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政治講座ⅴ270「武士の『武』は『戈』と『止』の合意で武器を手に戦いに行くとあるが『戈』を『止める』も読める。『武』は抑止力。『ライフル』と『核兵器』を論ずる。&ソ連崩壊後の現在に至るウクライナの顛末」

 武器(ライフル)は被害を拡大させる要素ではあるが、乱射事件は、「ライフル」が悪いのか使用した「人間」が悪いのか、の議論がない。「ライフル」が悪者扱いになっているが、本質を捉えず、議論しても解決にはならない。「人間」に焦点を当てて事件を検証すべきと毎回報道記事から思う。そして、事件を起こした者が射殺されてthe end になっている報道が多い。社会的に病理があるのか、当の個人に病理があるのか、薬物依存者なのか、八つ当たり的激情によるものなのか、家庭環境に起因するものなのか、友人関係に起因するものなのか、恋愛のもつれに起因するものなのか。
人間は元来、好戦的な動物である。戦いを好み、戦いを楽しむ趣向がある。一般の猛獣は無駄な攻撃はしない。生命維持のための獲物を食べるためだけに殺す。無駄な殺戮は行われない。しかし、人間は、ハンターで「殺すこと」を娯楽として楽しむ趣向がある。ロシアのウクライナ侵攻は「大量殺人」である。プーチンは戦争ゲームを楽しんでいるように見える。戦車が悪いのか、それを使う人間が悪いのか。ライフルが悪いのかそれを使う人間が悪いのか。このように、好戦的な武器を持った人間から身を守るためにはどうするべきか武装して、抑止力を持たなければならない。米国の独立の歴史は権力者との闘いであった。そして、得た自由の権利であった。ヨーロッパにも奴隷制度が存在していた。植民地は奴隷制度の延長線上にあることは歴史からも明らかである。そのような抑圧された民衆が武器を取り対抗した歴史から考えると、武器は唯一の権利保全の手段である。不心得者ライフルを持ってが暴れ回ろうが、「銃の保持」の信念は変わらないのである。
そして、核兵器も同様であろう。武装していない弱い国は侵略されるのである。それがロシアのウクライナ侵攻が証明している。ソ連崩壊の時に、核兵器はウクライナに保管されていたが、ロシアに核兵器の保管を移した結果が安易にロシアのウクライナ侵攻を許すことになったのである。今回は、「ライフル」と「核」とソ連崩壊後のウクライナの顛末について報道記事から論じる。

         皇紀2682年7月6日
         さいたま市桜区
         政治研究者 田村 司

はじめに

 戦後処理の大失敗は「東京裁判」であった。何故ならば、戦争犯罪として裁かれるべきは米国であるからである。非戦闘員の虐殺として、広島・長崎への原爆投下や大都市圏への非戦闘員へのB29による空爆、これらすべて戦争犯罪であった。これを裁かずに勝者の理論の押し付けが今の国連であり、今般のロシアのウクライナ侵攻にも無力であり、挙句の果てにロシアの核兵器の恫喝まで飛び出す始末である。
 「ライフル」は米国の国内問題であるが、「核兵器」も米国が非戦闘員の大量虐殺を日本が侵略戦争という濡れ衣を着せて自国の国際法違反をうやむやにしたことに起因する。戦勝国であろうと、国際法違反で裁かれているならば「核」を以ても使えない兵器になっていたであろう。ルーズベルト大統領とトルーマン大統領は我が歴史法廷に於いては有罪である。Guilty!   Hang !  縛り首
ウクライナが世界中に武器の支援を切望しているのはソ連崩壊後に経済的理由から武器を売却や廃棄をしたからである。

まず、ライフル射撃事件と取り上げる

屋上から高性能ライフル銃を発砲か 米独立記念日パレード銃乱射

毎日新聞 2022/07/05 08:32

© 毎日新聞 提供独立記念日のパレードで起きた銃乱射事件を受け、
逃走した容疑者を捜す当局者=
米中西部イリノイ州ハイランドパークで2022年7月4日、AP

 米中西部イリノイ州シカゴ近郊のハイランドパークで4日、独立記念日を祝うパレードの最中に銃乱射事件が起き、ロイター通信によると、少なくとも6人が死亡、36人以上が負傷した。警察は同日夕、重要参考人として行方を追っていた22歳の男性を拘束した。記者会見した警察などによると、容疑者は近くの建物の屋上からパレードに向かって発砲し、現場から逃走したという。単独行動とみられ、現場からは「高性能のライフル銃」(当局者)が押収された。建物の屋上にはハシゴで上れるようになっていた。警察は「(容疑者は)武装しているとみられ、危険だ」として、周辺住民に警戒を呼びかけていた。米メディアによると、銃撃はパレードの4分の3が終わった午前10時15分ごろに起きた。夏休み中の子供も参加しており、銃声を聞いて数百人が逃げ惑った。独立記念日の祝賀ムードは暗転し、沿道にはベビーカーや簡易椅子などが散乱した。現場にいた人は、最初は「花火の音」だと思ったが、銃撃だと聞いて「(銃撃があった場所と)反対の方向に走った」と話した。
米国では南部テキサス州ユバルディの小学校で児童ら21人が殺害されるなど銃乱射事件が続いている。バイデン大統領は声明を発表し、6月に本格的な銃規制法が28年ぶりに成立したことに触れた上で「やるべきことはたくさんある。銃暴力のまん延との闘いをあきらめない」と強調した。246回目となる独立記念日の4日夜は、ニューヨークなど全米各地で花火大会などが予定され、事件があったイリノイ州を拠点とする米大リーグ・ホワイトソックスは、同日夜の試合後に予定していた花火の打ち上げを取りやめると発表した。ハイランドパークは、シカゴの北約35キロに位置する。【ニューヨーク隅俊之】

米乱射容疑者、女装姿で逃走 数週間前から犯行計画か

AFPBB News 2022/07/06 04:4

© MAX HERMAN / AFP 米乱射容疑者、
女装姿で逃走 数週間前から犯行計画か

【AFP=時事】米中西部イリノイ州シカゴ郊外のハイランドパークの独立記念日パレードで起きた銃乱射事件で、地元警察は5日、逮捕された容疑者の男が数週間前から犯行を計画し、事件当日は逃走を容易にするため女装していたとみられることを明らかにした。

© MAX HERMAN / AFP

米乱射容疑者、女装姿で逃走 数週間前から犯行計画か

 4日に起きた事件では6人が死亡し、30人以上が負傷。

 地元警察当局は5日、動機は明らかになっていないとしつつも、犯行は数週間前から計画されていたとの見解を表明。容疑者は非常階段を使って現場近くの建物の屋上に侵入し、70発以上発砲したと説明した。

発生から約8時間後、ロバート・クリモ容疑者が逮捕された。

© AFP PHOTO / HANDOUT / City of Highland Park 米乱射容疑者、
女装姿で逃走 数週間前から犯行計画か


© MAX HERMAN / AFP 米乱射容疑者、
女装姿で逃走 数週間前から犯行計画か

 容疑者は犯行時に女性用の服を着ており、顔のタトゥーと身元を隠し現場から逃れる人々に紛れて逃げやすくすることが目的だったとみられる。犯行に使用した銃は「AR15型半自動小銃に似た」ライフルで、合法的に購入したものだったという。

© MAX HERMAN / AFP 米乱射容疑者、
女装姿で逃走 数週間前から犯行計画か

 クリモ容疑者はハイランドパーク近郊のハイウッド在住。「アウェーク・ザ・ラッパー」という名前でアマチュアミュージシャンとして活動しており、眉の上に「Awake」という文字のタトゥーを入れている。父親はハイランドパークで食品店を経営しており、過去に同市長選に出馬して落選していた。(c)AFP/Robin LEGRAND

© MAX HERMAN / AFP 米乱射容疑者、
女装姿で逃走 数週間前から犯行計画か【翻訳編集】AFPBB News


© Youngrae Kim / AFP 米乱射容疑者、
女装姿で逃走 数週間前から犯行計画か


イリノイ州の銃乱射事件、22歳の男の身柄を確保 殺傷能力の高い「ハイパワーライフル」使用か

2022/07/05 09:46

 アメリカ・イリノイ州で独立記念日のパレードの参加者6人が死亡した銃乱射事件で、警察が指名手配した22歳の男が先ほど、身柄を確保された。
ロバート・クリモ容疑者(22)は4日、シカゴ近郊で独立記念日のパレード参加者にライフル銃を乱射して6人を殺害し、数十人にけがを負わせた疑いがもたれている。クリモ容疑者は逃走していましたが、先ほど、警察が身柄を確保した。
クリモ容疑者はビルの屋上から銃を乱射したとみられ、計画的な犯行だった可能性もある。また、現場から押収された銃は、殺傷能力がより高いハイパワーライフルという種類だったことが警察への取材で分かった。
アメリカでは今年だけで銃乱射事件が既に308件起きている。(ANNニュース)


テキサス州の新法律:拳銃を隠さずに公共の場で所有可能

September 23, 2021

テキサス州の新法律により、9月1日からテキサス住民は銃を隠さずに公共の場で所有ができるようになった。銃を保持するために、許可やトレーニングも不要だ。これにより、警察など法執行機関が銃による犯罪から庶民を守るのがさらに難しくなった、と専門家は話している。この法律は同州の議員らが銃を支持する法案を次々と通過させていて、そのうちの一つだ。

自殺を除く銃による事件は、2020年に比べ14%増加(およそ3,200件)していて、2019年に比べると50%の増加だ。
保守派の活動からは長年にわたって無許可で銃を保持できるよう活動してきたが、今回とうとうアボット知事が法案に署名し、6月に法律となった。テキサス州の21歳以上の住民なら、重罪、暴行、家庭内暴力、テロの脅威で有罪判決を受けた者を除いて、誰でも銃を合法に所有することができる
同法律以前は、ライセンスを持っている者のみが拳銃を所有できたが、トレーニングを完了し、筆記と技能試験に合格する必要があった。
アイオワ、テネシー、モンタナ、ユタ、ワイオミングは、既に許可なしで銃を所有できる法律を施行していて、テキサスは今回これらの保守的な州に加わったことになる。
現在40以上の州で、弾が入った、セミオートマチック(半自動)ライフルをライセンスまたはトレーニングなしで所有できる。カリフォルニア、ワシントンD Cを含む5つの州では、長距離銃を隠さずに所有できる。
今年初めに、テキサス州の法執行機関のオフィシャルらが同法案に反対する意思を発表。最低限度でも何らかのトレーニングを行うべきだと主張した。警察官や住民をさらに危険にさらすといい、米国憲法修正第二条に基づいて人々が銃を所有する権利があるのは理解できるが、所有者は何らかの安全を確認するプロセスを踏むべきだ、と主張した。少なくとも一人の武装した個人が関与するデモでは、16%の確率で暴力的または破壊的な事件につながる、という研究結果も出ている。さらに、武装した抗議は、武装してない抗議と比較して、暴力的または破壊的になる可能性が6倍であることもわかっている。

「おまえらはみな死ぬんだ」と乱射 生徒は死者の血を塗り死んだふり 米学校銃撃事件の背後にある同調圧力

飯塚真紀子在米ジャーナリスト

5/29(日) 8:11

 小学生19人、教師2人が亡くなった米テキサス州の小学校銃乱射事件。

 地元の高校に通うサルバドール・ラモス容疑者(18歳)は5月16日の誕生日後に購入した銃で、同容疑者が高校を卒業できなかったことをめぐって口論になっていたという祖母(66歳)の顔を撃った後、自宅近くにあるロブ小学校に行き、4年生の教室でバリケードを作って、銃を乱射した。ラモス容疑者は現場に突入した警官と銃撃戦の末、射殺された。 今、現場を目の当たりにした生徒たちが、ラモス容疑者の銃乱射時の状況を語り始めている。

生徒たちは死んだふり

 生徒のサミュエル・サリナス君(10歳)は、ABCテレビのGood Morning Americaというモーニングショーで、銃乱射時の状況をこう話している。「彼(ラモス容疑者)は教室に入るとドアを閉め、『おまえらはみな死ぬんだ』と言った。先生を撃ち、それから生徒を撃った。彼が僕を狙っていた。でも、銃弾は、彼と僕の間にあった椅子に当たり、銃弾の破片が僕の腿に当たった。僕は撃たれないよう、死んだふりをした。他の生徒たちも同じようにしていた。床には子供たちが倒れていて、たくさんの血が流れていた」
撃たれて亡くなった生徒から流れ出た血。CNNは、隣で亡くなっている同級生の血を身体中に塗って死んだふりをした女子生徒もいたと報じている。また、撃たれて倒れている女子生徒の上に覆いかぶさり、2人とも撃たれたように見せかけてサバイブした女子生徒もいるという。

ひどいイジメにあっていた

 ラモス容疑者はなぜこんな惨劇を起こすに至ったのか?彼のことを知る友人や親類が、米メディアにラモス容疑者について話しているが、そこからはイジメという問題が浮かび上がってくる。
ラモス容疑者はミドルスクールや中学校時代、吃音という言語障害があることや舌足らずの発音でイジメられ、学校に行くのがいやだと話していたという。「彼はひどいいじめにあっていた。たくさんの人にいじめられていた。ソーシャルメディアやゲームなどすべてで」とラモス容疑者の親友だったという人物が米紙ワシントン・ポストでコメントしている。
ラモス容疑者は、着ている服や家庭の経済状況をめぐってもいじめられていたようだ。黒い服を全身にまとい、軍隊用のブーツを履いていたという。事件当日もラモス容疑者は黒い服を着ていた。また、黒いアイライナーを入れた画像をSNSに投稿したこともあり、それに対して、ゲイの蔑称入りのコメントをつけられたこともあったという。ナイフで自分の顔を傷つけたこともあり、その理由を友人に問われると「楽しいからやったんだ」と答えていたという。SNSには銃の画像も投稿していた。孤立していたラモス容疑者はだんだん不登校になっていった。
また、ラモス容疑者の家庭は隣人も心配するほど荒れておりドラッグ問題を抱えているという母親と警官がかけつけて来ることもあるほどの喧嘩をしたこともあったようだ。母親を罵っている動画をインスタビデオに投稿したこともあったとも報じられている。

銃乱射事件の背後にある同調圧力

 黒い服というと、思い出すのは、1999年にコロラド州で起きたコロンバイン高校銃撃事件の犯人エリックとディランが黒いトレンチコートを着て学校に通っていたこと。2人は“トレンチコート・マフィア”という、メイン・ストリームから外れていたグループの一員で、生徒たちから気持ち悪い、非常に違っている異様な存在だとみなされ、からかわれたり、仲間はずれにされたりしていた。実際、米国でこれまで起きてきた学校銃乱射事件を振り返ると、その背後には“違っている存在”だと周囲の生徒たちから見られて、からかわれたり、いじめられたりしていたという状況が横たわっている。
拙著『そしてぼくは銃口を向けた』で取材した、アラスカ州べセル高校銃乱射事件の銃撃犯エヴァン・ラムジーは「他の生徒たちと違っているから、いじめられていた。学校ではいつも孤独だった。いじめられるので、学校に行くのがいやになり、さぼるようになった」と筆者に話した。

べセル高校の教師たちも、筆者にこう指摘した。

「いじめの原因は、ルックスがおかしいとか、服装がみんなと違うとか、にきびがいやだとか、成績が良くないとか、良い友達と一緒にいないとか、親がどうだとかいろいろあります。生徒同士がそういうのを細かくチェックしていて、何か違うといじめの対象になるのです。ピア・プレッシャー(同調圧力)と言うんですが、子供たちの間には、“みんな一緒でなくてはならない、ある一定の枠に当てはまらなくてはならない”という暗黙のルールみたいなものがあるんです」

「着ている服や聴く音楽、ヘアスタイル、考え方、行動が、周囲の子供たちとは大きく違っている子供たちは、メイン・ストリームにフィット・イン(適合)していないと見なされ、学校ではいじめられる傾向があります。特に、ハイスクール時代はピア・プレッシャー(同調圧力)が強く、子供たちは違いを受け入れない傾向があります」

様々な人種や背景の人々で構成されている米国は、同調圧力が強い日本社会とは違い、個人の違いを個性として尊重し、多様性を重視する社会だと考えられているが必ずしもそうではないのだ。米国の学校銃乱射事件は、米国にも違いを受け入れない同調圧力が存在していることを証明している。言い換えると、米国には違いを受け入れない同調圧力が存在しているからこそ、多様性を尊重する姿勢が重視されているのかもしれない

ラモス容疑者も、言語障害や周囲の生徒たちとは違う服装、家庭の事情、銃の愛好、孤立していることなどから、学校のメイン・ストリームにフィット・インしていない、他の生徒たちとは違っている生徒と見なされていたのではないかと推測される。そのため、他の生徒たちから、いじめという同調圧力を受けていたのではないか?

被害者から報復者へ

 銃撃が起きるメカニズムについて、ある専門家はこう指摘している。「いじめられた子供の中には被害者意識が生まれますしかし、それはある時点で、報復心へと変わり、銃撃を引き起こすのです

悲劇的なのは、米国の学校銃撃事件の場合、現実的に銃撃を受けるのは、銃撃犯をいじめていた生徒ではなく、たまたま、その時間にその場所に偶然居合わせた人々であるケースが多いことだ。今回の銃乱射事件もそうだろう。亡くなった21人の生徒や教師は、偶然、その場に居合わせてしまった。つまり、銃のある世界では、誰もが、偶然、銃撃の場に居合わせ、撃たれる可能性があるということだ。そして、銃のある世界では、銃による悲劇がこれからも繰り返されることになる。バイデン政権が徹底した銃規制に本腰を入れて乗り出すことをただただ祈るばかりだ。
飯塚真紀子 在米ジャーナリスト
大分県生まれ。早稲田大学教育学部英語英文科卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会問題、トレンドなどをテーマに、様々な雑誌に寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲルなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

ロシアを抑止できなかった根因と経済制裁の限界 制裁の成功条件は厳しいが動きを止める手はある

API地経学ブリーフィング 2022/07/04 09:00

© 東洋経済オンライン

経済制裁をちらつかせてもロシアは止められなかった(写真:Eric-Lee/Bloomberg)API10周年記念鼎談「ロシア・ウクライナ戦争をめぐる地経学と国際秩序の変動」。「『世界秩序』ロシア・ウクライナ戦争で揺らぐ根幹」(6月27日配信)に続く第2回目は、抑止と経済制裁について、API研究主幹の細谷雄一・慶應義塾大学法学部教授、API・MSFエグゼクティブ・ディレクターの神保謙・慶應義塾大学総合政策学部教授、API上席研究員の鈴木一人・東京大学公共政策大学院教授の3氏が語り合う。

鈴木 一人(以下、鈴木):前回はロシア・ウクライナ戦争の性質と、機能不全とも言われる国連の機能や役割について語り合いました。戦争が起こらない世界を作るためには現在の国連では不十分だというのは、私を含め3人の結論でしたが、そうした状況で戦争を止めるために唯一考えられるのは「抑止」の力です。

【図表】実は「冷戦後で最悪」アメリカとロシア因縁の関係

ロシアのウクライナに対する攻撃を止められなかったことについて、「抑止が効かなかった」という言い方をする場合があります。アメリカや西側諸国は、この戦争が始まる前から「ウクライナに派兵しない」ことを明言していました戦争をすれば経済制裁をするとも明言していましたが、それではロシアを止めることができませんでした。

抑止は働かなかった

その意味で経済制裁では「抑止が効かなかった」と言えますが、他方、ロシアは過剰なまでに、アメリカやNATOの介入を嫌い、それを避けようとしています。

© 東洋経済オンライン 鈴木一人・東京大学公共政策大学院教授
(写真:アジア・パシフィック・イニシアティブ)

 同時にアメリカも、例えば長距離ミサイルなど、ウクライナのロシア領内への攻撃を可能とする兵器は供与しないといった形で、アメリカがロシアを攻撃しているととられかねない支援は、極力避けているようにも見えます。その限りにおいて、米ロ双方がある程度行動を抑止していると見ることができます。
したがって、「抑止」はある程度効いていたのか、まったく効いていなかったのか見方によって異なるとは思いますが、戦争を止めるための国際法や国際機関の機能が十分でないときに、抑止は重要な役割を果たすはずです。

そこで、抑止論など戦略問題を専門とされる神保さんにお聞きしたいと思います。今後の世界において、法の秩序と抑止力はどのようなバランスになっていくとお考えですか。また、抑止を実効性のあるものにするには、何が必要なのでしょうか。

神保 謙(以下、神保):抑止力は「相手が自分に対して有害な行動を取ろうと思っても、それができないように自制する力を働かせる」という一般概念です。侵略によって得られる利益が、その行動に伴う損失より大きければ抑止力は効きにくい。一方で、その損失が利益より遥かに大きいと当事国が認識すれば抑止は効きやすいと考えられます。ただしこの利益と損失の計算は、当事国の持つ価値によって変化します。

© 東洋経済オンライン 神保謙・慶應義塾大学
総合政策学部教授(写真:アジア・パシフィック・イニシアティブ)

 今回のロシアのウクライナ侵攻では、ウクライナがNATOに加盟しておらず集団防衛のシステムの外側にいたことと、アメリカが予め軍事介入しないことを明言してしまったことが、ロシアの行動の自由を拡大したと考えられます。

また、ロシアはおそらくウクライナの短期攻略が可能だという甘い期待を抱き、侵攻による損失を過小に見積もってしまったことも、抑止が効かず戦争を止められなかった原因だと思います。

今後、同じような状況が生まれたときの教訓のためにも、今回、抑止を効かせられなかった要因を分析し、どうすれば抑止が効かせられたのか、そもそも、まったく不可能だったのかという問いも含め、検証を進める必要があります。

私自身は、ロシアのウクライナ侵攻を抑止することは可能であったと考えています。仮にアメリカが軍事介入の可能性を示唆し、NATO諸国がウクライナ侵攻に対抗する強い結束力を示していたら、ロシアの計算は変化したかもしれません。またウクライナ侵攻によってもたらされる損失、例えば欧州諸国の国防費の増額や、NATOの新規加盟国拡大という強烈なバランシング行動を予期し、経済制裁によるロシア経済へのダメージを未然にロシアに認識させていたら、これも結果は変わっていたかもしれません。

もちろん、これらは後出しの議論です。ウクライナ侵攻前に、以上のような抑止作用を働かせることは、事実上不可能だったという議論は納得できます。だとすると、今回と同様の事態を将来防ぐためには、侵略による損失がどれほど大きいか、ということを後世に残す必要があります。

最初は過剰に警戒しながら

細谷 雄一(以下、細谷):私は歴史的視座からこの問題を考えてみたいと思います。歴史を振り返ってみても、基本的には完全な抑止というのは存在しませんでした。どの時代にも悪いことする人がいて、通常は、あのヒトラーでさえも、あるいはプーチンでさえも、最初は過剰に警戒しながら、つまり、学校の生徒と同じで、先生に怒られないかどうかを確かめながら小出しに悪いことをしています。それが、思ったほど怒られなかったりすると行動はエスカレートします。

ヒトラーの場合は、1935年のラインラント進駐(1925年のロカルノ条約で英独が非武装地帯に定めたドイツ西部のラインラントに、ドイツが陸軍を進駐させた)と1938年のズデーテン地方併合(ナチス・ドイツがチェコスロバキア解体を目論み、ドイツ系住民の多いチェコスロバキア西部のズデーテン地方を併合した)の際、イギリスやフランスが容認したことが、ナチス・ドイツの暴走を加速させました。

© 東洋経済オンライン 細谷雄一・
慶應義塾大学法学部教授
(写真:アジア・パシフィック・イニシアティブ)

 ヒトラーを参考にすると、近年のロシアの軍事的行動におけるプーチンの思考が読み取れると私は見ています。2011年に始まったシリア内戦では、オバマ政権は2013年に軍事介入すると明言しながら、結局、介入しませんでした。さらに、ロシアが2014年から2015年にかけてウクライナ領のクリミア半島を”併合”した際にも、オバマ政権は厳しい姿勢を示しながらも、経済制裁に留め軍事的な介入は避けました。これは、一種の宥和政策だったと私は思います。決定的だったのは、2021年8月のカブール陥落です。あのときも、バイデン大統領は軍事介入しないと繰り返しました。

この3つの出来事により、プーチン大統領アメリカが世界の紛争に軍事介入することはないという確信を持ったのだと思うのです。最初はイギリスやフランスの反応を確かめながら周辺へと拡大していたヒトラーが途中からイギリスは介入しないと確信をもって暴走したように、各地の紛争で繰り返されたアメリカの不介入が、プーチンにアメリカの将来にわたる軍事不介入を確信させたのです。その帰結が今回の戦争だと考えます。

鈴木冷戦後の世界では、アメリカが世界秩序の安定に大きな役割を果たしていました。そのアメリカがオバマ政権以降次第に内向きとなっていき、国際的な紛争の解決への関与に後ろ向きの姿勢を明確にしたことが、プーチンの行動をエスカレートさせたという点は重要なポイントだと思います。また、ウクライナ侵攻は短期決着できる、と、ロシアがある種の計算違いをしたことも抑止の有効性に影響があったと考えます。

経済制裁が効かない構造

鈴木:抑止とは、利益と損失の計算の問題ですから、国際的なルール違反への代償の大きさをメッセージとして伝えることは非常に重要です。その意味では、経済制裁がロシアに対してどれだけの損失を生み出すのかというメッセージが十分伝われば抑止効果があったかもしれません。

そこで、経済制裁についてもう少し議論を進めたいと思います。国際秩序や安全保障の問題は、軍事的な問題としてだけではなく、経済的な側面からも考えなければ実像は見えてきません。
今、世界各国がさまざまな形で経済制裁を発動して、ロシアの行動を制限しようとしています。しかし、経済制裁には即効性はないのですぐに結果が出るわけではなく、今のところ戦争が止まりそうな気配もありません
一方で、経済制裁は諸刃の剣で、発動した側にも損失が生じます。例えば、原油や穀物の高騰です。経済制裁だけが理由ではありませんが、制裁を契機として物価上昇に拍車がかかっています。
そこで、生じてくるのが、経済制裁で本当に戦争を終結させることができるのかという疑問です。一方で、戦争を終結させ、ロシアの行動を変容させるだけの損失を出させることができるのか。他方で、制裁を発動する西側諸国に生じる経済的損失に発動国が耐えられるのか

経済制裁にはおのずと限界がある

細谷:鈴木さんは、ロシア・ウクライナ戦争勃発当初から、「万能薬」のごとく、経済制裁に過剰な期待を寄せることを警告しておられましたね。私はその警告は正しかったと思います。国際関係は、基本的に相互依存と自己利益を基盤としていますから、経済制裁にはおのずと限界があります。

歴史的に見ると、国際連盟のときも、日本やドイツの領土的野心に対して、軍事的な介入はせずに経済制裁と国際世論だけを頼りに安全を維持しようとしましたが、暴走を止めることはできませんでした。経済制裁は自らが軍事力を行使することで血を流すことを避けて、いわば「楽をして」目的を達成しようとするツールです。そもそも相互依存と各国の自己利益という国際政治の現実を前提としていますから、自らが深刻なダメージを負うような経済制裁は、なかなか実行されません。いくら声は大きくても実際には空洞化してうまく機能しないことは、国際連盟でも経験したことです。

神保:経済制裁の目的がロシアの行動変容を促すことなのか、プーチンを失脚させ体制を変えてしまうことにあるのか、その目的をどこに設定するかによって評価は変わります。仮に、ロシアの国家運営に支障をきたすほどの効果を与えて、プーチンに今回の決断が失敗だったことを認識させ行動変容させることを目的としているとしても、今回の経済制裁がなぜ、そのレベルに達する見通しが得られないのかを考えるのが重要だと思います。

例えば、ルーブルは一時下落しましたが、直ちに元どおりになってしまいました。ロシア政府の歳入の4割は原油と天然ガスからの収入ですが、中国やインドが買い支える構造があり、欧州諸国も特に天然ガスでは脱ロシアには時間がかかります。また、ロシアは原油や食糧を自給できるため、対ロシア輸出制限をしてもあまり効力がないという構造もあります。

経済制裁の有効性を検証した学術研究によれば、20世紀以降の115事例の経済制裁で明確に成功したと言えるのは5件しかありません。1989年のインド・ネパール(ネパールの中国への接近などを契機に、インドが経済封鎖したことが誘因となり、ネパール民主化の実現につながった)がその典型です。

経済制裁が成功する条件を見てみると、
1つは国際社会が一致して抜け道を作らない状態にしていることで、
2つ目は対象国の輸入依存度が高く、制裁によるダメージを被る経済構造になっていること

そして 3つ目は、国民の不満に対するガバナンスが脆弱であることなどが挙げられています。加えて、経済制裁を発動する側の不利益が、対象国の不利益よりも小さいこと、つまり、返り血が少ないことも成功の条件のように思います。だとすれば、現状でロシアに対する経済制裁を成功させるのは、構造的になかなか難しそうだというのが私の見立てです。

相手国との関係次第で経済制裁の効果は変わる

鈴木:制裁する側の経済が大きく、対象国のそれが小さい場合、経済制裁は大きな効力を持ちます。神保さんご指摘のインド・ネパールはまさにその典型でした。インド経済に対するネパールの依存度は非常に高かったのですが、インドがネパールに依存していたのは電力ぐらいでした。

日本と北朝鮮の関係も同じです。日本側には痛みが小さいので制裁をかけやすいという構造があります。そのため、先ほどの細谷さんの言葉を借りれば、経済制裁には「楽する」というようなニュアンスがどうしても出てしまいます。

一方、比較的対等な関係では、経済制裁は発動した側の損失も大きい、つまり返り血を浴びることが避けられないため、経済制裁の効力は限定的にならざるをえません。自国民の不満を高めてしまうような思い切った制裁が難しいのです。
一方、制裁の対象国に民主的な選挙などの国民の不満を吸収するシステムが確立されている場合経済制裁は効力を発揮します。2013年のイランがその典型でした。イランには権威主義的な国家で民主主義など機能していないといったイメージがありますが、実際には選挙があって国民の不満が政権交代に直結します。当時、核開発を巡りイランはアメリカなどから経済制裁を受けていましたが、大統領選挙では、反米保守で核開発を推進した現職のアフマディーネジャード大統領が、制裁解除を公約に掲げたロウハニに敗れ、政権が交代しました。反対に、国民の不満を抑圧する国への制裁は効きにくいということです。
抜け道がある、輸入依存度が小さいことも含め、ロシアには経済制裁が効力を発揮する条件が十分整っていません。特に今回は西側諸国による制裁で、国連の制裁ではないため、制裁を実施しているのは四十数カ国です。中国やインドに加え、ヨーロッパ諸国も天然ガスを買い続けているため、ロシアに圧倒的な「痛み」を感じさせることが難しくなっています。

また、ロシアには選挙制度はありますが、民主的な選挙とは言い難い状況であるため国民の不満を吸収し、国民の声を反映させる仕組みもありません。そうしたことから、経済制裁による政策の転換や体制の変更を期待するのは難しいと思います。

カネと弾がなくなる状況を創り出す制裁

そうした状況でも効果がある経済制裁が2つあると私は見ています。

1つは金融制裁です。それにより戦費の調達を難しくすることです。戦費を得られなくなることで戦争継続を困難にして行動変容に追い込める可能性はあります。
もう1つは半導体など、さまざまな武器の部品の供給を止めることです。

半導体は中国などが代替品を提供することはできますが、
精密誘導兵器などのロシアの兵器は、ヨーロッパやアメリカの装置や部品に依存していた部分が大きいため、その供給を止めることで制裁の効果が出ることは期待できます。すぐに部品の調達先を変えたり、使用する武器そのものを変えたりするのは、兵士の訓練などもあり難しいからです。つまり、ミサイルや戦車を作れなくするのです。
簡単に言うと、戦争終結に向けて効果がある制裁は、カネと弾がなくなる状況を作ることだと思います。それがうまく行けば、ロシアの継戦能力の低下を期待できます。もちろん、在庫がありますから、すぐに効果が出るわけではありませんが、期待はできると思います。

核不使用「幸運なだけ」 広島知事、国連で強調

2022/7/6 08:24

広島県の湯崎英彦知事は5日、米ニューヨークの国連本部でのイベントに参加し、ロシアがウクライナ侵攻で核の威嚇を繰り返したことに触れ「広島と長崎以降、核兵器が77年間使われていないのは幸運だっただけだ」として、核兵器がある限り使用のリスクは消えないと強調した。

イベントでは国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」の観点から核兵器の影響を議論。湯崎氏は原爆投下後の広島市の写真を見せ「現代の基準から言えば小規模な核兵器だが、これで分かるようにSDGsの達成に破滅的な損害を与える」と警告した。

出席したドミニカ共和国のフェルナンデス元大統領は「われわれは人類に対する核兵器の危険性を理解している。この問題に取り組むことは非常に重要だ」と述べ、核軍縮の必要性を指摘した。(共同)

ソ連崩壊後の現在までのウクライナの顛末


ウクライナは世界第三位の核兵器保有国の地位をなぜ放棄したのか/グレンコ・アンドリー

日刊SPA! 2022/03/03 08:50

ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領は、ことあるごとに“核”の脅威をちらつかせてくる。その一方、ウクライナはソ連崩壊後、世界第3位の核兵器保有国であったという事実がある。ウクライナ軍は激動の近代史の中で、どう変容していったのか。日刊SPA!PLUSに掲載された『ウクライナ人だから気づいた 日本の危機』の著者・グレンコ・アンドリー氏による寄稿を再掲載する。

ソ連崩壊で世界第三位の核兵器保有国に

 ソ連崩壊後、ウクライナはソ連から強い軍隊を受け継いだ。もちろん、ソ連がウクライナのために大軍を置いていったわけではない。ソ連の軍事戦略上、最も重要であったヨーロッパ方面に位置するウクライナには、大きな軍隊を駐屯させておく必要があった。そしてソ連政府は、ウクライナをソ連の不可分の一部として認識しており、そのウクライナがいつか独立するなど、まったく想定しなかった
そのようなウクライナは永遠にソ連の一部であり続けるという前提で置かれた軍隊は、ある日突然、ウクライナの意思と関係なく、ソ連の崩壊によってウクライナに受け継がれた。
偶然だったとは言え、独立した時点でウクライナがその強い大軍を所有していたのは紛れもない事実だ。ではその後、ウクライナがタナボタ的に得た強い軍隊は、いったいどうなったのか、これから述べることにする。
さて、ウクライナが1991年末にソ連から独立した時点で、ウクライナ軍は次のような編成であった。
兵士780万人、戦車6500輌、戦闘車両7000輌、大砲7200門、軍艦500隻、軍用機1100機、そして1240発の核弾頭と176発の大陸間弾道ミサイルという、当時世界第三位の規模の核兵器も保有していた。

米露による核兵器放棄の圧力

 しかし、独立してから大規模な軍縮が始まった。核兵器に関して言えば、当時、米露から核兵器を放棄するようにという、脅迫に限りなく近い非常に強い圧力がかかっていた。もしこの要求に応じなければ、経済制裁や国際社会からの追放、最悪の場合は軍事行動という仕打ちが待っていただろう。経済危機やハイパーインフレに苦しんでいたウクライナはこの圧力に抵抗する力がなかった。
しかし、核兵器を手放すことはやむを得なかったにしても、当時のウクライナの指導者の姿勢は、国益護持から程遠いものだった。ウクライナの指導者達は外国の要求をすべて呑み、無条件に3年間ですべての核兵器を放棄するという決断を下してしまったのである。
その見返りとして、「米英露はウクライナの領土的統一と国境の不可侵を保証する」という内容の議定書だけを発表した。
だが、議定書は国際条約ではないので、それを守る法的義務はない。実際の国際関係では、法的拘束力のある国際条約ですら守られていないことが多いという事実を踏まえれば、最初から法的拘束力のない「議定書」などが守られるはずはない。
もし、当時のウクライナ指導者たちが国防の重要性を認識していたのであれば、要求通りの無条件放棄ではなく、例えば、核兵器を放棄する代わりに経済支援か、最新の通常兵器提供、もしくは急な放棄ではなく長年にわたる段階的な核兵器の処分、あるいはせめて法的拘束力のある国際条約の締結などを代わりに求められただろうし、またそうすべきであっただろう
ちなみに、核弾頭や弾道ミサイルそのものだけではなく、それを格納、発射するためのインフラ、施設もことごとく破壊された。例えばウクライナ国内にあったミサイルサイロも全部破壊された(ロケット博物館という場所で、一つのサイロは残っているのだが、もちろん形だけ)。当然、核兵器そのものがなければ、ミサイルサイロなどの施設は無力であるが、それがあるだけで、ある程度の抑止力にはなっていたはずだ。だからせめて施設だけでも残すべきだったと私は思う。
さらに言えば、外圧が理由となっていた核兵器の放棄とは異なり、通常兵器の縮小は完全にウクライナ独自の判断によるものだった。軍縮の主たる理由は経済危機、つまり大きな軍隊を維持する資金をウクライナが持っていないと言われているが、例えひどい経済危機があろうとも、ウクライナにおける軍縮、軍事軽視の規模は想像を絶するものであった。
例えば(核兵器ではない)ミサイル防衛で言えば、ウクライナはR-17という戦域戦術ミサイル兵器(射程距離300キロ)を持っていたがすべて処分された。また戦域戦術ミサイル兵器のトーチカ(射程距離120キロ)を数十輌持っていたが、それは12輌まで減らされた。

ミサイル発射演習事故に対する国民の嫌悪感

ところで、2000年にウクライナ軍がミサイル発射の演習を行った時、事故が起こった。一つのミサイルが想定されていた弾道から外れ、民間マンションに着弾したのだ。幸い死者はいなかったが、その事故に関する情報はすぐ全国に広まった。そしてウクライナ国内世論は、軍に対して非常に批判的になった。
このような事故が起きてしまったことに対して、批判の声が上がるのは当然なことであり、批判それ自体はまったく問題ない。しかし、その批判の内容や軍に対する世論は、その後、おかしい方向に進んでしまった
普通このような事故が起きたら、軍人の能力や兵器の状態(正常か、不具合か)が問われる。つまり人のミスであれば、責任者の解任や軍人の能力強化が要求される。兵器の不具合によるものであれば、その修理や新しい兵器の導入が世論によって要求されるはずである。言い換えれば、軍の質の改善が国民によって要求されて当然な状況なのだ。
しかし、あの事故が起きた後のウクライナ世論の反応は、そのようなものではなかった。世論の反応は、「軍人が無能で国民を危険にさらすなら、こんな軍はいらない」「民家に当たるかもしれないミサイルを飛ばすな」などといった、軍そのものを否定するようなものであった。
ただでさえ大規模な軍縮が行われ、絶望的に足りない予算でやりくりをしなければならなかった軍隊は、さらに窮屈な立場に置かれ、それ以降は軍事演習もまともにできなくなった。

戦略爆撃機も処分

他に特に注目すべきなのは、戦略爆撃機の処分だ。独立した時点でウクライナは25機のTu-95と19機のTu-160を所有していた。この戦略爆撃機の航続距離は14000キロメートルであり、主な目的は敵の防空線を通り越して、敵地の奥にあるインフラや軍事施設、産業などを破壊することであった。もちろん、核爆弾も通常爆弾も搭載可能である。このような兵器を持つだけで、かなりの抑止力があるはずだ。
しかし、ウクライナはこの44機の戦略爆撃機をすべて処分した。8機のTu-160と3機のTu-95はロシアに売却され、他はウクライナで解体された。両機の1機ずつはウクライナのポルタワ市の長距離航空機博物館に展示されている。また、中距離重爆撃機のTu-22とTu-22M(航続距離、約3000キロメートル)も合わせて66機もあったが、それらもすべてロシアに売却されたか、解体された。
その他にも、独立した時点でウクライナ空軍は約600機の古いソ連製の戦闘機や爆撃機と、当時にしたらまだ新しい戦闘機MiG-29は220機、Su-27は67機と、爆撃機Su-24は150機もあった。しかし、2013年の時点に残ったのは、MiG-29は72機、Su-27は55機、Su-24は24機のみである。他の航空機(約600機の旧世代のものを含めて)はアジアやアフリカの発展途上国に売却されたか、解体されたのだ。

航空巡洋艦ヴァリャーグは中国に売却

ウクライナ海軍は独立してから連綿と政府から放置されており、衰退する一方だった。1991年末時点のソ連黒海艦隊は525隻からなっていた。そして、ソ連解体の時点で、黒海艦隊の幹部の多くはウクライナへ忠誠を誓おうと思っていた。しかし、当時のウクライナ政府は強い海軍の形成に興味がなかったので、せっかくの黒海艦隊の将校達の意思を充分に歓迎せずに、彼等をほったらかしにしたのだ。
このようなウクライナ政府の無責任な態度とは対照的に、ロシア政府は黒海艦隊を我が物にしようと、様々な工作を実行していた。このような状況の中、多くの将校の意思が揺らいで、結果としてロシアに忠誠を誓うことを決めた将校は多数となった。そして、黒海艦隊はウクライナとロシアの間で分けることになった。
兵士は、自分の意思で国を選ぶことができたが、船は半分ずつ両国の間に分けることになった。しかし、ロシアは分割が有利に進むようにウクライナに圧力をかけ、結局ロシアは388隻、ウクライナは137隻で分けることになった。しかも、その中で実際の戦闘能力のあった軍艦は32隻しかなかった。だから、ウクライナ海軍というのは、一つの艦隊であるというより、無秩序な船の寄せ集めにすぎないのだ。
当然この状況を改善する動きはまったくなかった。それどころか、残った100隻以上の船も、処分され続ける一方だった。その中で、1998年に未完成の航空巡洋艦ヴァリャーグが中国に売却された件は有名である。中国側が水上カジノにし、軍事的使用はしないと約束したが、ご存知の通り、その後、船が中国で完成されて、今は中国軍の空母、遼寧として稼動している。これはあくまで全体的な流れを象徴している、有名な一例に過ぎない。航空巡洋艦ヴァリャーグと同様に、多くの船が外国に売却された。また、処分された船も多かった。
ウクライナ海軍はいかに情けない状況にあったか、次の傾向から明らかである。航海にも出ず、給料ももらわずにいたウクライナ海軍兵士の多くは堕落し、自分達が所属した船の一部(船丸ごとの時もあった)を切り取って、金属スクラップを買い取る業者に売っていたのだ。
また、ウクライナが持っている唯一の潜水艦もまったく海へ出ずに港で放置されてある。なぜなら、もし運航中に事故が起きたら誰かが責任を取らなければならないので、誰も責任を取りたくない。つまり、ウクライナは海軍がないに等しい状態なのだ。

陸軍も軍縮

ウクライナ陸軍の軍縮規模も凄まじい。主要兵器はおおよそ、独立した時点の元の数の約十分の一まで減らされた2013年末時点の兵力は兵隊17万人、戦車650輌、戦闘車両1000輌、大砲1000門であった。さらに、2014年2月、3月の間に、ウクライナ軍の中で装備を揃えていて訓練をしっかり行い、直ぐに戦える部隊はたった6000人しかいないという情報すら、情報空間に飛び交っていた。
この情報の真相は分からないが、それまで軍が置かれた状態を考慮すれば、あり得ない話ではない。独立してからの22年間にわたって、ウクライナ陸軍兵器は処分されたか、外国に売却されていたのだ。買い手は常にあった。旧型ソ連製兵器とはいえ、アジアやアフリカの発展途上国からすればそれなりに強い兵器であったので、注文がたくさんあった。
兵器の輸出自体について、(旧型の場合は特に)まったく異論はない。むしろ大歓迎すべき取引だ。問題は、売却した兵器の代わりに新しい兵器がまったく導入されなかったということだ。独立してから2013年までに、ウクライナは一切、外国から輸入していなかった。
ちなみに、ウクライナで独自の戦車や戦闘車両を製造する工場もあった。しかし、この国内工場にもウクライナ防衛省はほとんど注文しなかった。独立してから、ウクライナの工場が独自で開発した戦車が、何百輌も外国に輸出されたが、防衛省の注文でウクライナ軍に調達された戦車の数はわずか数十輌しかなかった。この数字はすべてを物語っているのではないだろうか。

軍を覆った予算欠乏と腐敗

軍の衰退の大きな原因とは財政困窮だったと言われている。たしかに、独立してからウクライナの防衛予算は激減し軍は常に金が絶望的に足りなかったのは事実だ。
しかし、金がまったくなかったわけではない。一応、1991年から2013年の間に、ウクライナの防衛予算は年間GDPの1%~1.5%ぐらいだった。当然少ないのだが、ゼロではない。そしてそれとは別に、先述したような兵器の輸出も行っている国営企業の売上額は、防衛予算の約半分に相当する金額に上る年もあった。
つまり、少ないながらも一定額の予算は一応毎年あったのだ。この少ない予算を効率よく使い、兵士の訓練や、既にある兵器の維持と国産新兵器(先述した戦車や戦闘車両)の導入をできる範囲で行えば、ある程度の戦闘能力を保てたはずだ。最も大きな問題とは、この少ない予算であっても軍のために使われなかったということだ。
軍の腐敗や堕落も甚だしい
ものとなった。軍や防衛省の中で、汚職と賄賂は蔓延し、軍の幹部は任務をほったらかしにし、私腹を肥やすことだけに専念した。防衛予算は大量に横領された。当然、誰も罰せられなかった。
 また兵器だけではなく、防衛省が持っていた財産も大量に民間へ売却された。軍事施設や訓練所や演習場などの軍事インフラや土地は大量に売却され、その金額は残った軍の維持や発展に使われたのではなく、軍幹部の懐に収まったのだ。軍隊は完全に軍の上層部が銭儲けするための道具に成り下がってしまった。完全に腐敗した軍隊は、愛国心のある本物の軍人にとって居づらい場所になってしまったので、多くのまともな軍人が退役した。

【グレンコ・アンドリー】

1987年ウクライナ・キエフ生まれ。2010~11年、早稲田大学へ語学留学で初来日。2013年より京都大学へ留学、修士課程修了。現在、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程で本居宣長について研究中。京都在住。2016年、アパ日本再興財団主催第9回「真の近現代史観」懸賞論文学生部門で「ウクライナ情勢から日本が学ぶべきこと――真の平和を築くために何が重要なのか」で優秀賞受賞。月刊情報誌 『明日への選択 平成30年10月号』(日本政策研究センター)に「日本人に考えてほしいウクライナの悲劇」が掲載。


参考文献・参考資料

北岡俊明+「デイベート大学」著 『東京裁判はでっちあげだった』総合法令 2008.12.7 初版発行

ロシアを抑止できなかった根因と経済制裁の限界 制裁の成功条件は厳しいが動きを止める手はある (msn.com)

屋上から高性能ライフル銃を発砲か 米独立記念日パレード銃乱射 (msn.com)

独立記念日のパレードで銃声が響く シカゴ郊外のビルの屋上からライフルを乱射 6人が死亡 (スポニチアネックス) - Yahoo!ニュース

米乱射容疑者、女装姿で逃走 数週間前から犯行計画か (msn.com)

イリノイ州の銃乱射事件、22歳の男の身柄を確保 殺傷能力の高い「ハイパワーライフル」使用か | 国内 | ABEMA TIMES

少年ライフル魔事件 - Wikipedia

米シカゴ銃乱射事件 22歳の容疑者逮捕 SNSで犯行ほのめかす 独立記念日のパレードでライフル乱射 (kagonma-info.com)

テキサス州の新法律:拳銃を隠さずに公共の場で所有可能 — Gephyro Consulting (ジェフィロ・コンサルティング)

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フロリダ州高校銃乱射事件 高校銃乱射犯たちの共通点とは? 原因は”心の問題”だけではない

核不使用「幸運なだけ」 広島知事、国連で強調 - 産経ニュース (sankei.com)

ウクライナは世界第三位の核兵器保有国の地位をなぜ放棄したのか/グレンコ・アンドリー (msn.com)

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