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養殖現場にWi-Fi通信を導入し、海面養殖事業のDX化を促進【海上養殖スマート化コンソーシアム|事業紹介・実装報告】

30年以上生産量日本一を誇る、愛媛県の養殖事業。
しかし、近年は作業負荷が大きいことなどから新規参入の減少や後継者不足の課題を抱えている。
それらの課題を解決するため、立ち上がったのが海上養殖スマート化コンソーシアム。株式会社ミライト・ワン、ウミトロン株式会社らで構成されたプロジェクトチームだ。
海上養殖のDX化による作業負荷の軽減や計画的生産の実現を目指す。加えて、数値によるデータ管理を促進することで経営面への活用を進め、事業継承をサポートしていきたい考えだ。これらの活動を通して水産養殖をより持続可能にしていくことが重要である。

2023年度の実装プロジェクトでは、新規IoT機材によるDX化を促進させるため、海上養殖場の通信環境をLTEからWi-Fi化することにより通信コストを低減しながらも、過酷な海上環境でWi-Fi通信が問題なく通信可能か、またスマート給餌機の稼働に支障が生じないか検証を行う。
本記事では、実装プロジェクトの概要と、その成果についてレポートする。


海面養殖事業者が抱える課題

本プロジェクトは、海上養殖の事業運営に特に影響のあるコストの削減に注目し、その解決を図ることをテーマとしている。
その背景として、以下の課題が挙げられる。

■高コスト体質
養殖業では餌代が売り上げに対して60~70%を占める構造である。また飼料の40~50%を占める魚粉価格も上昇している。

■物価上昇
漁船の燃料代の価格も上昇傾向にある。

■スマート機器の利用環境不整備
ウミトロンはこれまでスマート給餌機の画像解析や映像ストリーミングを行う際、給餌機側でのデータ処理を増やすなどして通信量を抑え、通信費用の低減を目指してきた。しかしSIMスマート機器は1台ずつに通信費用が発生するため、台数が多くなるに従って通信費用の総額は高くなり、ランニングコストの負担が大きくなる。一方、通信容量に余裕があり費用が比較的低額なWi-Fi通信では、過酷な海洋環境で事業に使用できるかどうかについて実証例と知見が少ない。

本プロジェクトを行うにあたり海面養殖事業者へのヒアリングを行った結果、スマート機器に対して「利便性や可能性は感じているが、コストの面で積極的な導入には踏み込めない。もっと低コストか、コストがかかっても大きな結果が出る実績があれば導入を進めていきたいとは思う」といったコメントが寄せられた。

そこで、海面養殖場の通信環境をWi-Fi化し、Wi-Fi通信に対応したスマート給餌機による実装を行うことで、コストの削減を目指していく。

実装内容:海面養殖場の通信環境をWi-Fi化

現状、生簀の給餌機1基に対して1LTE回線にて運用している通信環境を、複数の給餌機をWi-Fiによる1つの基地局で稼働させ、通信コストを低減する検証を実施する。

まず、Wi-Fi基地局を設置し、基地局と給餌機間をWi-Fi回線で稼働する。
陸上から養殖場までの距離や養殖場の稼働環境を考慮し、固定式の陸上基地局と移動可能な海上基地局の2パターンのソリューションを展開した。

そうして海上養殖場をWi-Fi通信可能にし、LTE回線にて給餌を行なっている養殖業者に対してWi-Fi通信にて給餌と給餌風景の動画を取得し、AIによる食欲測定を行えるようにした。

■LTEとWi-Fiの違い

LTE通信は給餌機1台が1台の携帯電話というイメージ。NTTドコモやKDDIといった大手通信キャリアのLTE基地局と、個々の給餌機間で通信を行う。よって、携帯電話と同じく給餌機ごとにLTE回線の契約料、通信料がかかる。

一方、今回のソリューションであるWi-Fiは、Wi-Fi基地局と給餌機間で通信を行うというもの。給餌機ごとの回線契約は不要で、通信コストの低減が期待できる。

【プロジェクトコンソーシアム】
■実装PJメンバー:株式会社宇和島プロジェクト
・海面養殖事業者との調整
・新規DXの実験フィールドの提供等

■実装PJパートナー: 株式会社ミライト・ワン
・海面養殖場のWi-Fi化担当

■実装PJパートナー: ウミトロン株式会社
・スマート給餌機、各種センサー等対応

【実装フィールド】
今回は3つの養殖業者の協力のもと、3か所のWi-Fi基地局を設置した。
宇和島市の九島の養殖場に移動可能な海上Wi-Fi基地局を設置。
加えて、西予市の養殖業者の敷地内にあるクレーンの上に固定式の陸上Wi-Fi基地局を設置した。

【実装の流れ】
今回は基地局1つに対して、1~3つのアンテナを取り付け、通信速度の測定を行った。

海上基地局は、宇和島市沖の九島に設置。


フィールド①の基地局、測定ポイント

まず、九島北側のフィールド①について。
海上の赤丸で示した位置がWi-Fi基地局。そこから北側から埠頭にかけて黄色丸の13ポイントで測定を行った。

フィールド②の基地局、測定ポイント

次に、九島東側のフィールド②。
赤丸で示したWi-Fi基地局から、北から南にかけて黄色丸の11ポイントで通信速度の測定を行った。

フィールド③は、先述の通り西予市の養殖業者の敷地内に設置。

赤丸で示した陸上の基地局から、給餌機をカバーできるようにアンテナを2つ設置し、海上の黄色丸の10ポイントで通信速度の測定を行った。

■実装検証結果

フィールド①における海上Wi-Fi測定結果表

今回の測定の結果、基地局から1000m離れたポイントでも、下り13Mbps、上り4.6Mbpsが出た。通常、動画視聴に必要な通信速度は5Mbpsと言われており、1km離れたポイントでも給餌には問題ない通信速度があるといえる。
給餌動画の取得についても、綺麗な動画が取得できていることが確認できた。

一方で、陸上だと通信の品質と強度が基地局から遠くなるほど落ちていくという相関がみられるが、今回の結果はそうなっていない。

例えばセクターアンテナ1のポイント2から 4にかけて。
基地局から近いポイント4で上り8.7Mbpsだった通信速度が、遠くなったポイント3で11Mbpsに回復しており、さらに遠いポイント2で12Mbpsと良くなっている。
社会実装を進めるためには、論理的結果を提供する必要があるため、陸上と異なる結果となった原因究明を今後の検討課題として検証を続けていく。

■Wi-Fi通信で取得した給餌風景(ウミトロン社のスマート給餌機からの取得映像)
非常に綺麗に撮影できていることが分かる。餌を食べている魚の映像を見ることができる。

この動画の品質から、今回設置した基地局からのWi-Fi電波で問題なく給餌と動画取得、その動画のストリーミングを行えていることが確認できた。

今後の展開:実装結果から見えてきた課題に取り組む

養殖経営の課題は、作業負荷が大きく、収入の安定性が低い、また養殖場で働く人に蓄積された内在化したノウハウが多く、事業継承が進みにくいこと。今回の検証で、Wi-Fi通信による給餌機の稼働ができたため、給餌による作業負荷の軽減と、動画取得による食欲測定と給餌コントロール、さらにデータ化までを低い通信コストで行えることが確認できた。

今後の展開として、海上養殖のさらなるDX化を進めるため、次年度以降は以下の取り組みを行う予定だ。

■次年度以降の取り組み
・海上のWi-Fiエリア拡大
海上にWi-Fi中継基地局を設置し、さらに遠方の海上エリアをWi-Fi化する。
・さらなる運用コストの低減
主回線をLTE回線から光回線に切り替えることで、さらなる運用コストの低減を図る。
・給餌機メーカーと協働してWi-Fiに適合する給餌機のさらなる検証
社会実装(安定した運用)に向けて、給餌機とWi-Fi基地局の設置構成等を検証する。
・DX促進のための製品開発を提言
海上養殖のDX関連事業者の協力を仰ぎ、Wi-Fi運用を前提とした製品開発を促す。

継続した検証と対策にて、海上養殖の未来を開拓(水平展開)できる可能性をさらに広げていくことが期待される。

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