見出し画像

(イン)ビジブル

 テーブルの向こうを赤いドレスを着た足の無い女がスーッと横切り、喫茶店から出ていく若い男性の後ろにベッタリと付いていくような形で外に消えていった。こういう光景は日常茶飯事なので驚きは無いが、あの男性が心配だ。

 僕は生まれつき、「見える」体質だ。イカが人間に見えない色を見ることが出来るのと同じく、一般人に見えない波長の光を見ることが出来るのだと思う。いわゆる霊的なものは当たり前のように身近に存在している。街の交差点や図書館、歓楽街、マンションの部屋、あらゆる場所にそれらはいる。基本的にはただそこに存在するだけで無害だが、時々そうではないものもいる。悪質そうなものがいた場合は、極力刺激せずにやり過ごすに限る。

 しばらくすると店の外が騒がしくなってきた。訝しんで目を遣ると、人だかりの向こうで先程退店した男性が道路で血を流しながらうつ伏せに倒れていた。自動車に撥ねられたようだ。倒れている男性の横で、赤い女が笑顔でクネクネと体を捩らせている。

「ごめん、お待たせ。外大変なことになってるねぇ」

 待ち合わせをしていた僕の彼女の明子がちらちらと店の外の喧騒を気にしながらテーブルに着いた。

「ちょっと良くないのがいてね……あの人無事ならいいんだけど。あ、コーヒーでいい?」

 明子はこくりと頷いた。

「今日はいきなりごめんね。要件はLINEで話した通りなんだけど、この前萌と八王子の心霊スポットに行ったときに心霊写真みたいなの撮れちゃってさ。信也に見てもらって本物だったらYouTubeにアップして再生回数稼ごうと思って」

「そういうの、やめた方がいいと思うけどなぁ」

 明子のがめつさに少し呆れながら彼女が差し出した写真を手に取った。廃屋の窓から人影が覗いている。その人影の顔に目を凝らした瞬間、僕は息を飲んだ。

───あの赤い女だった。

それと同時に、外の赤い女がこちらをじっと見据えているのに気が付いた。

【続く】

#逆噴射小説大賞2021 #小説 #ホラー

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?