【短編小説】 アロハシャツに相談。
悩む。
このままだと、間違い無く片山は葵ちゃんに告って二人は付き合うことになるだろう。
片山は見栄えもするし、サッカー部のエースだし、頭もまあまあ良いし。
でも・・・、女癖は悪いらしい。
自分に気のありそうな女子には片っ端から手を出すとの噂。
しかし、それでもイケメンにはきっと葵ちゃんも落ちてしまうだろう。
お前が言うなではあるが、僕が最高に優しくて可愛いと思っている葵ちゃんは地味女子だ。
何で派手な片山が彼女に目を付けたのか。
竹中の話によると、僕が葵ちゃんを好きなことを知って、普段から僕を見下している片山は面白半分とからかい半分で葵ちゃんに告ろうとしているらしい。
このままだと・・・
「にーちゃん、ナニ難しい顔してんの?」
黒地に錦鯉と般若がプリントされているペラッペラのアロハシャツにサングラス、太もも部分が太い豹柄のパンツに雪駄、ガッチガチのリーゼント。
絶対に関わりたく無いタイプのチンピラ風の男がベンチの隣にいつの間にか座っていて話しかけて来た。
どうしよう、小銭も持っていない。
「どうしたのよ、えぇ?」
まずい、誰か助けて・・・
「言っちゃえよ、聞くよ。スッキリするよ。ダイジョウブ、誰にも言わないから。」
何だか、卑猥な感じに聞こえ無くもない。
ベンチの前を通る人はこちらに目もくれない。
絡まれているのに巻き込まれたく無いからに違いない。
「どしたの?」
話さないと離してくれない、そんな雰囲気。
確実にうちの学校の人間じゃないし、年齢的に近くも無さそう。
わからないけど、多分ひと回り以上は年上っぽい。
こういう人は確実に女性関係の経験は凄いに違いない。
どうせ絡まれるなら、いっそ話してみよう・・・ 泣きそう。
「実は同じ部活の女の子が好きなんです。」
「ああ、イイねぇ、そういう話大好きよ! どんな感じなのよ?」
「美術部で一緒なんです。」
「イイねぇ、文化の香り。 似顔絵とか?」
「いえ、そういう感じじゃないです。彫像をデッサンしたり。。」
「チョーゾー? じいさん書くのつまんなそう。オンナがイイだろうに。」
想像力が豊かなのか貧困なのかわからない。
「家の最寄り駅が同じってわかって、部活が終わって一緒に帰るようになったんです。それで、音楽とか動画とかの話が合って楽しいなって思うようになりました。」
「スゲー、アオハル。手、握った??」
「握りません・・・。 向こうからも話しかけて来てくれることが多いような気がして、気になってきて。」
「で? そんで?」
「後輩にも優しいし、先輩とか先生にも丁寧で練習も真面目だし。可愛いなと思って、、、好きになりました。」
「あっはーー!」
チンピラが自分のオデコをバシバシ叩いて、地団太を踏んで勝手に大喜びしている。
「どうすんの? イクの?」
言い方がイヤだな。
「いくって?」
「好きなんでしょ? イカないと~」
軽い、軽すぎる。
「悩んでいるうちに他のヤツがイクよ~、ざんね~ん」
「学校で一番位に人気のあるやつがその子に告白するらしいんです。」
「あ~あ」
「そいつはその子のことは多分好きじゃないんです。からかっているんです。」
「ダレをからかってんのよ?」
「・・・」
そうだ、葵ちゃんをからかうんじゃなくて、僕のことをからかっているのかもしれない。
「にーちゃんがイカないと、持ってかれちゃうよ~」
確かに葵ちゃんがその気になっても、簡単にポイ捨てされてしまうかもしれない。。
「にーちゃん、何年生よ?」
「3年です。」
「いつから好きなのよ?」
「・・・1年からです。」
「長っ エライね~、よくガマンしてたね~」
別に我慢はしてないし、何のことかわからないけど。
「イケよ~、待ってんじゃないの? そのジョシ?」
「そうですかね。。」
「いったんさい。後悔先に立たずよ~」
急にことわざ。
「ダイジョウブ、手応えはあるんだろ? イケイケゴーゴー」
翌日、部活の帰りに思い切って告白しようと思った。
どう言えば良いかな、どうしよう。
デッサンをしている間、上の空だったからパースがおかしくなってヘンな感じになってきた。ミケランジェロがニヤけてチンピラがニヤついている顔にそっくり。
絵筆もぎこちなく、いつも通りに描けない内に部活の時間が終わった。
片づけをしていると、葵ちゃんの姿が見当たらない。
あれ?っと思っていると、後輩が美術室から廊下を覗きこんで、ヒソヒソ話をしている。
「どうした?」
声を掛けてみると、
「葵先輩が片山先輩に告白されているみたいなんです。いいなぁ。」
後輩の肩越しに覗き込むと、片山が葵ちゃんに何か話しかけていて、葵ちゃんは恥ずかしそうに俯いて聞いている。
ウソだろう?! 先を越された!!
頭に血が上ってくるのがわかる。
片山は見られていることに気づいたのか、馴れ馴れしく葵ちゃんの肩を撫で始めた。
後輩が「ワー」なんて声を出すものだから、ますます調子に乗って片山が肩を抱く勢いになってきた。
だけど、顔が気のせいか、半笑い。
片山は僕にも気づいてからかっている、そして葵ちゃんは困っている、間違い無い。
「イケよ~、待ってんじゃないの? そのジョシ?」
チンピラの言葉が頭をよぎった。
後輩を押しのけて、二人に近寄って行った。
「なんだよ、いま、話してるから。向こう行けよ。」
片山が馬鹿にした顔で笑いながら言った。
「葵ちゃん、道具がそのままだから、戻って片付けよう。」
震えないように拳を握って落ち着いて言った・・つもり。
「行こう!」
葵ちゃんの腕を軽くつかんで美術室へ戻ろうとした。
「うるせーな、うぜーんだよ。」
片山がドンっと僕の肩をニヤつきながら小突いた。
「嫌がっているだろう、いい加減にしろよ!」
小突いて来た手を払いのけて言い返した。
「何言ってんだよ、バカじゃねーの。嫌がってねーだろ、聞いてみろよ。」
「戻るから。。。」
葵ちゃんが言って、美術室へ戻って行った。
「戻るって。じゃあな。」
ポカンとした片山を置いて、僕も美術室へ戻った。
「どうだったんですか? 何を言われたんですか?」
後輩からキャーキャー聞かれて、葵ちゃんが困った感じで「何でもない」と繰り返している。
片づけを終わらせて、美術室に鍵を掛けて準備室にいる先生に鍵を返しに行った。
あんなことがあったから、葵ちゃんは先に帰っちゃっただろうなと思ったら、下駄箱で待っていてくれた。
「さっきはありがとう。帰ろう。」
葵ちゃんが話しかけて来てくれた。
外で片山が睨みつけて来たけど、無視して二人で前を通り過ぎた。
校門を出て、しばらく歩いているうちに、また頭をよぎった。
「イケよ~、待ってんじゃないの? そのジョシ?」
さっきあんなことがあったばっかりだし。。
でも、待っていてくれていたし。
「葵ちゃん、あの。。。」
「ん・・?」
チンピラに相談した公園の前で立ち止まった。
「あの、、前から葵ちゃんのこと、好きでした。付き合って貰えませんか。」
「本当?」
「うん。さっき何かあったみたいだけど。。。良かったら付き合って下さい。」
ちょっと声が震えてしまったけど、葵ちゃんをちゃんと見て言えた。
「わたしも、、」
葵ちゃんが真っ赤な顔になった。
「良いかな。。?」
「うん!」
「ありがとう!」
思わず葵ちゃんの手を握った。
葵ちゃんも握り返して来てくれた。
数日後、葵ちゃんと学校から帰っている時、公園を通りかかったらベンチにチンピラが座っているのが見えた。
「あっ!」
チンピラも気づいたようで、ヒラヒラと手を振っている。
「こないだあの人に・・」
「え? 誰・・?」
チンピラが頭の上に腕でマルを描いて、ヘラヘラ笑っている。
頷いて見せると、チンピラは両手の親指を突き上げて足をバタバタしている。
「どうしたの?」
葵ちゃんが不思議そうに聞いてくる。
「ベンチにいるあの人に・・・」
葵ちゃんに答えかけたら、
「誰もいないよ。」
え?
ベンチにも公園にも誰もいない。
「待ってただろ?」
耳を掠めた風の中にチンピラの楽し気な声が聞こえた。
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