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Social Goodを台無しにするSocial Bad

「Social Bad」と呼びたい存在がある。それ自体は無益、無価値、でもとりあえず単体ではおおむね無害。でも彼らがSocial Goodについて言及するとき、その無益っぷりに対象のSocial Goodを巻き込んで台無しにする、そんな存在だ。

最近、コーヒー生産地の低賃金についてとりあげた記事を読んだ。こんな流れだ。

・100円のコンビニコーヒーが、コーヒーをより身近なものにしてくれた。
・サードウェーブと呼ばれる新たなムーブメントにも注目が集まっている。
・こうしたコーヒーブームの裏で、私たちの知らない事実がある。
・いわゆる新興国と呼ばれる国々が、世界のコーヒー豆生産量を支えている。
・1杯のコーヒー価格の約10%しか生産者の収入にならない。
・生産者の持続可能な生活・生産を支えるフェアトレードが機能していない。

悲しい話だ。いやでも、ちょっと待って欲しい。この流れでは、コンビニコーヒーやサードウェーブコーヒーなどのコーヒーブームの裏に、フェアトレードが機能していない現実があるように読める。そうだよね?でも代表的なサードウェーブコーヒー店の一つといわれるフォーバレルと、その創業者のジェレミーについて、GQ JAPAN の記事はこう伝える。

「コーヒー企業のすべてを、最高の状態で発展させる」というフィロソフィーをもつジェレミー。すなわち、農園や従業員に充分なコストを支払い、ヘルスケアや教育を提供し、継続的に良い「手仕事」が続けられ、最高の品質のコーヒーを提供する環境を作り出していた。(略)実現できる理由は、ソーシング、すなわち最高品質の豆を農園を飛び回って作ったコネクションによって投資をし、直接取引すること。

フェアトレードだ。農園との直接取引をして、充分な対価を支払うだけではなく、農園のクオリティ向上にも手を貸している(※1)。

ブランドを伝え体験と会話をもたらすカフェと、ビジネスの源泉となる卸売り。このビジネスモデルこそ、サードウェーブが持続的な成長を続けるための仕組みだ。

そしてクオリティ、つまりその農園の豆の美味しさを伝えるためのカフェを持ち、その豆を流通させる卸売りも行う。

フォーバレルに限らず、農園との直接取引と、その豆の味を伝えるシングル・オリジンの二つは、サードウェーブコーヒーの共通点と言われる。農園に消費者の支払うコーヒー価格に対する充分な売上をもたらす直接取引と、そのコーヒー価格自体を品質に見合った水準に押し上げるブランディング。加えて老舗は、そのフェアトレードの規模を押し上げる卸売り。そしてそれらを持続可能にするビジネスモデル。持続可能で発展可能なフェアトレードの実践がサードウェーブ・コーヒー・ムーブメントのはずだ。

この記事はそのタイトルから、フェアトレードに関心を持つような層の目にとまり、読まれるだろう。そしてその内容で、本来なら彼らが支持するようなサードウェーブコーヒー店から、彼らをなんとなく遠ざけると思う。たぶん意図したことじゃなくて、コンビニコーヒーという感度高い話題と、サードウェーブコーヒーという意識高い話題と、生産地の低賃金という古くからの指摘を、各所からコピーしてきて一つのURLに貼り合わせたのだ。ただの偶然でこうなったのだ。

悪意も大した害もないはずのこうしたものが、Social Goodに関わった瞬間に、効率よくSocial Goodの潜在支持者を集め、効率よくSocial Goodな活動から遠ざける。Social Goodはみんなの参加と利用が最大のエネルギー源だから、効率よくみんなを遠ざければ効率よくSocial Goodな意思を台無しにする。一滴の泥水が口に入ったなら吐き出せば済むけど、ワインボトルに入れば一本を台無しにする、そんななにか。

Public Enemyとか呼んで憎悪するには足りないけど、僕が好きになれないそれに呼び名をつけておきたい。例えば「Social Bad」とか。

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写真はJeremy Keithによる「Four Barrel coffee」。ライセンスはCC-BY

※1 厳密にフェアトレードか、例えばフェアトレードの10の指針原文)の全部を満たしているかといえば、いくつかは分からない。ここではこれ以上踏み込まなかったが、それがやはりSocial Badを産むようだったら陳謝し、修正したい。お気づきの際は、ご協力いただきたい。

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