、ローコード・ノーコードツールを使って革新的なシステム開発をするという選択もあり得るでしょう。その古いシステムが2025年の壁を超えられないほどに老朽化していないことが前提にはなりますが。

今回から、デジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーションのそれぞれについて詳しく説明していきますが、まずは、その全体像についてお話ししたいと思います。デジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーションの定義は必ずしも確立しているわけではなく、様々なものが存在するのですが、ここでも経済産業省の定義をご紹介したいと思います。経済産業省の「DXレポート2」では、これら三つの定義について、以下のように述べています。

「デジタイゼーションは、アナログ・物理データの単純なデジタルデータ化のことであり、典型的には、紙文書の電子化である。デジタライゼーションは個別業務・プロセスのデジタル化であり、さらに、デジタルトランスフォーメーションは全社的な業務・プロセスのデジタル化、および顧客起点の価値創造のために事業やビジネスモデルを変革することである。」

 今回は、一つ目のデジタイゼーションについて見ていきます。デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーションについては、次回以降に解説することにします。

デジタイゼーションとは、アナログ・物理データをデジタルデータ化することであり、要するに紙文書の電子化のことを意味します。手書き情報のままでは生産性は上がりません。文書を書き直すにも、再計算するにも手間がかかります。紙の伝票を並び替えるのも集計するのも時間がかかります。デジタルデータであれば、RPAツールで事務作業を自動化することも、AIによる将来予測や自動判別すら可能になります。

デジタイゼーションは、高度なデジタル活用に向けた第一歩であり、DXのための登竜門と言えるものです。しかし、現実は簡単な話ではありません。情報システムが整備され、社員一人にパソコン一台が確保されているという企業であっても、手書きのままの資料は山ほど残っているはずです。しかも、その残った手書き資料ほど業務や経営に重要な意味を持つものだったりします。

工場の作業記録や品質保証部の品質記録など、電子フォーム化が容易ではない複雑な様式になっている手書き資料はないでしょうか。様式が決まっている資料でも、属人的あるいは部署内の都合しか考えていないような部分最適なものは、全社視点から全体最適のための標準化が必要になります。

すでに電子化されている場合でも、改めてデジタイゼーションについて考えないといけない場合もあります。それはExcelファイルなどです。MicrosoftTeamsやGoogle Workspaceを導入していて、ExcelファイルやGoogle スプレッドシートを共有できている場合でも、様式やデータ項目は作成者によってバラバラというのでは、次のデジタライゼーションに進むことが困難になってしまいます。

 おそらく、多くの会社では手書き資料のデジタル化が課題になるよりも、長年決まりなく社員が自由に作成し続けてきたExcelファイルやGoogle スプレッドシートを標準化することの方が大変なのではないでしょうか。ファイルサーバには使われなくなったExcelファイルが山ほど残っているというケースを何度も目にしたことがあります。

 DXの初めの一歩であるデジタイゼーションの「意味」は簡単である反面、膨大に膨れ上がった手書き文書や属人的なExcelファイルを棚卸しして、標準化するという5Sの整理整頓を徹底しないといけないという「実行」については容易なことではないのです。

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