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ガンプラを「ハードボイルド塗装」する

世の中には「チラ見せの美学」というものがあるのである。両腕のないミロのヴィーナス像、夏目漱石の未完の大作「明暗」といったものだ。最近は「下乳の女王」というグラビア・アイドルもいるらしい。たしかに普通乳房全体を覆っているべきビキニブラジャーが、なんと上半分しか覆っていない。それによってふくよかな乳房の下側10~15%だけがあらわになっているわけである。

「余白」とは、見る者の想像力と結託して全体の美をはるかな高みまで引っ張りあげる。

ガンプラにもチラ見せを施すとカッコよくなる。〝墨入れ〟は知っているかと思うけれども、いわばそれを〝面〟で行うのである。

それを私は「ハードボイルド塗装」と名付けた。

実はこれは私がはじめてガンプラを作った時に思いついた簡易塗装でもあった。黒を塗ってヤスるだけで初心者でも簡単にカッコよくできるので、君も挑戦してハードボイルド哲学を味わおう。

他人に勝とうとしている人間を人は応援しない。己に勝とうとしている人間だけなのだ、というハードボイルド哲学を。


■まずは黒

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👆ガンダムNT-1、通称「アレックス」。すでにカッコいいけれども、さらにハードボイルドさを出していくのである。

ハードボイルドで重要になるのは影である。

ガンプラであればプラモ自体に色が付いているので、それを活用してまず全体を黒く塗ってそれをはがすという手順を踏むのが簡単である。

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👆つや消し黒で全体を塗装。実際はそれほどこだわらなくてもとりあえず黒スプレーならオッケーだ。こだわるなら特につや消し力が強いこれ。

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👆いちいち塗り分けもいらないので各パーツを分解して塗りやすくすればオッケー。

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👆成功である


■乾燥の待ちしな、ハードボイルドの神髄を学ぶなら

塗装が乾くのを待つ間は、せっかくなのでハードボイルド小説などを読んで、ハードボイルドの素晴らしさを実感しておきたい。

「あら、あなたとっても背が高いのね」
「おれのせいじゃない。」

こういうカッコいいセリフの小説などである。

おすすめは以下の5作品である。(ちなみに上記引用はレイモンド・チャンドラーという作家の『大いなる眠り』一節)


●おすすめハードボイルド小説――『初秋』ロバート・B・パーカー

これぞハードボイルド。これぞタフな男。という感じの代表。なにしろ筋肉トレーニングをしながら、親がいなくなった子供を助けるストーリー。余計なことは語らず、黙々と失踪の真実を追求していく探偵スペンサーの姿は誰しも胸を打つ。


●おすすめハードボイルド小説――『ホワイト・ジャズ』ジェイムズ・エルロイ

「あまりベラベラ喋らない」「寡黙な男」がハードボイルドとすれば、エルロイは90年代に突然変異的に誕生した超究極である。

ちょっと初っ端の文章を取り上げるとこんな調子で、なにしろ語りでもあまり詳しく状況を説明しないのである。

任務=ノミ屋の根城を叩いて、記者どもに見せる──ボクシング疑惑に負けないネタをくれてやる。
 密告された変態のデブを責めあげた収穫=十四台の電話、レースの電報。エクスリーからメモがきた。後でホテルへいったら、力ずくでも証人を締め上げろ──連邦が何を企んでいるか探り出せ。

何が起こってるかがわからない。

何が起こっているかわからないからとんでもなくリアルに、頭が混乱しながら、アメリカの麻薬事件が実感できるという超問題作。私は大好きで大好きで2、3回は読んだ。


●おすすめハードボイルド漫画——『ゴルゴ13』さいとうたかを

これは小説ではなくて漫画なのであるが、劇画の代表格、ハードボイルドの代表格として取り上げないわけにはいかない。近所の弁当屋に置いてあり、それが読みたくて通いつめたことは私のよき思い出である。

ガンプラ塗装に挑戦中の我々は何よりも「これだけ顔を真っ黒に塗っても、決してデューク東郷の顔の形が変なわけではなく「影」と認識するんだなあ。」というところを学びたい。


●おすすめハードボイルドフォーク——吉田拓郎『人生を語らず』

黙して「そこを越えてゆく」。この歌詞をハードボイルドと言わずなにをハードボイルドというか。


●おすすめハードボイルドロック——The Strypes - Hometown Girls

ハードボイルドな雰囲気のロックでカッコよすぎ。70年代くらいのカバーっぽいけれども、2013年の曲。今なお〝ハードボイルド精神〟は鍛練を休まない。


■光の当たる部分をヤスってはがす

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👆乾燥した。炊飯器に入れるとおいしく米が炊ける可能性もある。

しっかりハードボイルドの神髄を吸収したら、後はそれぞれの形状に合わせて光が当たりそうな部分にヤスリをかけてはがしていく。

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👆まずは盾の光が当たる部分を削ると、

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👆ハードボイルド。ヤスリは240番くらいの粗めがおすすめ。ツルツルになり過ぎず、削った線が残っていい雰囲気になる。

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👆頭もハードボイルドに。君に絵心があるならば、二次元の影の付け方の知識を総動員させたい。私はないので大体。

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👆できたのである。この孤独と悲哀。闘うアレックスにとってむしろ一番の味方はザクなのだ。

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👆マークIIにもやってみると

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👆一挙にハードボイルド。汚しともちょっとちがう、松田優作的雰囲気を感じてほしい。

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👆これはハードボイルドというか狂気的に仕上がった。結果オーライである。


■まとめ――ハードボイルド塗装とチョコ

基本的に黒スプレーをしてヤスれば良いだけなので、ハードボイルド塗装は初心者にもおすすめである。

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そして感じるべきなのは「見せない」ことによって漂うカッコよさであろう。こうしたカッコよさは2021年のバレンタイン・デーも近づきつつある昨今、男子諸君にとっては看過すべからざる火急の問題かもしれないからである。

寡黙に鍛錬を続ける男。

結局完璧な姿は、誰も望んでいないのだ。一番見たいのは、日夜の鍛錬でどうしても埋められない君の〝余白〟なのだ。彼女はそのスペースに、きっと最高のプレゼントをそっと置いてくれるはずである。

👆初心者におすすめのガンプラを紹介した私の記事。

👆メインはエアブラシだが、エアータッチで簡単にプラモを塗る方法も解説しているので参考にしてほしい。

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