『カラクリのコテツ』#2

無機質に連なる無数の工場。
その横にもまた、無機質に連なる団地があった。

案内によると、コテツ はこの団地の1F、一番端に住んでいる。
バードン がチャイムを鳴らすと、自動でドアが開いた。

コテツ は無機質な表情で、大量生産されたコップでインスタントコーヒーを飲んでいた。

バードン「コテツ...... 何があったかは聞かないが、お前さんまでが
     こうなっちゃこのカラクリはおしまいだ」

バードン は コテツ からもらった手作りの藍色のマグカップをカバンからとり出した。

バードン「くまの坊やからお礼にもらったこのコーヒー豆、
     彼らが魂込めて作っているものだ
     とっても美味いって評判のお店のコーヒー豆なんだ」

    「お前さんと飲もうと思ってわざわざ帰ってきたんだぜ」

バードン は、もらったコーヒー豆と一緒に添えられていた説明書に目を通した。
小さな手で一生懸命書いたのがわかる、可愛らしい手書きの説明書。
バードン は思わず笑みがこぼれた。

焙煎に必要な道具は、効率を重視したカラクリには当然ない。

バードン は、近場の国まで飛んで喫茶店の調理場を借りることに。
調理は得意ではなかったが、コテツ を想い、魂を込めて豆を焙煎する。

幸い、可愛らしい説明書のおかげで、不慣れな作業も楽しく行えた。

バードン は、焙煎した豆を袋に詰めると、コーヒーを淹れる一式の道具も借りて荷物カバンに詰め込み、改めてコテツの元へ飛んだ。

バードン「最高のコーヒーを届けるぜ

コテツ が魂を込めて作った藍色のマグカップに、
2匹のくまが心を込めて作った豆を、
バードン が想いを込めて焙煎し、コーヒーを淹れた。

コテツ がその一杯を飲んだ瞬間、コテツ の目から涙のように液体が流れた。

目を閉じてコーヒーを味わいながら、自分が作ったマグカップをしっかり握りしめていた。

コテツ「最高の一杯だ 
    そして、僕の魂はこのマグカップに残っていた」

コテツ に魂が、感情が戻った瞬間だ。

コテツ「このカラクリからは、便利さを追求するあまりにすっかり
    感情や想いがこぼれ落ちてしまった」
   
   「確かに、魂のこもったものは
    必需品ではないかもしれない
    効率が悪いかもしれない

    それでも

    感情や想い、魂のこもったものは、
    無駄なもの、不要なものなんかじゃない 
    それを創る喜び、使う、味わう喜びを感じること」

    「まさに、僕らが生きている証なんだ」 
    
    「このカラクリをもう一度、感情で溢れた国にしたい」 

バードン「コテツ は本当にこのカラクリが好きなんだな」

バードン は、コテツ がオススメする気持ちを込めて作られたデザートやコーヒーなどを、素敵な食器でみんなに食べてもらうことを提案した。

コテツ「効率化法に反するからどうやって実現させよう......」

バードン は笑顔で答えた。

バードン「デリバリーしようじゃないか!」
    家から出ずに感動するもの、感動する時間が手に入る 
    最高に便利だろ?」

こうして、バードンエキスプレスの準備が始まった。
コテツ の名前もサービス名に入れようと バードン は提案したが、
コテツ は、バードンエキスプレスの方が響きがいいと、こだわりを見せた。

バードン は、たくさんの想い、魂が込められたものを運ぶ為、
箱にもこだわろうと、コテツ とデザインも吟味。

そして、
バードン は仲間の渡り鳥達を集め、コテツ はお届けする素敵なデザート等のリストアップと調達を始めた。

こうして、コテツ と バードン が立ち上げたバードンエキスプレス は始まった。

コテツ「気をつけて!」
バードン「おう、みんなを起こしてくる!」

時が来た。
カラクリに感情を再び呼び覚まそう。

朝がくるちょっと前の、まだ国中が眠りについている時間帯。
工場の音も僅かで、カラクリで一番静かなこの時間。
空は少しだけいつもより明るく感じる。

バードン と、仲間の渡り鳥達は、カラクリの隅から隅まで、
素敵な贈り物を届けた。

かつては酒場だったであろう自動販売機コーナーのお店。
かつては笑い声で絶えなかったであろう遊園地の跡地にある工場。
かつては多くの感動を生んだであろう音楽鑑賞ホールに残された充電席。

徐々に、カラクリのいたるところから、笑い声が聞こえてくる。

コテツ は、カラクリで一番高い建物の屋上から国全体を見ていた。

コテツ の目には、カラクリ全体が感情を取り戻していく素敵な景色が
映っていた。

カラクリの至る所から、コーヒーの香りが漂ってくる。

最高の1日の始まりだ

朝早くから朝ごはんの支度の音が、カラクリの至る所で響き渡る。

素敵な音が聞こえてくるその小さな国は、便利と感情で溢れた素敵な国。

ここは、機械仕掛けの素敵な国カラクリ。

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