5-5.付点のリズム(付点8分音符+16分音符)
レッスンで「では、やってみましょう」とお願いすると、困ったように「あの…テンポはどのくらいでしょうか」と質問されることが少なくありません。
そのような質問をされた時、私は必ず「楽譜に書いてある情報を参考に、その音楽が最も活きると感じるあなたのテンポで演奏してください」とお願いします。
私は音楽教育の場面でよく見かける、メトロノームを鳴らしたり先生が手拍子をしてテンポを提示し、それに合わせて生徒が楽譜のリズムをはめ込む光景に疑問を感じています。もちろん、その時点での生徒さんの年齢、経験年数、もしくは目的によってそうした訓練めいたことが必要になる場合もあると思います。しかし、ある程度レベルが上がったにも関わらず、いつも当たり前のようにこのリズムをはめこむ作業をしていては、本当の意味での音楽にはなり得ないと思うのです。
私はレッスンで、テンポというものは「メロディやフレーズの中にすでに存在している」と考え、伝えています。初期の音楽教育の影響を強く受けすぎて「テンポは先に決めておくもの」と捉えてしまうことで、外部から与えられる情報(レッスンの先生や指揮者の指示、もしくはメトロノームのカチカチ音)を待ってしまうと、その作品(場面)が本来持っているテンポ(=作曲者が求めるであろうテンポ)をイメージしたり、自身が一番気持ちが良いと感じるテンポを抑制しかねません。また、先生や指揮者が示したテンポが絶対で、それしか選択肢がないと感じてしまうことは、アンサンブルにおいて足を引っ張る要素になってしまいます。
一方で自主的にテンポをイメージする習慣が備わると、常にひとつのテンポに縛られるのではなく「このテンポも”アリ”だなあ」といくつもの可能性を感じられるようになります。そしてこれらの「アリ」なテンポはイメージから生まれたものですから、当然それぞれのテンポに合ったニュアンス(タンギングなど音のキャラクター表現)、フレージングなども変化します。選択肢の多い奏者が集まると、自然とテンポを寄り添わせていくことができますから、いちいちテンポのことに執着した議論をすることもないですし、ましてやメトロノームを置いてカチカチ鳴らしながら機械の操り人形のように演奏することが大変バカバカしくなって、しなくなります。
付点のリズム(付点8分音符+16分音符)
冒頭でテンポの話をしたのには、今回のテーマのように楽譜に書かれたリズムを表現する際に同じ考え方が大切だからです。
なお、このリズムは非常に多く出現するわりに具体的な名前が付いておらず「付点8分音符+16分音符」と言うのも面倒なのでここでは「付点のリズム」と呼ぶことにします。
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