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クラッシュアイス・ レイヤーリング『放課後のプレアデス』感想補足解説パート4(第5話)

 前回(第4話)はこちら
 少しずつ聞いていたBlu-ray特典の『放課後のプレアデスRADIO』を聞き終えました。番組後半になると作品内容への言及も多く、時折冒頭に収録されているショートドラマも面白かったです。
 高森奈津美さんがおもしろキャラ扱いされている理由がわかりましたし、牧野由依さんのゲスト回ではあらためて自分はひかるが好きなのだなぁと確認しました(より正確には、すばるとひかるのやり取りが好き)。
 
 ただ、さすがに前回は書きすぎた感があり、少し反省しています。
 
 自分を現行のSUBARU車にたとえるとWRX STIで、日常でも十分使えるけれど根本的にはここと決めたところでかっ飛ばすタイプなのです。
 実際、購入・維持できるだけの可処分所得があれば乗り換えたいですね。

 とまあ、こちらでにょろさんが書いているとおり、『放課後のプレアデス』は車そのものが描かれていないにもかかわらず、SUBARU車に惹かれる不思議なアニメです。

 もっとも、私のように以前から好きなSUBARU車(アルシオーネSVX)があって、これをきっかけに最近の車を見てみたら好みと合致したという例もあるでしょうが、自動車メーカーの名を前面に出したアニメとしては大成功だと思います。

 また、作品に落とし込まれた天文現象や技術などの事柄のどこに注目するかが視聴者によって異なるのも『放課後のプレアデス』の特徴です。
 例えば、私は第3話で成層圏への高高度飛行に関わる部分に注目しましたが、海中ですばる達が見るスプライト(「宇宙の音を聞いているみたいだ」というシーンで赤い火花が飛ぶ表現)という天文現象を取り入れたことに注目する人もいました。

 さて、題名のネタが苦しくなってきました。
 今回のは土星の環のことです。


第5話 帽子と氷とお姫様

 いつきは3話時点で思い切りの良さが描かれていたので、見た目よりはるかに活発な子とはわかっていた。けれど、それが「良い子であろうとしている」という側面までは見抜けなかったなぁ。十代半ばでぶつかりそうな様々な物事をぶっ込んでくる。
 この作品を特徴づけているのはそうした物事が個人の内的問題であると同時に、他者との関係性に強い影響を及ぼすという点で、学校の部活にスポットを絞りながらそこで完結しない(閉鎖性がない)。それがジュヴナイルの特性の一つなのだけど、確かにこういう作品は稀少だと思う。
 会長の言う可能性の塊というのは、本人が無意識に抑えている自分の一面のことかもしれない。解放されたからってどうにもならないかもしれないけど、それこそ可能性は広がるよね、と。
 個人的な問題なのだけど一人では解決できないことだと示したのがこの回で、いつきが解決案を引っ込めてしまいそうになるのをみんなで「やってみよう」と手を引く感が出ていた。誰か一人が牽引役になるのではなく全員がシンクロする感じ。
 で、土星ですよ。Mitakaで見慣れた土星ですよ。カッシーニが土星の環を抜けようと動いていた時期(さすがにこれは調べた)。その手の視聴者をわかっている感がすごい。
   2020年6月8日6:16:47


>いつきは3話時点で思い切りの良さが描かれていた

 第3話では真っ先にカケラを目指して上昇しようとして、何度もチャレンジするシーンがあります。
 いつきを追い越していった謎の少年を見て、真っ先に行動を起こした積極性は少し意外でした。
 これは、第5話への導線になっていると思います。


>見た目よりはるかに活発な子

 黒髪ロングでスタイル良し、制服は着崩さず赤いヘアバンドがアクセントになっています。
 ぱっと見、5人の中では最もお淑やかな印象のある子なのですが、実はこのキャラデザインに活発さが隠されています。
 
 SUBARU車には、各車種にSTIがチューニングを施したグレードがあるのですが、このSTIのロゴカラーが明るい赤なのです。
 STIとは、スバルテクニカインターナショナル株式会社(SUBARU TECNICA INTERNATIONAL INC.)の略で、レースへの参加、パーツ開発及び販売、エンジンチューニングを主に担当するSUBARUの連結子会社です。

 いつきのドライブシャフトのモチーフになっているスバル・フォレスター(4代目SJ系)にもSTIがチューニングを施した特別仕様車S-Limitedがあって、「車が一切出てこなくても、車の代わりとなる何かでスバルの良さを表現する」というコンセプトが反映されていると思います。

 アニメの中では第2話でいきなり「どーん!」と机を持ってきたり、平然とした顔で大量の荷物を積んだままドライブシャフトの飛行を実践して見せたり、他人を巻き込まない範囲ではやることが結構大胆ですね。


>「良い子であろうとしている」という側面までは見抜けなかった

 この良い子というのは、人が良いという意味ではなく素行が良いという意味合いです。年長者≒大人から見て良い子でありつつ、自分と近い歳の子達から反感を買わないくらいの自然な振る舞いができるようになっている子、といったところでしょうか。

 いつきはコス研の皆とのやり取りでも、あまり自己主張はしないものの「それ良いと思う」みたいに意見を肯定する役回りで、相手がまずあってそれから自分なのですね。

 第3話の飛行練習でも、すばるに上昇力と高度を体験させるなら先行して引っ張り上げる方が手っ取り早いのですが、手を繋いでゆっくり旋回しながら上昇していく形を取っていました。
 映像的な見栄えは当然あるでしょうが、2人のやり取りからいつきの性格が見えてくるため、演出的にも重要なシーンだと思います。

 気持ち的な意味でも相手を引っ張る力を持っている面が強調されるのですが、ここに至る過程は──教室に机を持ってきたシーンのように──何気に積極的なのですよね。
 自分よりも他人を優先してしまう──自己主張が後回しになっている──部分が生来の気質からで、それ故に前に進めないところと繋がっていると思っていたのでした。


>本人が無意識に抑えている自分の一面

 いつきは、本来は考えよりも気持ちが先行してしまうところがあって、過去にそのお転婆さから怪我をしてしまったとき、兄だけが両親に責められてしまったのをずっと気に病んでいたことが判明します。

 普段の振る舞いは意図しているもので、「自分のわがままで誰かに迷惑を掛けたくない」という思いから来ていることが明かされます。
 これまで見え隠れしていた積極性と他人を思いやる優しさを併せ持ったのが本来のいつきで、自分で自分にブレーキを掛けているから前に進めなくなっていたわけですね。


>物事が個人の内的問題であると同時に、他者との関係性に強い影響を及ぼす

 このエピソードを彩るもう一つのドラマである演劇「塔の中のお姫様」は、お姫様が心の奥に封じ込めた本心あるいは願いで、王子様がそれを表に出すきっかけという本編に対するメタファーになっています。
 面白いのはそこまで仕込んでおきながら、劇そのものは演劇祭でやる演目以上の扱いにはなっていないのですね。
 
 劇の内容を会長が訊ねたとき、いつきの語りとともにフェルト人形劇によって描かれ、話の結末まで達したところで、あおいが発憤して衣装作りになだれ込むので一気に現実(すばる達の現実)に引き戻されます。
 ここのコンテが非常にコミカルで、すばる「悲しいお話し」、ひかる「中学生にはヘビーだな」という反応が溜めになっていて、描写こそないものの鼻息を吹きそうな勢いでインスピレーションを発揮するあおいの「盛り上がってきたぁー!」という絵が強調されます。

 物語に含まれる要素や小道具からキャラクターが持っている一面を導き出していく描き方や、組んずほぐれつしている感のある人間関係が『放課後のプレアデス』に共通する特徴でもありますね。


>誰か一人が牽引役になるのではなく全員がシンクロする感じ。

 言い換えると、誰かが作ったきっかけから皆で回答へ達する感じです。
 土星の環に混じったカケラを探すシーンでも「このままじゃリングに突っ込んじゃうよ」、「そう。突っ込むの!」で、いつきを先頭に魔法陣を盾にして5人が質量差と速度を利用した急上昇・急下降でリングをかき乱して欠片を探しますが、この突入作戦もいつきの思いつきに皆が賛同したからできているのですよね。その前段で言うのを躊躇したいつきをすばるが背中を押して、皆で「やってみよう」となる流れが生きていると思います。

 さらに『放課後のプレアデス』はこういう部分に機械的なイメージを被せて自動車を連想させています。
 土星のリング上でひかるの提案で魔法陣を展開した際、会長が「会長が「魔法陣のシンクロメッシュ機構が君達を正常な位置に云々」」と言っているのですが、これは自動車のに組み込まれている装置の名前なのです。
 シンクロメッシュ機構とは、エンジンの回転数と変速機構《トランスミッション》を同調させる装置のことで、大体1970年代末期~80年代初期くらいから標準装備されるようになりました。
 それ以前は、この同調操作も人間が行っていたわけです。
 分断された5人が定位置に揃っていく様は、シフトレバーを切り替えるような動きにでもありました。


>学校の部活にスポットを絞りながらそこで完結しない

 空間的な制限に対して心情的な閉鎖性がないという意味です。
 これは「肉食系ヒロイン」と評されるすばるの性質が大きく作用しています。というのも、すばるは関わりを持った相手のわずかな心の動きに非常に敏感だからです。

 すばるが前髪についた糸くずを取ろうとたとき、いつきが避けるように距離を取った後「おでこ格好悪いから」と気まずそうにする普段とは違う反応が描かれます。
 すばるはこういう反応を見逃さず、かつしっかり「どうしてだろう? 私が悪いことしちゃったのかな(相手にとって触れて欲しくない部分に触れてしまったのかな)」という風に考えます。
 こうした相手のわずかな心の動きに敏感なのがすばるの優しさであると同時に、相手との間合いを徐々に詰めていって機を見逃さず一気に関わりを深めていく肉食系と評される部分でもあると思います。

 こういう時、すばるの心はざわついていて、そのざわつきが夢と現実(比喩)の境界を曖昧にして、温室への扉が開くのだと思います。
 第5話で温室に入ってみなとに「やあ」と何気なく挨拶されたとき、前回の言葉にすがるように「わ、私また星に導かれちゃったみたいで!」と返す反応は幼さの中に女の子っぽさがにじませた絶妙なさじ加減だと思います。

 今回みなとはかなり重要なことを言っていて、それは言葉や話の内容ではなく全てを諦めていると示したことです。一方で、その思いを感じ取ったのか、すばるの「ダメ!」には繋ぎ止めようとする切実さが現れています。
 そういう点でも、第5話はわりと重要な回だと思います。


>土星

 アートワークス及びBlu-ray付録冊子などには特に何も書かれていませんが、地球から土星まで行く道程で火星や木星を経由する必要はありません。というより、道中で見られる方が珍しいと思います。

 なぜなら、火星も木星もそれぞれに太陽の周りを回っているからです。

 ボイジャー計画(ボイジャー1、2号による外惑星探査計画)では、惑星配置の関係から連続的に観測できる時期を狙って、軌道と航路を同期させることで順に観測を行いました。

 では、アニメ本編のように一気に地球から土星の環付近まで直行し、途中で火星や木星を見るのは不可能なのか? と言うと、実は可能です。

 地球から月、火星、木星、土星が並んで観測できる時がありますよね?

 この時、実際には公転面が一直線に並んでいなかったとしても、方角はほぼ同じで東西南北の大きな差異はありません。ここがずれていたら、同じ空の下から見えないのです。

 次に、すばる達はエンジンのカケラに引き寄せられつつも、魔法陣で5人が繋がっているため、離れていても完全にばらばらにはなっていません。
 この5人を繋いでいる力を利用して、それぞれの位置関係の把握を土星までの移動中にするとしたら、道中にわかりやすい目印(光学的・質量的な意味)があった方が移動と配置を把握するには都合が良いはずです。

 会長がゆでだこ状態になったのは、いわゆるオーバーヒートの表現で、こういう計算を頑張ってやっていたからではないでしょうか?
 この推測にも一応の根拠はありまして、引っ張られるきっかけになったいつきの突出を部室内で「すばる? いや、いつきか」と感覚的に察知していたのと、土星軌道到達時に「なるほどここが第六惑星か」という言い回しをしていたからです。

 ここは、観測記録を元にリアルに描かれた火星、木星、小惑星帯、土星を目にしたコス研の面々(天文部のすばるさえも)が、連想される食べ物の名前を口にするコミカルな演技が重なる面白さがあるシーンでもありますね。

>Mitaka

 すでに何度も引き合いに出していますが、国立天文台の四次元デジタル宇宙プロジェクトが公開している宇宙天体観測シミュレーターとでも言うべきパソコン向けソフトウェアです。

 Mitaka は、 国立天文台 4次元デジタル宇宙プロジェクトで開発している、天文学の様々な観測データや理論的モデルを見るためのソフトウェアです。 地球から宇宙の大規模構造までを自由に移動して、 宇宙の様々な構造や天体の位置を見ることができます。

 Mitaka公式サイト概要欄より

 第5話は、まさにこの国立天文台のMitakaを開発した部署と制作陣が細かな打ち合わせをして表現された土星そのものが見どころです。

 土星の環に発生するプロペラ構造(2枚翅プロペラ型の隙間)は作中でも言及がありますが、精緻に描かれた環のウェイク構造(非常に細かく動的な縞模様のこと)に目が行きがちですが、個人的には環に到達した直後のシーンが見どころだと思っています。

 すばるが「これ氷の粒、リングだよ。氷の粒が一杯集まって遠くからだと円盤のように見えるの」と興奮気味に伝えて、現在地点が土星だと判明するところです。
 このシーンでは、すばる達と氷の粒が接触しそうなほど近い距離で描かれていて、クラッシュアイスみたいな氷の粒のサイズ感が伝わってきます。


>カッシーニ

 土星探査機カッシーニ(NASA)は、1997年に打ち上げられ、2004年に土星軌道に到達。『放課後のプレアデス』が放映されていた2015年は、翌年のグランドフィナーレと呼ばれるミッションに備えて待機中でした。この時の様子はMitakaで観ることができます。

 前述のプロペラ構造も、カッシーニの観測により発見されたものです。

 カッシーニは2017年に土星の環を探査機として始めて通過し、土星大気圏に突入して運用を終えます。計画概要は公開されていたとはいえ、奇しくもすばる達は現実の先を行っていたのでした。


いつきについて

 面白い子ですよね。
 一見すると、5人の中で最も常識人に思えるのに、突拍子もない行動を取ったり(※1)、ノリが良くて後に判明するミーハーっぽい部分も結構初期から描かれていたり(※2)、第5話で描かれる根本的な部分以外にも見た目とのギャップがちらほら見受けられます。

 『放課後のプレアデス』には食事シーンがないので、大食いという設定はあんまり目立っていないのですが、第2話の特訓後に「2人乗りでお腹が減ったと思って」と大量の食べ物や飲み物が入ったビニール袋を差し出すのはいつきなのですよね。
 ドライブシャフトでの飛行はカロリーを消費するため食べる必要があるのですが、冷静に考えると「だとしてもちょっと多すぎない?」ってくらいの量です。あおいが当たり前のように受け取るのは、いつきの「お腹が空く」の基準をすでに知っているからでしょう。

 魔法使いになった要因である「自分のわがままで誰かに迷惑を掛けたくないから本当の気持ちを抑えてしまって前に進めなくなっていた」部分にしても、いつきがクローズアップされる第5話で一気に判明するのではなく、これまで設定からフィードバックされていた部分と繋がって明かされる構成の面白さもあります。
 これには、無理はしていないけれど自分に素直になれていない、という第4話でひかるを通して描かれたキーポイントも含まれていました。
 
 話の仕掛け的な面白さもあるでしょうが、劇中劇の顛末の変更といつき王子とあおい姫という配役逆転に繋がるのは、本心を明かすことの大切さと未来は変えられるということを示唆しています(※3)。
 
 こうしてみると、いつきは『放課後のプレアデス』全体の物語の中で、結構重要な位置にいるのかもしれません。

 
※1:第2話でいきなり机を持ってくるところや、「バランスが大切ね」とドライブシャフトに本を大量積載するところ。

※2:以下第3話より。

あおい「私達は一つのガラスの靴に集まった5人のシンデレラなんだ!」
ひかる「どゆこと?」
(中略)
すばる「あおいちゃんってそういうの好きだよね」
あおい「ど、どういうのだよ?」
すばる・いつき「可愛いのっ!」(ハモる)
 
   『放課後のプレアデス』第3話 5人のシンデレラ

※3:一度は推薦でお姫様に決まった配役を「私、本当は王子様がやりたい」と言うことで、過去の決定を覆している(あり得た可能性の一つを自ら引き寄せている)。


 最初は自分がほぼ無意識に書いたマニアックな部分だけを補足した記事にするつもりだったのですが、いつの間にか内容にもかなり踏み込んだ記事を書いていました。
 『放課後のプレアデス』という作品が土台から作り込まれている事を再確認すると同時に、手抜きが下手な自分の面倒くささを再確認しています。

 次は物語の転機となる第6話です。


 つづく。


※今回のヘッダーは、Mitakaでシミュレートした2015年の土星の画像です。この土星の中心からの延長線上に地球がある位置関係です。


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