家事の連作
このnoteは雨宮真由、斎藤見咲子、坂中真魚による公開書簡シリーズの8通目です。今回は「家事」をテーマにそれぞれ連作を編みました。
ごみ捨てる 斎藤見咲子
にんじんの皮って食べたほうがいいらしいと思いつつ皮をむく
蛇口から思ったよりも水が出てあたり一面びしゃびしゃになる
ななめから床を見てみる 足の裏のかたちの汚れがちゃんとついてる
まだあまり乾いていない ベランダが狭くて横にしか動けない
冷蔵庫を開けたら果物しかなくて朝ごはんみたいな夕ごはん
ないものを補充すること 買っていて楽しいものとそうでないもの
ごみ捨て場周辺にいる鳥たちにやめときなよと視線を送る
もし私がカラスだったら絶対にめちゃくちゃごみをあさると思う
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普通の人生 雨宮真由
食べていくものであなたができるから悪意は除かなくてはならない
鼻歌でも歌いながら皿を洗ってその後全部叩き割りたい
洗い桶に皿を沈めて来世には言うべきことを言う人になる
数日で戻るざらつきまたすぐに頭をもたげる悪い考え
本当の望みから目を背けたままありもので作る普通のご飯
念入りにかけるアイロンこの服でものすごい嘘をつきにゆく
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おしゃれ着洗剤 坂中真魚
ワイシャツについて乾いたゴマひとつ 1週間後に発見される
おしゃれではない服も洗ってしまえるおしゃれ着洗剤 甘えのように
ペディキュアは音も立てずに剥がれ落ち夜の排水溝で光るよ
開けるのはいつも怖くて炊飯器に粒たち並んで歌っているの
食べられないものがこの世に多すぎてピザ・ジェノベーゼの残りひと切れ
花を置けば花の部屋になるこの暮らし誰が死んでも悲しいだろう
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