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必要だったのは、自分らしさを解放できる家。 Interview 早坂香須子さん 後編

長野県に移住し、美しく静かな森の中で日々の営みを紡ぐメイクアップアーティストの早坂香須子さん。自分にとっての心地よさを追求しながら、自然に優しく寄り添う家づくりについてお聞きした前回。後編では、森のくらしで取り入れている習慣や日々の楽しみ方、新しい自分を発見した趣味のことなど。木のぬくもりと自然の光に包まれるおすまいで、愛らしい犬や猫たちに見守られながらお話をお聞きしました。

>早坂さんのプロフィールと前編の記事はこちら。


― 今年7月末にこの家に住みはじめてから数か月が経ちますが、改めて森でのくらしはいかがですか。
 
早坂:じつは、ここに引っ越してきてすぐに体調を崩してしまって。夏の一番暑い時期に引っ越し準備をしていて、家の中で熱中症に。仕事と並行しながらの作業だったこともあり、ひと段落して気持ちが緩んだ瞬間にどっと疲れが出たのだと思います。
 
最初の半月ほどは、どこにも出かけずに家の中でゆっくりと過ごしました。毎日半身浴をして、ご近所の方々からお裾分けしてもらった夏野菜を料理して食べて、およそ地下80mから汲み上げる美味しい井戸水を飲んで。そうしている間に、どんどん回復していきました。今思えば、東京でくらした十数年分のデトックスだったのかな。この森にアジャストするために必要なことだったのかもしれません。

― それは大変でしたね! そんなとき、ご近所の方々の優しさが身に沁みますね。地域の人とのつながるために、どのようなことを心がけていますか。

早坂:私の場合は、この町に移住するきっかけとなった友人夫婦がすでにコミュニティを築いていたので色々な方を紹介してくれて、引っ越してくる前から顔馴染みがいる状態から住みはじめることができて、とても心強かったです。それに、この辺りには若い世代の移住者も増えてきていて、数珠つなぎにコミュニティの輪が広がっていきました。かと言って、移住者同士でべったりとするわけでもなく程よい距離感で仲良くできるのが、とても心地よく感じています。

―生活も落ち着いてきて、自分らしいくらしのペースも掴めてきましたか。
 
早坂:そうですね。朝は動物たちに起こされて、ごはんをあげて。湯船にお湯を張ってゆっくりと半身浴をした後に、ハンドドリップで入れたコーヒーをゆっくり飲みながら、時間があるときは窓辺の椅子に座って森を眺めながらぼんやりと過ごします。ときどきカモシカの子どもなど、野生の動物が遊びに来るのも可愛くて癒やされますよ。

ため息を、深呼吸に。いつでも自分らしくいられる、森でのくらし。

―犬や猫たちも、のびのびと過ごしていて気持ちよさそうです。

早坂:この森に真っ先に適応したのは、東京から一緒に引っ越してきた動物たち。犬のダンは以前なら私が帰宅するとすぐに「早くお散歩に連れて行って」と急かしてきたのですが、ここに来てからはあまり外に行きたがらない(笑)。家の中にいても太陽の光を浴びて思い切り走り回れるし、いつも外が見えるからストレスフリーなのかもしれませんね。
 
― 夜は、どのように過ごされていますか?

早坂:東京にいるときは、歩いていける距離においしいお店もたくさんありましたし外食も多かったのですが、ここでは車を出さないと行けないから家で食事をする機会がぐんと増えました。これまで毎日するものではなかった料理も、ここでは生活の楽しみのひとつになりましたね。


窓から見える景色を楽しみながら料理ができる、早坂邸のキッチン。
階段上に設置されたカウンターでは「お酒を飲みながら料理をしたり、来客時にはおしゃべりをしたり、みんなが何かをして過ごしている様子を眺めながら過ごすのが幸せ」と早坂さん。

早坂:それと以前は眠りが浅かったのですが、ぐっすりと眠れるようになりました。家づくりの経過を確認するために東京から毎月通っていた頃に定宿にしていた旅館が畳敷きでよく眠れたので、ベッドルームを畳にして布団スタイルにしたんです。

ー それは、とてもいい変化ですね。

早坂:自分ではストレスと感じていないような、小さなストレスが積み重なっていたんだと思います。東京に居るときは、たいてい仕事があるので気も張っていますから。仕事で頑張って、家では「はぁ」と深いため息をつくような日々を繰り返していたのですが、ここで過ごしているといつでも自分でいられる。健康の底上げがされている感覚があります。
 
― 現在は、どれくらいの頻度で東京に行かれるのですか?
 
早坂:引っ越し当初は月に二回ほど。現在は月に一回ほど、用事をまとめて行くようにしています。じつはわたし、2年くらい前から絵を描いていて。最近はじめての画集を出版したので、最近はその原画を展示する個展を東京で開くための準備をしています(現在は会期終了)。
 
― 2年前というと、ちょうどこの森に出会った頃ですね。絵を描かれるようになったのには何かきっかけがあったのでしょうか。
 
早坂:きっかけは、仲良しの俳優の鈴木杏ちゃん。彼女も絵を描くのですが、ちょうど個展を開くタイミングで毎日絵を描いていたんです。ふたりの共通の友人で、文筆家の服部みれいさんご夫婦のご自宅に遊びに行ったときにも描いていた。その様子をじっと眺めていたら「かずちゃんも描いてみたら?」とすすめられて。はじめは「私には描けない」と遠慮しました。絵を描くことはきちんとアートの教育を受けた人の特別なもので、私なんかが触ってはいけないという思い込みがあったんです。でも、そのときに伺ったみれいさんのお宅のハーブガーデンがとても可愛かったので、その様子を描いたらみんなが褒めてくれて。それが、なんだかとても嬉しかったの。

この森に住むようになってからは毎日、絵日記を描くようになりました。誰かに見せようと描いていたものではなかったのですが、今回出版した画集は私が描いた絵に、みれいさんが詩を添えてくれたもの。

日常に潜む好奇心に素直に向き合うことで、人生が彩られていく。

温かく優しいタッチで描かれる早坂さんの絵。
森に自生している黒文字の枝を燃した木炭で描くことも。

早坂:個展も落ち着いたら一度巣ごもりをして、この森としっかりと向き合ってみようかなと思っています。その先に一体何が見えてくるのか、今からとても楽しみなんです。メイクアップアーティストという仕事柄、人にメイクを施したり、美容について発信することだったり、これまでは自分の中にあるものを差し出して、出し切ってしまった感覚があって。本当はずっと前から、自分とゆっくり向き合いたかった。この家は、そのためにつくった家だったのかもしれません。
 
― 絵を描くこと以外に、ここで暮らすようになって新たにはじめたことはありますか?

早坂:ライアーという竪琴を習いはじめました。森の中で過ごしながら新しく何かを学びたいなと探していたときに出会ったんです。
楽器を演奏して音を響かせることで、野生動物を寄せ付けない効果が期待できると聞いたことがあるのですが、せっかくならば心地いい音を奏でることができないかなと。

ライアーはドイツで音楽療法を目的につくられた弦楽器。優しく繊細な音色が特長で、癒しの楽器とも言われているんですよ。まだまだ練習中なのですが、いつかは聴く人たちを癒したいと思いながら、演奏する自分が最も癒されている気がします(笑)。

― 自然の中にいることでインスピレーションも湧いてくるのでしょうか。趣味の幅を広げて、森でのくらしを存分に楽しまれているお姿はとても魅力的です。

早坂:自分のために使える時間もたっぷりありますからね。コーヒーを飲むときに使うコースターが欲しいなと思って、お気に入りの生地を買ってきて自作してみたり。東京に住んでいたときは、まさか私が裁縫をすることになるなんて思ってもみませんでしたが、やってみると楽しい。

ー そういった日々の生活に隠れている小さなきっかけを生かして好奇心に向き合うことも、くらしのスパイスになるのかもしれませんね。最後に、早坂さんの旅や移動のおともを教えてください。

早坂:絵を描くための小さなスケッチブックとパレットも携帯しています。パレットはパリの画材屋さんで買ったもので、好きな色をカスタムしました。あとは、グローブ・トロッターのスーツケース。お仕事用にもうひとまわり大きなサイズも持っています。フタを大きく開けずに中に入っているものを取り出せるので、ホテルの客室などの狭いスペースでも使い勝手がいいところが気に入っています。

Photo: Ayumi Yamamoto

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