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政治講座ⅴ1928「銭断縁亦断」

銭の切れ目が縁の切れ目、アフリカへの援助はいつまで続く? 一帯一路の債務の罠を知っているのであろうか。高利貸しから金を借りたら全財産を失うことを肝に銘じるべきであろう。世界を俯瞰してみると独裁政権や腐敗政権に中国の「債務の罠」に騙される国が多いことが分る。
今回はいまの中国の「債務の罠」で苦しんでいる阿鼻叫喚のアフリカの歴史的瞬間の報道記事を紹介する。

     皇紀2684年9月11日
     さいたま市桜区
     政治研究者 田村 司


不気味、笑顔は習近平だけ…欧米露がいぬまに軍事基地建設の「秘密協定」か、経済崩壊の中国がアフリカに援助大盤振る舞い

近藤 大介(『現代ビジネス』編集次長) によるストーリー

経済低迷の中国、アフリカには手厚く

腐っても鯛」(中国語なら「痩死的駱駝比馬大」)という言葉があるが、経済低迷が続く中国が先週、乾坤一擲(けんこんいってき)の外交を行った。

9月4日から6日まで、「2024年中国アフリカ協力フォーラム北京サミット」を開催。アフリカから53ヵ国の国家元首らを招いた。中国メディアは連日、特別枠を組んで、「世界で28億人の共同福祉が実現する」と、大々的に喧伝した。

2024年中国アフリカ協力フォーラム北京サミット by Gettyimages© 現代ビジネス

このサミットが北京で開かれたのは4回目だが、発足した経緯は、実は日本と関係がある。いまから31年前の1993年、日本で冷戦崩壊後の世界戦略を見据えて、21世紀に成長が見込まれるアフリカを取り込もうという気運が生まれた。アフリカ諸国も日本を頼った。そこで細川護熙政権が東京で、アフリカ48ヵ国の代表たちを集めて、「アフリカ開発会議」(TICAD)を開いた。以後、5年毎に開いていて、来年8月に横浜で、第9回目が開かれる。

この成功を横目で見ていた中国は、毛沢東時代からの伝統である対アフリカ外交に、改めて本腰を入れ出した。奇しくも中国は、1993年からエネルギー輸入国になっており、アフリカのエネルギー獲得は重要だった。また、国連を舞台にしたアメリカや台湾との外交戦でも、最大勢力のアフリカ票がカギとなった。

そこで江沢民政権は、アフリカ連合(AU)が発足した翌年の2000年、「中国版TICAD」として、「中国アフリカ協力フォーラム北京サミット」を開催した。その3年後に発足した胡錦濤政権も、2006年に2回目の「中国アフリカ協力フォーラム北京サミット」を開催した。

私は、この2回目のサミットを取材した。アフリカ35ヵ国の国家元首が北京に集結し、北京の町が一時的にアフリカになったような盛況ぶりだった。中国は翌年に北京オリンピックを控え、経済も株価も絶好調。「你好,我好,大家都好」(あなたも良し、私も良し、誰もが良し)という言葉が流行し、中国人もアフリカ人も笑顔が絶えなかった。

夢の「チャイナフリカ」

当時の中国外交部のアフリカ担当大使は、私にこう述べた。

いまのアフリカは、1980年代の中国のようなものだ。私たちは、自分たちが行ってきた改革開放政策と経済成長を、アフリカ大陸でも起こすのだという理想に燃えて、仕事にあたっている。アフリカ諸国から見ても、中国は英仏などと違ってアフリカを侵略した歴史がないので、熱烈歓迎してくれる」

この時、胡錦濤主席は基調スピーチで、「新たなアフリカ連合の本部ビルを、中国がプレゼントする」と、大盤振る舞いを約束。実際に2012年1月、エチオピアのアジスアベバに、20階建て、高さ99.9メートル(アフリカ連合が1999年に創立したため)のアフリカ連合本部ビルが、中国からの2億ドルの無償援助によって完成した。

2550人が一堂に会すことができる大会議場、681人が座れる中会議場、700人が働けるフロアを始めとする41のオフィスルーム……。「中国の援助」を誇示するため、すべての館内表示を英語と中国語の2ヵ国語表示にし、かつ中国語の方を英語よりも上側に表記した。

私が2006年の北京サミットの取材で、最も恐れ入ったのは、サミット終了後にアフリカの首脳たちを、北京郊外の温泉宿泊地に招待したことだった。そこで行っていたことの一つが、人間ドックのサービスだった。首脳やその家族たちのメディカルチェックを無料で提供すると言えば聞こえはよいが、「指導者の健康情報」がすべて中国に「保管」されることになる。

アフリカの首脳たちも、そんなことは百も承知だろうが、中国を信頼していたのである。「チャイナフリカ(China+Africa)という言葉をどう思うか?」と北京でアフリカ人たちに聞いても、「まさにその通り」「素晴らしい造語だ」などと、肯定的かつ楽観的に捉えていた

習近平政権になってからは、2015年12月に南アフリカのヨハネスブルクで開催し、2018年9月に北京で開催した。中国はこれら2回のサミットで、いずれも「600億ドルの援助」を発表し、アフリカ側を喜ばせた。

2018年の時、中国は、米ドナルド・トランプ政権との「貿易戦争」の真っ最中だった。そのため習近平政権は、アフリカを味方につけて、同月の国連総会で「反撃」に出ようとしていた。

ところが、思わぬところから「火の手」が上がった「中国国内がこれだけ不景気なのに、アフリカに600億ドルも援助している場合か!」と、中国国民が怒りの声を上げたのである。そこで習近平政権が展開したのが、「5000分の28キャンペーン」だった。

600億ドルのうち、無償援助、無利息借款、優遇借款150億ドルにすぎず、有利子借款が200億ドル、中国アフリカ開発型金融資金が100億ドル、アフリカ製品輸入専用資金が50億ドル、3年以内に中国企業がアフリカに投資する資金が100億ドルだ。すなわち、中国国民の5000元の給料のうち、わずか28元を寄付しているにすぎず、かつその寄付は、中国の将来に極めて有用なのだ

その後、中国は3年に及ぶ「ゼロコロナ政策」と、不動産バブルの崩壊を経験。国民がアフリカ援助に怒った6年前よりも経済状況ははるかに悪化した。そこで今回、習近平政権が何を打ち出し、国民はどんな反応を示すのかが注目点だった。

アフリカ側に笑顔はなかった

今回、習近平主席が個別の首脳会談を行ったのは、以下の39ヵ国、2国際機関だった(日付は中国外交部の発表日)。

〇2日……DRコンゴ、マリ、コモロ、トーゴ、ジブチ、南アフリカ、セーシェル、エリトリア、ギニア

〇3日……チャド、マラウィ、ジンバブエ、モーリタニア、ケニア、AU(アフリカ連合)

〇4日……シエラレオネ、赤道ギニア、セネガル、タンザニア、ザンビア、モザンビーク、エチオピア、リビア、ガボン、カメルーン

〇5日……ボツワナ、UN(グテーレス国連事務総長)、ナミビア、サントメ・プリンシペ、ガーナ、ルワンダ、ギニアビサウ

〇6日……コンゴ・ブラザビル、ソマリア、ブロンディ、リベリア、スーダン、マダカスカル、ガンビア、中央アフリカ、南スーダン

習近平主席が個別に行った首脳会談は、すべて特別枠でCCTV(中国中央広播電視総台)が放映した。それらを見ていて、一番印象的だったのは、笑顔が習近平主席にしかなかったことだ。

人民大会堂の長机に対面して座っているアフリカ各国の国家元首及び参列者たちは、ある人は真剣な表情で、またある人は半ば疑心暗鬼の面持ちで、中国側に相対しているように映った。一方、中国側の王毅外相や鄭柵潔発展改革委員会主任、王文濤商務部長らの陪席者たちも、同様に厳しい表情で向かい合っていた。CCTVは大仰に、「この首脳会談でも、中国・アフリカ運命共同体の結束をさらに深めました」などと喧伝していたが、そんなニコニコ映像はどこにもなかった

私はこうしたニュースを見ながら、「改革開放政策の総設計師」こと鄧小平氏の有名な言葉を思い起こした。「貧国のトップには絶対になるな、彼らはカネだけが欲しいに過ぎないのだから」(千万不要当窮国家的頭、他們只是想要銭而已)。もっとも、「カネの切れ目が縁の切れ目」(銭断縁亦断)という中国語も浮かんだが。

中国としては、来年1月20日に始動するかもしれない第2次トランプ政権を恐れ、その前にアフリカを改めて味方につける絶好の機会である。一方のアフリカ諸国も、ウクライナ戦争とガザ危機が重なり、欧米からの援助がか細くなる中、改めて中国を頼りにしたいところだ。

「アフリカ国家の軍事建設を支援していく」

というわけで、9月5日に発表された、今後3年間の協力の指針である「中国アフリカ協力フォーラム 北京行動計画(2025-2027)」は、全11章、A4用紙で17ページにも及ぶ長大なものとなった。その核心部分は、次の通りだ。

<中国はアフリカと手を携え、全世界の安全提唱を実行するパートナーシップ関係を打ち立てる。全世界の安全提唱の協力模範地域を作り、全世界の安全提唱の先がけとなる協力を展開していく。

(中国は)アフリカに、10億元(約210億円)の無償軍事援助を提供し、アフリカ国家の軍事建設を支持していく。アフリカの軍人を6000人トレーニングし、500人の青年軍人を中国に招待する。中国とアフリカの合同軍事演習・訓練、合同巡航を展開し、アフリカの地雷除去活動への協力を実施していく。

「一帯一路」の安全保障交流と協力の構築を深化させる。アフリカの1000人の警務執法要員のトレーニングを行い、協力項目及び人員の安全を共に維持、保護していく。

「10大パートナー行動」(文明・貿易・サプライチェーン・インターネット・発展・衛生健康・農業・人文・グリーン発展・安全分野での協力行動)を実施、推進するため、今後3年で、中国政府は3600億元(約7.2兆円)の額の資金支援を行う。それは2100億元(約4.2兆円)の貸し付け資金と、800億元(約1.6兆円)の各種援助の提供、中国企業の少なくとも700億元(約1.4兆円)の対アフリカ投資を含む。これにより中国とアフリカの各分野での実務協力に強力な支持を提供していく>

以上である。単純にアフリカ援助の金額だけを比較すると、2015年と2018年の600億ドル(約8.5兆円)には及ばないまでも、いまの苦しい中国経済からすれば、かなり無理をした「大盤振る舞い」である。2022年の「TICAD8」で日本が表明した、3年間の提供資金額が300億ドル(約4.3兆円)なので、その約1.7倍だ。

海軍基地建設の「秘密協定」も

また、わざわざ軍事面での協力を強調したのも、今回の特徴と言える。これまでアフリカ諸国に軍事的な影響が強かったのは、アメリカを始めとする西側諸国、それにロシアだった。昨年の「プリゴジンの乱」で有名になったロシアの傭兵部隊ワグネルも、アフリカ進出で力をつけた

だが、西側諸国もロシアも、いまやウクライナ戦争とガザ紛争で精一杯だ。むしろ、対アフリカ向けの軍事協力・援助を減らす傾向にある。中国は、そこへ巧みに入り込もうというわけだろう。

中国人民解放軍は、2017年にジブチに、アフリカ大陸で最初の軍事基地を建設した。以後、トランプ政権になって鳴りを潜めていたが、今後はアフリカ大陸各地に、特に海軍基地を建設していく可能性がある。今回もアフリカ各国と、そのような「秘密協定」を結んだかもしれない。

もしも今後、アフリカ各地に中国の軍事基地ができていけば、世界全体の地政学を変えていくことになる。中国には古代から、「遠交近攻」(遠くと交わって近くを攻める)という軍事戦略があるが、まさにそれを地で行くものだ。昨今、中国は、NATO(北大西洋条約機構)のアジア進出を必死に食い止めようとしているが、それに対する対抗の意味もあるのだろう。

だが今回、中国はアフリカとの軍事的連携について、決して派手には喧伝していない

美しい「グローバルサウス」の連帯

習近平主席は、9月5日午前の開幕式で行った基調スピーチ「手を携えて現代化を推進し、共に運命共同体を構築していく」で、次のように述べた。

「北京に新旧朋友の皆さんを迎えて大変嬉しい。70年近い苦節耕田の時を経て、現在の中国・アフリカ関係は歴史上最良だ。

現代化の実現は、世界各国から剥奪することのできない権利だ。中国は確固として、中国式現代化の強国建設、民族復興の偉業を全面的に推進していく。アフリカもまさに、アフリカ連合の『アジェンダ2063』(2015年にアフリカ連合が採択した2063年までのアフリカ全体の長期発展計画)が描く現代化の目標に向けて、一歩一歩邁進しているところだ。中国とアフリカが共に現代化の夢を成し遂げることは、必ずやグローバルサウスの現代化の熱気を引き起こし、人類運命共同体の新たなページを刻むだろう。

中国とアフリカは、手を携えて『6つの現代化』を推進していく。それは、公正で合理的な現代化、開放共栄の現代化、国民第一の現代化、多元的で包容力のある現代化、生態に優しい現代化、平和で安全な現代化だ。

中国とアフリカの人口を合わせれば、世界人口の3分の1を占める。中国とアフリカの現代化なくして、世界の現代化はない。今後3年で、中国はアフリカと手を携えて『10大パートナー行動』を推進していく。中国とアフリカの協力を深化させ、グローバルサウスの現代化をリードしていく……」

以上である。他にも今回、次のようなことが示された。

・中国とアフリカの交流は、唐代の8世紀に中国人の杜環が、アフリカ大陸を訪問したことから始まった。

・中国はアフリカ大陸にとって、15年連続で最大の貿易相手国である。昨年の貿易額は2821億ドルに達した(昨年の日中貿易額は3347億ドルで、まもなく逆転する)。

・中国の外相は1991年以降、34年連続で、毎年年初にアフリカを訪問することからその年の外交活動を始めている。

・習近平主席は、これまですでに10回もアフリカを訪問している。

・昨年末時点で、アフリカの19ヵ国が教育課程で中国語を採用している。アフリカの47ヵ国に計77ヵ所の孔子学院(海外における中国政府直轄の中国語・中国文化の教育機関)を設立している。

・アフリカ大陸の交通、農業など多角的な分野で、「北斗衛星システム」(中国版GPS)を普及させていく。

・中国がアフリカで、太陽光発電と風力発電の普及を進めていく。

・新型コロナウイルスが蔓延した時期、中国はアフリカ53ヵ国に、計2・4億回分のワクチンを援助し、17ヵ国に医療専門グループを派遣した。

・過去3年近く、中国はアフリカで25の医療衛生プロジェクトを実施し、8ヵ所の医療衛生施設を改築した。

中国内の不満の声は抑え込んだ

「北京行動計画(2025-2027)」を精読すると、たしかに「チャイナフリカ」(China+Africa)の結びつきはすごいものがある。冒頭述べたように、「腐っても鯛」である。中国政府からすれば、「アフリカパワー」を自国の経済V字回復に活かしたいという思いもあるだろう。

中国海関(税関)総署の統計によれば、今年1月から7月までの中国とアフリカとの貿易額は、1673億ドルで、前年同期比+2.8%。中国からアフリカへの輸出が-3.0%で、中国のアフリカからの輸入が+12.5%である。

特に、中国から見て輸入額の伸びが顕著で、中国が世界中から輸入している総額の伸び+2.8%と比べても、かなりの増大だ。これは、中国がアフリカに気を遣って輸入を増やしているというよりも、不景気によるデフレ下の中国で、格安のアフリカ農産品などが売れているということではないか。

ところで前述のように、2018年の前回北京開催時には、中国からアフリカへの多額の援助に対して、中国国民から多くの不満の声が上がったが、今回は見当たらなかった。6年前より経済状況は、はるかに悪化しているにもかかわらずである。

それは、中国国民が多額のアフリカ援助に満足しているからでは、決してない。第一に中国当局が、「不満の声」を徹底的に抑え込んだからだ。6年前に比べると、当局による統制は、一段と厳しくなっている。

もう一つは、少なからぬ中国国民が、日々の自分の生活で精一杯で、「政府のやること」に無関心、無頓着になってきているからだ。多くの中国人は、今回のサミットに関するニュースすら見ていない。

いずれにしても、中国とアフリカの関係が、約20年前のような「みんなが笑顔」の時代でなくなったことは確かだ

借金漬け外交

 国際援助などの債務により債務国、国際機関の政策や外交等が債権国側から有形無形の拘束を受ける状態をいう。債務の罠債務トラップなどとも訳されることがある。友好国間で見られ、債務の代償として合法的に重要な権利を取得する。

この表現は、インドの地政学者ブラーマ・チェラニー(英語版)によって中国の一帯一路構想と関連づけて用いられたのが最初である。

債務国側では放漫な財政運営や政策投資など(日本でいう)モラル・ハザードが、債権国側では過剰な債務を通じて債務国を実質的な支配下に置くといった問題が惹起されうる。

租借地・港湾権・鉄道権・空港権などの重要な地政学上の権利を債務国側から合法的に取得する。

国際的な動き

2019年6月、福岡市で開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議では、新興国への投資が議題の一つとなり、貸し手と借り手の双方に持続可能性を重視するよう促す「質の高いインフラ投資に関するG20原則」が採択された。

中国が債権国側となっている例

中華人民共和国は、21世紀に入ると走出去の一環として国際間の有償資金援助を増やし、世界最大のアメリカ国債・日本国債の保有国になるなど一時は日本に次ぐ世界第2位の債権国にもなったが、先進国基準のガバナンスやコンプライアンスに反する融資を受け入れた多くの発展途上国では財政規律を無視したインフラ整備等を行ったため、巨額の負債に苦慮することとなった。中国は一帯一路構想を進めていく中で、インフラ投資を通じて途上国を政治的影響力下に置く「借金漬け外交」との批判も起き、これを受けて中国は中国・アフリカ協力フォーラムなどで債務免除を行う姿勢を打ち出しているものの対象は最貧国に限定されている。

エチオピア

エチオピアは、アフリカ連合本部のようなランドマークにはじまり、エチオピア初の環状道路や高速道路といった全土の道路の7割、初の風力・水力発電所、初の工業団地、アディスアベバ・ライトレール、グランド・ルネサンス・ダム(英語版)、新国立競技場アディスアベバ・ナショナル・スタジアム(英語版)、ジブチ・エチオピア鉄道、アフリカ最大のスマートフォンメーカーとなった伝音科技の携帯電話工場、全土の通信網の整備などといった様々なインフラ投資を中国から受けて経済成長率で世界1位も記録し、大統領(ムラトゥ・テショメ)には中国留学歴もあるなど「アフリカの中国」とも呼ばれており、一帯一路のモデル国家に位置付けられてる国であるが、債務額は国内総生産の59%にも及んでおり、その大半は中国からの融資とみられている。

トルクメニスタン

トルクメニスタンは、永世中立国を掲げる独裁者のサパルムラト・ニヤゾフ大統領が2006年にロシアへの経済的依存を減らすためにウズベキスタン、カザフスタンを経由して中国に至る中央アジア・中国パイプライン(英語版)の建設で合意し、後継者のグルバングル・ベルディムハメドフ大統領も翌2007年中国国営石油公社(CNPC)とバクチャールィク(Bagtyarlyk)鉱区での生産分与協定(PSA)を締結して天然ガス売買契約に調印し、ガス輸入国としても2011年には中国がロシアを上回る経済における対中偏重が始まり、2017年時点で輸出の約83.2%(65億7,512.6万ドル)を中国が占めた。中国へのガスパイプライン建設で約40億ドルの債務を抱えて経済危機にもなっているために「債務の罠」にあたるとロシアのニェザヴィーシマヤ・ガゼータから評されている。

ベネズエラ

ベネズエラは、世界最大の原油埋蔵量を保有し、反米的なウゴ・チャベス独裁政権下では中国とベネズエラの関係は石油を媒介として相互補完関係だったものの、チャベスの死と後継者のニコラス・マドゥロの失政と石油価格の暴落によってベネズエラの経済は崩壊し、ベネズエラ最大の債権国である中国は200億ドルの損失を出したことから「債務の罠」が諸刃の剣であることを示す例とウォール・ストリート・ジャーナルは評している。

スリランカ

スリランカの例では、大統領の3選禁止を撤廃するなど独裁的で親族を要職につかせて汚職が蔓延したとされるマヒンダ・ラージャパクサ政権は中国との関係を強めてインフラ投資を進めたが、中国の支援の下で進められたハンバントタ港建設時の費用約13億ドルの債務が返済できなくなり、2017年に後任のマイトリーパーラ・シリセーナ政権下で中国の国営企業が救済という形で99年間借り受ける契約を結んで実質的に中国が所有する港湾となっている。2017年、インド政府は同様に中国による建設から赤字続きで「世界で最も空いている国際空港」と酷評されていたマッタラ・ラージャパクサ国際空港に出資して40年間借り受けることが報道された。インド側に空港を利用するメリットや喫緊に利用する計画がないため、空港から自動車で30分ほどの距離にあるハンバントタ港への牽制とされる。

2020年から始まった世界的な新型コロナウイルスの感染拡大はスリランカ経済を直撃。スリランカ政府は年間45億ドルの対外債務返済することが困難となった。スリランカ政府は外貨の流出を防ぐため、スリランカ料理に不可欠なターメリックにまで厳しい輸入規制を実施した。これに対して大規模な抗議デモが相次ぎ、2022年7月には政権が崩壊。第9代大統領へと就任したラニル・ウィクラマシンハは国家としての破産を宣言、国際通貨基金 (IMF) に支援を要請した。これを受け、9月1日、IMFはスリランカに対し国内の経済改革のほか、対外債務の整理を条件に29億ドルの金融支援を行うことで暫定合意に達したと発表した。2023年5月には、債務再編に向けた会合が開かれた。

マレーシア

マレーシアは、政府に批判的なジャーナリストらの逮捕など強権的で腐敗していたとされるナジブ・ラザク政権中国との関係を強めてインフラ投資を進めたが、2018年5月にマハティール・ビン・モハマドが首相に返り咲いた時点で1兆リンギ(約27兆2千億円)の巨額債務があった。このため、中国主導で進められてきた公共事業等の見直しが始められた。2019年1月には、総工費810億リンギ(約2兆1500億円)に達する東海岸鉄道計画を正式に中止させ、同年4月に中国は財政再建を行うマレーシアと215億リンギ(約5800億円)まで建設費用を削減することで合意した。

モルディブ

モルディブでは、2013年にアブドゥラ・ヤミーンが大統領の職につくと反体制派を弾圧する強権的な政策をとり、歴代政権が採ってきた親インド外交から距離を置いて中華人民共和国に接近多額の資金供与を引き出して港湾、人工島、島嶼の連絡橋(シナマーレ橋)の建設などインフラ整備を充実させた。野党指導者で元大統領であるモハメド・ナシードは、2020年には中国への借金返済額が7億5000万ドル(約825億円)に達し、国家歳入の半分にもなると指摘している。

2018年、大統領選挙に勝利したイブラヒム・モハメド・ソリ大統領がインドを訪問。インド側から14億ドルの融資枠と通貨スワップの提供を引き出し、親インド寄りの姿勢を鮮明にした。

バヌアツ

バヌアツに対する中国の投資額は、2011年-2018年にかけて12億6000万ドル(約1400億円)に上っており、バヌアツの首相官邸や巨大な会議場、スポーツ施設の建設、港湾の改修が進められた。改修された港湾には、中国海軍の艦艇がたびたび立ち寄っている。

パキスタン

パキスタンは、中国の古くからの友好国であり、グワーダル港やカラコルム・ハイウェイなど一帯一路の要衝が開発されたが、2015年に公的資金が投入されなければ継続不可能な莫大な借金をきたして国際通貨基金(IMF)やサウジアラビアなどにも財政支援を要請することとなった。

タジキスタン

タジキスタンは、エモマリ・ラフモン大統領の長期独裁政権のもとで2006年にほぼゼロだった対中債務は2016年に11.6億ドルに達して二国間債務の9割を占めるまでになり、中国人民解放軍の駐留も報じられており、世界開発センターは一帯一路関連の68カ国の中で最も「債務の罠」のリスクがある8カ国の1つに挙げている。

ジブチ

ジブチは、イスマイル・オマル・ゲレ大統領が独裁体制を敷く典型的な中継貿易国家で日本の自衛隊や中国人民解放軍にとって初の海外基地も存在するが、2016年時点で対外債務の82%は中国であり、アメリカのジョン・ボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官は「債務の罠」の象徴的な国の一つとしてジブチを挙げている。

中国流“金融道”の実態 「債務のわな」よりはるかに巧妙か

「中国は返済リスクを軽減する独自の方法をもっている」
こう語るのは中国の途上国向け融資を長年、研究してきたアメリカの専門家です。
中国は一帯一路構想のもと、投融資をパッケージにして途上国でのインフラ開発を進めてきました。
中には多額の債務を返済できず、港湾施設などの権益譲渡を迫られる「債務のわな」に陥ったと言われる国も出てきました。しかし、中国の融資の実態は「債務のわな」より、はるかに巧妙だと指摘する衝撃のリポートが公表されました。チャイナマネーの知られざる側面を読み解きます。

(ワシントン支局記者 小田島拓也 / 中国総局記者 下村直人)

プロ集団が徹底分析

アメリカ南部バージニア州にある名門公立大学、ウィリアム・アンド・メアリー校。この大学に拠点を置く研究所が「エイドデータ」です。

エコノミストや政治学者、地理学者にプログラマーなどさまざまな専門家が集まり、詳細なデータを収集して政策や投資の影響を分析しています。

2023年11月6日、エイドデータ研究所は中国による途上国への融資の実態を分析した最新の報告書を公表しました。

中国融資 アメリカを上回る

チームを率いるブラッド・パークス所長はグローバル経済における中国融資の存在感が桁外れに大きいと指摘します。

パークス所長
「中国は毎年、低・中所得国に750億から1000億ドルの融資をしており、融資総額はアメリカをも上回る世界最大の公的債権者なのだ」

調査対象は、中国が22年間にわたって165の低中所得国に融資などを行ってきた2万を超えるプロジェクト途上国が中国と結んだ融資の契約書や途上国の政府高官など数千人への聞き取りをもとに、およそ400ページにわたってその実態を克明に記しています。

素早い融資 西側を凌駕

まず、明らかになったのは、中国による融資の規模とスピードです。世界銀行や西側諸国は、これまで多くの途上国が債務危機に陥り、救済策として借金の棒引きを行った経験を踏まえ、途上国融資に慎重になっていたといいます。このため、中国が資金を提供したインフラ事業は、平均わずか2.7年で完了したというのです。世界銀行などが融資した同様のプロジェクトは完了までに通常、5年から10年掛かっていて、その優位性は一目瞭然です。

短期間でインフラを整備でき、経済成長や国民からの支持拡大につながるインフラ事業の実現は、途上国の政権にとっては、渡りに船。エイドデータ研究所が行った聞き取り調査では、途上国の政府高官などが、インフラ事業への中国の協力を強く希望している実態が浮き彫りになったとしています。

一方の中国は、その穴を埋めるように、外貨準備として抱える巨額のドル資金をもとに、大規模な融資を素早く行ってきました。融資の審査で、「お役所仕事」や「面倒な手間」をできるだけ省いて迅速なプロジェクトの実行を支援

世界最大の債権国にのぼり詰めた中国が直面した現実

中国はこうして世界最大の債権国にのぼり詰め、途上国への融資の残高は、元本だけで少なくとも1兆1000億ドル、日本円でおよそ165兆円に達しています。しかし、待っていたのは、途上国の返済が滞るという現実でした。全体の融資のうち、55%が2023年には返済期限を迎え、その割合は2030年には75%にのぼるとも推計されます。期限を迎えても返済が滞る額は急増したといいます。

スピード融資の代償として、貸した金が返ってこないという、深刻な事態に直面しているのです。

変貌する中国の融資

こうした中、今回のエイドデータ研究所が明らかにしたのは、巨額の融資を行いながら返済が滞った“失敗”を教訓に、中国が危機管理能力を高め、融資のあり方を根本から変貌させた姿です。

① 秘密の専用口座を設定

その手段の1つとして、2国間の融資で、中国が途上国と秘密裏に結ぶ独自の契約が判明しました。融資の返済が滞った場合、中国だけが途上国の専用口座から担保の現金を強制的に引き出せる契約になっていたというのです。すべての債権者の中で中国が優先して返済を受けるためです。

この専用口座には、融資額全体の5%から10%が預金されていますが、中国が一度引き出してしまえば、預金が底をついてしまいます。そこで、中国はバックアップ口座を用意。預金がなくなった場合には、途上国のインフラ事業から生み出される収益が入るバックアップ口座から、自動的に専用口座へ現金が補填ほてんされる仕組みだというのです。

② 罰則金利 3倍近くに引き上げ

また、返済が遅れた国への罰則を強化していて、2017年までの4年間は上限が3%だったのに対して、2021年までの4年間8.7%と、3倍近くに引きあげていたということです。

中国の途上国への融資をめぐっては、多額の債務を返済できない場合、港湾施設など重要なインフラの権益の譲渡を迫る「債務のわな」がよく指摘されますが、こうしたインフラ施設は、実はすぐに現金化するのが難しい流動性が低い資産です。

今回、明らかになった専用口座の存在と、バックアップで現金が補填ほてんされる仕組みは、中国が融資の回収を確実にできるという点において、債務のわなより、はるかに巧妙だと研究所は指摘しています。

パークス所長
途上国が一度債務の返済を滞らせれば、今後も同じことが繰り返されることは容易に想像がつく。そこで、中国は、期日通りの返済を確保しているのだ。巧妙で洗練されたさまざまな防御網をはりめぐらしている
こうした契約の実態をエイドデータ研究所は主に途上国の財務省の債務情報から突き止めたとしていますが、契約には厳密な守秘義務があるためほかの債権国には分からないようになっていると指摘しています。

中国側からすれば“正論”

一方、中国側からすれば、経済成長を支援するため、資金が欲しい国に迅速に出すこと、そして拠出が早い分、金利を高めに設定したり、遅れた場合には罰則金利を取ったりしていることの何が問題なのかと言いたいかもしれません。自国優先で債務の返済をさせているとすれば透明性の観点から問題だと思いますが、確実に資金を回収できるよう、契約に基づき専用口座を設けているのは、金を貸す側の論理でいえば”正論”ではないかとの見方もあります。
中国政府のアドバイザーを務めるシンクタンクの王輝耀理事長は次のように述べました。

王 理事長
一帯一路プロジェクトは、共同協議と共同建設であり、中国とプロジェクトを進める国の双方が協議し、合意して署名したもので、誰かが強制したというものではない。中には、個別のプロジェクトで、計画が野心的すぎた可能性があるものもあるかもしれないが、これは非常にまれな現象であり、一帯一路は、大多数の途上国から歓迎されている。中国に対する国際社会の理解は不十分で、少し誇張され、誤った判断があると感じる。一帯一路は、中国のイニシアチブであると同時に、世界が共有すべき公共財だ」

なし崩しになる平等の原則

多くの債権者が関わる途上国の債務問題の解決にあたっては、交渉の過程を透明にし、すべての関係者が同じ条件で債務負担の軽減に取り組むことが不可欠です。

実際、2020年11月、中国も加盟するG20は、すべての債権国が同等の条件で債務の再編に応じ、公平に負担を分担することで原則合意しました。

しかし、今回の報告書で浮かび上がったのは、中国が単独で進める戦略でした。

パークス所長
「欧米各国は、債務危機をできるだけ早く解決しようと中国に協調を呼びかけているが馬の耳に念仏だ。中国政府は『我が道をいく』ことでこの危機を乗り越えようとしている」

債務を再編する交渉への参加にあたっては債権者が平等な立場であるとの保証がない限り、債権者は消極的になってしまいがちです。

一方、世界最大の債権国、中国を抜きに途上国を救済することはできないのが現実です。中国流“金融道”の姿を冷静に見極めつつ、国際機関や日本を含む先進国が粘り強く中国を巻き込み、途上国の借金を減らしていくという難題が突きつけられています。
ワシントン支局記者小田島 拓也
2003年入局 甲府局 経済部
富山局などを経て現所属
中国総局記者下村 直人
1999年入局  津局 経済部
ロンドン支局などを経て現所属


参考文献・参考資料

不気味、笑顔は習近平だけ…欧米露がいぬまに軍事基地建設の「秘密協定」か、経済崩壊の中国がアフリカに援助大盤振る舞い (msn.com)

借金漬け外交 - Wikipedia

中国流“金融道”の実態 「債務のわな」よりはるかに巧妙か 習近平政権の途上国向け融資を解明 | NHK

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