ツイノ棲ミ家

╲一生演劇をつくるための棲ミ家。╱ 「懐かしい記憶との再会」と、「新しい癒しとの出会い…

ツイノ棲ミ家

╲一生演劇をつくるための棲ミ家。╱ 「懐かしい記憶との再会」と、「新しい癒しとの出会い」を。 どなたでもどうぞお立ち寄りください。 2022年夏と2023年3月に公演。

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#ツイノアナザー について

ご無沙汰しております。ツイノ棲ミ家です。 みなさまいかがお過ごしでしょうか。 ツイノ棲ミ家とは、わたくし加藤彩が立ち上げた「一生演劇をするための家」、つまり劇団です。 わたしはこの家を、たくさんの方の憩いの場とすべく、ひとつの試みをはじめます。 それが、『ツイノ棲ミ家・アナザーストーリー公開プロジェクト』です 長いので #ツイノアナザー でいいです。 わたしが今回公開しようとしているのは、2023年3月公演予定の演目『手のひらに、春』のアナザーストーリーです。 とは

    • #ツイノアナザー を終えて

      半年間追いかけていただきありがとうございました。 ツイノ棲ミ家・家主の加藤です。 最終回の2個前のchapter16を書く前に今までのツイノアナザーを全部読み返して、ああ、これはこれで一つの作品になったなあとほっとしました。 人間にはさまざまな歴史があって、それをすべて語りきることは出来ないほどひとりひとりにたくさんの時間がぎゅっとつまってる。物語の登場人物であっても。 『手のひらに、春』を書き始める前に、そういう時間の蓄積に触れたいなと思い、ツイノアナザー を始めたの

      • chapter.17 ハルコについて

        陽が落ちて空が黄色とオレンジに染まるころ、家に着いて鍵を回すとガチャッと音を立てて鍵が閉まった。 ハルコか。 家の鍵を閉め忘れる癖は鍵っ子になった小一の頃から変わらない。 もう社会人になったんだからちゃんとしてほしい。何があるかわからないからと再三ママに注意されても直らないのだ。 もう一度鍵を回してドアを開ける。 「ハルコ〜、鍵忘れてる」 家のどこかにいるであろうハルコに向かって声を投げる。しかし、返ってくるのは無音ばかりだ。いつもなら「ごめん!」ってすぐ言ってく

        • chapter16. escape into...

          飛び乗ってしまった。 バス。どこ行きかも分からないバス。 戻れば間に合うかもしれない、とわたしの片隅でさけぶ声にふるえながら耳をふさぐ。 もう戻らない。戻らない、もどらない、、 冷たい涙が勝手に目からこぼれる。垂れ流したまま、わたしは座り続ける。自分の意思で選び続けないとまた戻ってしまいそうになるから。 バスは無言でガタガタと揺れる。 おかげで、わたしは自分がグラグラと崩れそうになるのを誤魔化せる。 暗闇にしずむ見ず知らずの景色が、わたしをどこか知らない場所へと

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        #ツイノアナザー について

          ツイノ棲ミ家お味見公演『夕・涼・み』公演中止のお知らせ

          皆様 平素より、ツイノ棲ミ家をご愛顧いただき誠にありがとうございます。ツイノ棲ミ家の家主・加藤です。 この度、ツイノ棲ミ家お味見公演『夕・涼・み』の公演中止を決定しましたことをご報告いたします。 この度の決定は、様々な都合により、私・加藤の演出プランがかなわないと判断されたためでございます。 昨年の公演延期より約1年間、楽しみにお待ちいただいた皆様におかれましては、このような結果となり大変申し訳ありません。 『夕・涼・み』の戯曲に関しては、何かの形で公開する予定です

          ツイノ棲ミ家お味見公演『夕・涼・み』公演中止のお知らせ

          chapter15. 大丈夫

          『だ』と打っただけで、『大丈夫だよ』と文字が出てくる。 何度この言葉を使ってきたのか、 何度この言葉に頼ってきたか、 やっとわかった。 本当は大丈夫じゃないときの大丈夫、だったんだなって今ならわかる。 怖いものが沢山ある。 怖いものが沢山ある。ほんとうに、たくさん。 全部、大丈夫なふりして押しのけてきた。 全部、強いふりして戦ってきた。 それはすべて、わたしのための選択じゃなかった。 わたしは、わたしのための選択を選び直す。 ああ、あんなに沢山選んできた

          chapter15. 大丈夫

          chapter14. 岐路に立ち

          中学生になった。 わたしは1組で、まりちゃんは8組。 わたしは超ショックだった。1年生は8クラスあって端と端だから行き来しにくいし、何より接点が少なすぎる!! これはわたしがシスコンだとかそういう話ではない。(もちろん、まりちゃんのことは大好きだけど。) わたしとまりちゃんは、小学生ですごい偉業を成し遂げたのだ。それは『マリとハルのだいぼうけん』。自由帳10冊におよぶ大作マンガで、まりちゃんとふたりで交互に描いて仕上げたのだった。 中学生になったら新作を描こう!と意

          chapter14. 岐路に立ち

          chapter13. 成績表

          中学生になった。 ハルコは1組で、あたしは8組。 ものすごく多いクラス数。小学校の頃とは全然違う。 ハルコだけじゃなく、同じ小学校で仲の良かった子とは誰とも同じクラスになれなくて、あたしはゼロから友達を作らなきゃいけなくなった。 でも、友達ってどうやって作るんだっけ? 「ねえねえ、どこ小?」 後ろの席から声が飛んできた。 「あ、西小」 と反射的に答えると、 「へー!そうなんだ!うち東小なんだ」 と、明るい笑顔が目に飛び込んできた。 「うち、大林リナ。そっ

          chapter13. 成績表

          chapter.12 マリとハルのだいぼうけん

          小学校4年生にあがったあたしとハルコは、いっしょに美術クラブに入った。 クラブ活動は高学年から、どれかひとつ選んで入ることになっていた。ハルコはまんがクラブに入りたかったらしいけどそんなのはなくて、絵が描けるならいっか、と美術クラブにしたのだった。 4年生ではクラスがいっしょになれなかったあたしたちだけど、美術クラブに行けば会えたし、席順も好きに座っていいから、急いで早く美術室に行って隣の席にランドセルを置き、ハルコが来るまで2人分の席を確保していた。 あたしたちがセッ

          chapter.12 マリとハルのだいぼうけん

          chapter11. 祈り

          ドアを開けると最低限の家具が設えられた部屋があった。 ベッド、カーペット、机、椅子、押し入れ。 元は畳の部屋だったのか、すこしちぐはぐな組み合わせ。レトロ、だと思った。 住み込みのバイトなんて考えたことなかった。家とバイトは常に別で見ていたから。 窓を開けて、滝野くんの家の方角と思われる方向へ手を合わせる。あちらへは足を向けないで寝よう。 ふう、と一息ついて、その場に座り込む。冬の合間の暖かい日。午後の日差しがやわらかく差していて、少しぽかぽかして気持ちがいい。 わ

          chapter11. 祈り

          番外編①詰まるところ、絵を描く人の話が書きたいのかもしれない。

          ツイノアナザーを10話書いてきて、さて、私は何が書きたいんだ?と立ち止まることにしてみた。 最近、ブルーピリオドの11巻を読んで、(ネタバレになるのでこの先読みたくない人はここで閉じてください!!!!!)、 ⤵︎ ︎ ⤵︎ ︎ ⤵︎ ︎ 読んでみて!! 「絵を描く」ということにものすごく制限をかけている自分がいることに気が付きました。 絵という芸術は、芸術の中でも自分で自分の作品を客観視しやすいジャンルだと思っています。 うまい、へた、まとも、へん、すき、きら

          番外編①詰まるところ、絵を描く人の話が書きたいのかもしれない。

          chapter10. 残る

          気がつけば高2から高3の春休み。 早生まれの僕はようやく17歳になり、少し得した気分。青春を延長できる特権があるような。 この日曜日に僕は、普段高校に行くのとは反対の電車に乗って二駅の、栄えた街の美術予備校。 土日にやっている体験入学。この春から3年生になる高校生に向けたものだ。 美術予備校は名前の通り美術に特化した予備校で、美大に進学したい人が来る。早い人は高1の頃から、遅くとも高2の秋には入るものらしい。 僕は中学の頃から美術部だったし、中高一貫校文化部にありが

          chapter10. 残る

          chapter9. うまくいかない

          テーブルランプしかついてない部屋にどさっと帰ってきてソファに身を投げ出す。いかにも不機嫌風。慰めてくれと全身で表現してみる。 対する彼もダイニングテーブルに座って不機嫌風。だんまりとして、膝に載せた手を握りしめてるところなんかいかにも悲劇にあった後という体。 「ねえ、なんで電気つけないの」 第1ラウンド開始。あたしからふっかけた。 彼はぶすっとした顔を向けた。 「電気代もったいないって言ったのそっちじゃん」 おお、これはなかなかの不機嫌。自分の内側に溜まった不満や

          chapter9. うまくいかない

          chapter8. 白い日の記憶

          こんな夢を見た。 まっしろに雪の積もるある日、わたしはまっしろなたてもののなかにいた。 ツンと薬品のにおいがする、しずかなところ。 わたしは2歳のようだった。柱も、ドアも、おとなも、とてもおおきく感じられた。 ベッドも。 ベッドには、お母さんが横たわっていた。 お母さんはしずかだった。 しんしん雪がふっているまどの外。 わたしは、ただゆっくりあるいて、お母さんのそばに近寄って、こう言った。 ありがとう、 さよなら、 またね。 お母さんは、すこし笑った。

          chapter8. 白い日の記憶

          chapter7. 恋の証明

          かたちなきもののかたちを遺すにはどうしたらいいのだろう。 もっとも、最初は『遺す』なんて意味はなかったのだけど。 初めは中学2年生の時だった、同じクラスの、気さくな男の子。 理科の実験で使った道具を洗ってハンカチで手を拭いていたら 「ねえ、ハンカチの畳み方きれいだね」 って。 話しかけられてそれだけ。 別にそれから仲良くも仲悪くもならなかったのだけどわたしの、なかでは彼が特別になった。 ハンカチなんて別にきれいに畳んだつもりなんかなかったけど、でも、彼がきれい

          chapter7. 恋の証明

          chapter6. 年忘れ、られない

          「すいませーん!ハイボールくださあい!!」 「あいハイボールいっちょオ!」 イタダキマシタァッ!と店員全員の掛け声。 活気よく、ガヤガヤと賑わう年末、仕事納め。 「じゃ、今年もおつかれってことで」 「うぃーーす」 チン!とジョッキを合わせる。 「うち、年内で会う人間、まりちゃんが最後かも」 「人間ってなんだし」 あたしとサシで呑んでいるのは後輩のリタ。 めずらしい名前だし金髪だからハーフかとおもったら、純日本人だった。 (あとになって、「脱色した金髪と天然の金髪の

          chapter6. 年忘れ、られない