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こだわった先のオカルト。

「水風呂から出たあとは、絶対に体の表面を拭きますね。皮膚に水滴が残ってるとそこから先に冷えてしまう感じがあって、なるべく拭き取って、全体的に均等な体でもって休憩することでサウナの効能をフルに楽しめると思ってます!何度も何度も体をキレイに拭いてるのはちょっと変かもしれないですけど、これけっこう大事だと思っててぇ…」

仕事先で「サウナのこだわり」について聞かれ、その日はサウナ好きとして呼んでいただいたこともあり、意気揚々と話していたところ、あまり興味を示していなかった聞き手の方が驚いた顔でこう言ってきた。

「気のせいじゃないですか???」

あの、梯子の外し方エグいんですけど、、と感じた一方で、少しハッとしてしまった。

もちろん、これは気のせいではない。ずっとサウナに入ってきた上で大事にしている自分なりの所作ですし、そもそも「こだわり」なら勝手な話をさせてほしい。しかし、この「気のせいじゃないですか???」という返し言葉には、どこか肩透かし以上の「距離」を感じて心に残ってまして。

興味のある人が深掘りしてこだわったポイントって、興味のない人からしてみればナゾのお話であって、ワケの分からない、ゾッとするようなものとして映るのかもしれない。なぜこの人は目をランランとさせながら水滴について熱弁しているのか。均等な体とは。ずっと何をおっしゃっているのですか?「気のせいじゃないですか???」

あの時の表情は驚いていたのではなく、引いていたのかもしれない。こだわりはある程度の範囲を超えると「オカルト」に近づいていくことを知った。

こだわりはやがてオカルトになっていく…そう思うとなんだか切ない。とても大切なことを研ぎ澄ませているうちにオカルト化しているなんて。でも、自分にも経験がないわけではない。大学時代、写真学科の友人がいろんなカメラで撮った同じネコの写真を何パターンか見せてくれたことがある。それぞれの違いやカメラごとの性能の差について「温かみが違うよね!」とか「色味がパキッとしてるだろ?」と話してくれた。なんとなく分かるかも、くらいのスタンスでどうにかついていったはずだったが、次の言葉を聞かされた瞬間、僕は彼を見失った。

「ん~、やっぱこっちは厚みがあるよね!!」

この時、彼は僕の元を離れ、オカルトの細道へ入っていった。

オカルトは深い。昔、テレビのカレー特集で、さんざん辛いスパイスを入れたのちに「最後の隠し味はこちら!砂糖を入れましょう!」と笑顔で紹介していた料理人をみて、オカルトを感じた。オカルトというか、どうかしていると思った。でものちに、家でカレーを作る時に試してみたら美味しくて、それ以来このオカルトにはお世話になっている。オカルトとカレーには深みがある。砂糖はコクが出てすごくオススメです。

知らないジャンルに関しては怖さを感じる一方で、好きなものであればあるほど、この「オカルト」にこそ魅力があって、お金を払いたいと思ってしまう。サウナで言えば、サウナと水風呂の距離、室温水温、水のまろやかさ、休憩スペースの作り、通り抜ける風の動き、、、少しでも自分の持っているオカルトチェックシートに当てはまる施設を求めて生きている。「まろやかさ」辺りが皆さんにとってはオカルトかもしれない…でもあるんです。まろやかだなぁって思っちゃう水風呂が。まあいいんですけど…。

そう考えると、今やっている仕事なんか、とてもオカルトなことをしている。台詞と感情は一致しているか、語尾は上げるべきかどうか、間は空けるのか空けないのか、気付いてから顔を上げるのか上げてから気付くのか、音にハメるなら3文字多いか、あと15秒削るには何文字削ればイケるのか、この間奏の尺でツッコめるのか、1800文字ならなんとか5分くらいになるか、、、オカルトの戦いを続けて10数年。当たり前だけど、ウケる時もあればスベる時もある。一筋縄じゃいかないからオカルトって面白い。先日、キングオブコントの開催発表があった。オカルトの極みを目指して頑張りたい。


#ラブレターズ

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