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喫茶店モーニングを食べながらキャッシュレス・シフトを考えた

近所の喫茶店で朝食を食べていて、おやと思った。すぐ横のレジ前にこんな貼り紙。一部は隠れていて読めないけど、どうやらクレジットカードの取り扱いはやめたらしい。従来、飲食店の支払い方法と言えば「現金のみ」か「現金かクレジットカード」だった。それがクレジットカードを廃して「現金か電子マネー」に切り替わっていく。その可能性を実感として覚えさせられる。

ポイント還元事業とキャッシュレスの広がり

2019年10月の消費税率引上げ時、消費平準化とキャッシュレス推進との両目的でキャッシュレス・ポイント還元事業が経産省により行われ、この時期に電子マネーを扱うお店が急増した印象がある。数字で見るなら、6月30日に経産省が「キャッシュレス・ポイント還元事業に関する消費者及び店舗向けアンケートの調査結果」を公表している。

普及率でいうと27%から36%へとか大きく増えているものの、意外に低い。意外というのは、僕自身はちょっと前に書いた通り支払いをPayPayに寄せているのだけど、スーパー、喫茶店、飲食店、書店など、日常の支払いで困らないくらい普及してる感覚があるからだ。

でもこれは僕がPayPayを扱っているお店に無意識に足を向けているということかもしれない。例えば店舗外から見える「PayPay使えます」の幟やシールは無意識に頭に入ってくる。僕はあまり縁がなかったポイント還元キャンペーンだけど、この中でも利用者の5割がポイント還元を実施しているお店を意識的に選んでいるという結果が出ている。

日常利用するお店であれば、一度選んだお店での買い物習慣はポイント還元事業終了後も残るだろう。消費者側でも還元事業を機にキャッシュレス支払いを始めた人、増やした人が5割前後と「新しい習慣」を取り入れたことを示している。また還元事業終了後も、消費者側の8割、店舗側の9割がキャッシュレスの利用を継続するとしている。

少額決済で嫌われたクレジットカード

ただこれだけであればキャッシュレス決済が伸長してもクレジットカードから電子マネーへという話にはならない。クレジットカードという仕組みは従来から、特に飲食店にとっては功罪両面あったようだ。

PayPayの「要注意!加盟店が支払うクレカ決済の手数料について徹底解説! - キャッシュレス研究所」では、クレジットカード導入のメリットを「来店者が増加する」「高額商品を売りやすい」「業務負荷軽減につながる」とする一方で、「個人経営の飲食店であれば4〜7%」という決済手数料と「10万円前後、電子マネーにも対応しているものは20万円前後」という端末などの初期費用の負担をデメリットに挙げている。

特に数百円から千円程度の少額決済では、この手数料が忌避されたようだ。「クレジットカード 加盟店規約」で検索するといくつかの加盟店規約が出てくるが、おおむね次のような条項がある。簡単に言えば「クレカで」と言われたら加盟店は応じないといけないということになる。

1.加盟店は、会員が、カードを提示して、物品の販売、サービスの提供、その他加盟店の営業に属する取引を求めた場合には、本規約に従い、現金で取引を行う顧客と同様に、店頭において信用販売を行うものとします。

でも実際には少額決済が断られるケース、例えば「ディナータイムのみ」「○○円以上のご会計で」といった但し書きを目にしたことがあるだろう。クレジットカードでの少額決済が断られる事情は多くの場合「手数料が高いから」と説明される。消費者も薄々察してはいて、例えばなじみのお店には現金で支払うという昭和仕草も存在してきた。例えば「バーテンダー」には若い部下に「5千円以下の勘定にカードなんか使うな」と説く自称「古くせぇ」上司が登場する(6巻 Glass 45)。

2019年7月の調査結果をまとめたNECソリューションイノベータの「一般消費者におけるキャッシュレス利用実態調査レポート」を見ると、その辺りの機微が数字で表れている。Q4「あなたは普段の買い物で利用する以下の決済手段で、1回の決済でいくらくらいの金額を支払いますか」の結果を、有効回答数全体に対する割合に直してみたところ、下表のようになった。3,000円以上の支払いではクレジットカード決済、3,000円未満では現金支払いがもっとも多いという結果になっている。

こうしてみると飲食店での少額決済では、店舗側も消費者側もクレジットカード決済を比較的避けてきたように思われる。この領域、特に小銭での支払いとなる1,000円未満の支払いではICカードの電子マネー決済、おそらくはSUICAなどの交通系ICカードがセカンドチョイスになっていた、というのが2019年7月の状況だったようだ。

電子マネーに流れるキャッシュレス・シフト

このレポートでもう一つ示唆的だと思ったのが、各決済手段の非使用理由だ。すべてのキャッシュレス決済手段で「必要だと感じていないから」が1~2位に入っている。またクレジットカードについては「支払った感覚がなく、使い過ぎが不安だから」が1位で抜きんでて高い。

あわせて考えたいと思ったのが、2020年7月にぐるなびが公表した「キャッシュレスに関する調査レポート」だ。調査結果によれば、今後飲食店で利用したい支払い方法として、現金を挙げたのは全体の32.7%にとどまった。裏返せば、67.3%は現金での支払いをしたくないと考えていることになる。

これと対になるのが、同レポートの現金に触れることに対して衛生上の抵抗感の調査結果だ。NECソリューションイノベータによる2019年7月の調査からぐるなびによる2020年6月の調査の間に、世界は新型コロナウィルス禍に見舞われた。その前後で、現金に触れることに対して衛生上の抵抗感は大きく変化し、全体の61.3%が抵抗感を示している。この数字は、現金での支払いをしたくない67.3%にかなり近い。

新型コロナ禍を経て、現金支払いに抵抗を感じる「キャッシュレス支払いを必要だと感じる」層が増加した。飲食店での支払いであれば一層抵抗は強いだろうし、その新規キャッシュレス・シフト層の行き先がクレジットカードではなかった可能性もそれなりに高そうだ。一つにはクレジットカードには「支払った感覚がなく、使い過ぎが不安だから」という抵抗感を覚える人が多いから。もう一つには飲食店での少額決済では店舗からも消費者からも避けられる傾向があったから。「キャッシュレスが必要になった」がシフトの理由なのだから、「必要を感じない」以外に強い不使用理由があるクレジットカードには流れにくいような気がする。

喫茶店モーニングを食べながらキャッシュレス・シフトを考えた

実を言えば、こんな風に考えるのは僕自身がそうだからだ。ポイント還元事業はスルーしたのに、その終わり頃になって現金支払いを避けるために支払いをPayPayに寄せた。そして今朝、喫茶店でモーニングを食べながら、どうも僕のような人は少なくないらしいぞ、と考えたわけだ。帰宅してからかき集めた数字は、おおむね僕の考えたことと合致してる感じだった。

もちろん飲食店でのキャッシュレス決済がこの後どうなっていくのかは分からない。交通系ICカード一強だったとこにPayPayとLine Payはよく入り込んだな(前者は店舗手数料無料、後者は利用者間送金とかが強かったのかな)とか思うし、きっと今どこかが強いからと言ってしばらくそのままとも限らない。それにPayPayの決済手数料無料が来年3月に終わったら対クレカ優位はどうなるかとか、これからも転機がありそうだとも思う。

そんなよしなしごとを考えたりもしたのだけど、とりあえず今朝いただいた友路有のホットサンド(モーニングのレギュラーメニュー)はいつも通り美味しかったです。あと一時ゆで卵になっちゃってたモーニングの卵が最近卵焼きに戻ってるの嬉しいです。そして最近PayPayで支払いができるのも。

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