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脱大企業病年忘れぶっちゃけ座談会に行ってきた

12月19日(水)夜にあった「脱大企業病 年忘れぶっちゃけ座談会」に行ってきました。いろいろと腑に落ちたところが多いのですが、一方で、大企業病は難しいなと思いを新たにしました。内容はすでにTogetterにまとめが、YouTubeに動画が公開されていますので、そのあたりの感想を残しておこうと思います。

大企業病と企業内特殊熟練

会社員のスキルには、澤さんが繰返し挙げたどこに行っても通用する「汎用スキル」と、これと対になる「企業特殊能力」「企業内特殊熟練」と呼ばれるものがあります。企業内特殊熟練を僕なりに説明すれば、その企業独自の規則、規定、運用、慣行、人脈などに通じていることで、組織が「阿吽の呼吸で」連動でき、「考えなくても」コンプライアンスを違えないように根付いてきた文化でもあります。

イベントの冒頭、角さんは「自ら作った仕組みや制度に縛られて身動きがとりにくくなっている組織の状態。そして、そうした組織に最適化した人間の行動。」と大企業病を定義しました。こうして見比べると、大企業病とは、広範な企業内特殊熟練の中の、好ましい結果に結びつかなくなっている一部分、と言えそうに思えました。

大企業病の浸透と定着

ピラミッド型組織が大きくなると、その中間階層をつなぐ中間管理職の存在が必要になります。企業内特殊熟練はその会社固有の組織運用スキルですから、日本型企業では「企業内特殊熟練者が課長になる」と言われています。一方で、大企業病は前述したように企業内特殊熟練の中に潜みます。つまりこの観点では「頭がいいほど(大企業病にも)最適化されやすい」という側面が出てきます。

大企業病の発生は「(社内外の)だれかが問題を起こしてルールができる。どんどん縛りができる」ことと角さんは説明していましたが、これは組織の大小を問わず起こりそうです。しかし大企業では中間管理職が、「どんどんできてくる縛り」を比較的無批判に、教条的に、部下に伝道し、違反者や反対者から守護し、定着させてしまう役目を果たすことになりそうです。

ひきはじめの風邪程度でしかなかった「イケてない縛り」の病を、大企業では浸透、定着させてしまう仕組みがある、と考えられます。

大企業病をこじらせる

大企業では、あと二つ厄介な点に思い当たります。一つは「役職と給料が紐付いている」点。一度中間管理職についてしまうと、給与を維持するにはその立場から離れられません。その立場というのは、企業内特殊熟練に通じ広める立場、その一部として大企業病のキャリアーとし飛び回る立場です。

もう一つは規則を求める経営者、制定する管理部門、従わせる中間管理職、従う現場の分離と距離です。現場がある規則をイケてない、業務効率の妨げだと感じても、それは経営者や管理部門に届きません。届けるには、ピラミッド型の縦割り組織では共通の上司まで順繰りに話を挙げて、そこで折り返して相手方まで順繰りに話が降りていくのが正規ルートです。

そして現場にはその規則を厭う気持ちがあっても、そのほかの人たちには規則を見直すモチベーションが薄いのです。中間管理職は効率への期待の一方で企業内特殊熟練の体現者として仕組みを滞りなく回すことも期待されており、板挟みです。経営層は効率と改善に興味がありますが、規則一つ一つが経営課題に挙げられていては経営判断が滞ります。しかし効率改善は管理部門の役割ではなく、業績にもなりません。

構造的問題と草の根活動

病が受け継がれる構造はあるのに、患部の「痛い」という信号は、中間管理職のつなぐ神経を伝わず、経営層からなる脳に届かず、規則を生み出した病巣を変えない。病が癒えることがないうちに次の病を得て、どんどん合併症化していく姿が浮かびます。中小企業でも発症するけど、大企業では構造的に重症化・長期化・合併症化しやすい病。たしかにこれは「大企業」病です。

イベントでは、「外のモノサシを持つ」「しゃべる側に入る」「唯々諾々ではなく敢えて確認」などの処方も示されました。これは「人の大企業病」には特効薬だと思いますが、「組織の大企業病」には効くのでしょうか?もちろん効きます。一人一人が変わることから組織は変わるのです。でもその草の根活動による自然治癒の速度は、日々の大企業病の発生速度を上回れるでしょうか。

免疫細胞治療という本によれば、毎日体内では5,000個の癌細胞が生まれ、多くは免疫系で死滅させられています。しかし免疫細胞がたまたま見逃した癌細胞が、10〜15年かけて30回の細胞分裂を経て、細胞数10億個、1cmの塊に育つと初めて検査で発見できるようになるのだそうです。この段階になると免疫系の処理能力を上回っており、自然治癒を望むのは難しくなります。

イベントでは、自分や職場の状況を理解したと思った腹落ち感とともに、この「構造的問題 対 草の根活動」という構図を感じ取りました。そして速度の問題を考えた時、一度根付いてしまった大企業病に向かい合うのは難しいなあ、と改めて思ったのです。

大企業病 対 企業内特殊熟練

最近の「メモリ8GBは人権」問題は私たちの社内SNSでも話題になりました。これに対して経営層肝いりの改善活動WGの事務方からは「SNSの投稿は見ているが個人の愚痴の範囲を出ない」との見解でした。大企業病は薄く広く迷惑が広がっている問題で、一人の事例に焦点を当てると大したことがなく見えがちです。どれだけの人数がどの程度困っているか、そうした情報がまとまって初めて議論できる、というのでした。

大企業病は「広く薄く弊害がある」ことが多く、具体的事例を挙げただけでは他部署が動きにくい、という側面があります。しかし見てきたように、規則を求める人、定める人は他部署なので、そちらが動けるように形を整えるのが「急がば回れ」の早道ということがままあります。これは企画提案という汎用スキルとともに、社内調整・折衝という企業内特殊熟練を活かす場面でもあります。大企業病という企業内特殊熟練のダークサイドに対して、企業内特殊熟練のライトサイドで戦うのです。

本当はそうした問題の可視化は改善活動の仕事の一環のはずですが、初期段階でそこを担う人がひつようになります。沢渡氏は「マンガでやさしくわかるチームの生産性」のなかで、こうした活動を「ヒーローによるボランティア」と呼んでいました。

大企業病 対 私達

おそらくこのイベントに興味を持った人、あるいはこの文章に興味を持ってくれた人の多くは、僕と同じ「規則に従う現場」の一人で、もしかしたら脱「人の大企業病」を果たしたヒーローの志を持つ一人でしょう。

もしそうであるなら、僕が呼びかけたいことは、現場層での草の根活動からもう一歩進めることです。それにはまず中間管理職と、経営層と、管理部門と共闘態勢を組むことだと思います。そのためには、問題を統計にかけ、プレゼンし、関係者の合意をつくりあげることです。それに必要な企業内特殊熟練を身に着けつつ、そのダークサイドに冒されて規則に盲目的に従わせる立場にならないことです。

現場対中間管理職、現場対管理部門、現場対経営層という構図は、きっとメンタルにまで根の届く一番深い大企業病のように思います。この「あなたたち 対 わたしたち」の構図から抜け出し、現場と中間管理職、現場と管理部門、現場と経営層で大企業病に立ち向かう「問題 対 わたしたち」の構図にシフトすること。それが「組織の大企業病」に立ち向かう第一歩かな、と思います。

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写真は会場で購入した澤円氏「あたりまえを疑え。」と沢渡あまね氏「マンガでやさしくわかるチームの生産性」。筆者撮影。

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