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あの青の果てを目指して『放課後のプレアデス』感想補足解説パート2(第3話)

 記事のタイトルは適当です。
 話数だけど味気ないので、それっぽいことを書いてます。
 前回(第1話/第2話)はこちら

 当初は、あらすじを入れても3話分くらいは入るだろうと思っていたのですが、いざ書く段になって見積もりを出してみるとメディア(Blu-rayDisc、DVD)収録割と同じ2話ずつでの連載となり……ませんでした。

 第3話の記事を書いて添削したら、それだけで前回とほぼ同じ分量(大体一記事として適度と見積もっている文字数)になってしまったので、適宜調整しながら出していきます。

 もともとこの記事は、過去に私が書いた感想ツイートに含まれている特定の分野に興味が無ければわからない単語や、言葉足らずな部分だけを補足する形で書くつもりでいました。それ以上踏み込んで書いてしまうと、分量がとんでもないことになるのと、私自身が目を回してしまうからです。

 今回は面白いリアクションを頂いたので、先にこの点について書きます。

ドライブシャフトでの飛行について

 あおいがすばるにまず空吹かしするよう指示するのは「出力さえ保っていれば推力が維持されるから簡単には落ちない」というごく単純な考えからだと思うのですが、このやり方だとめっちゃお腹空くんですよね。
 あおいのドライブシャフトのモチーフは、WRX STIという最もスポーティなモデルなのですが、同時にテクニックを要求されるので、出力に合わせてちゃんとギアを変えないとエネルギーがどんどん逃げてしまうわけです。

 良く聞いてみると、ドライブシャフトの音にも変化が着けてあって、話数が進むごとにスムーズな響き方になっていきます。この変化が特に顕著なのが、第2話前半→第3話です。

 第2話前半で、飛行そのものが不慣れなすばるは当然として、教習中はいまいち安定しない排気音を発していて2人乗りでも、おっかなびっくりな感があります。実際すばるはインメルマン・ターンで涙目でしたが。

 「ようやく仮免かぁ(ひかる)」のシーンでの二重奏がいまいちで、あおいもまだまだ使いこなせていないことが窺えます。

 第2話最後の星めぐりの歌で「息ぴったりね(いつき)」と言われるように、機動(軌道)も排気音も見事にシンクロするのは、すばるとあおいが互いを確認し合うと同時に魔法使いとしての(ドライブシャフトの)特性も把握した瞬間なのかもしれません。

 でも、すばるはまだまだ不慣れで単独飛行は結構上手くなってきていても、編隊飛行(みんなと一緒に飛ぶ)はまだまだ慣れてないのが、第3話冒頭で一人先行してしまう形で描かれていて細かいところ拾うなぁ……と思ってました(スバル・レガシィは高速巡航が得意なので)。

 もっとも、部室シーンでひかるが開口一番「お腹減ったー」と言っているように、ドライブシャフトのモチーフになっているスバル車に搭載されている水平対向エンジンは、低燃費化要求に応じるのが難しいということも関係していると思いますが。

 つまり、どうやっても飛べばお腹が空くという……。

 あと、あおいちゃんは上手くなっても結構お腹空くよ? 


第3話 5人のシンデレラ

 全ては可能世界とでも言うの? って問いはジュブナイルの根幹。少女ではなく女性でもない女の子は境界面なのだ(何)。そういうマージナルな切り口が見えた。自分が(まだ)何者でも無いことに不満足でも考え込まない。落ち込むけど(苦笑)。
 何に恐がっているかと言えば、自分に素直になるのを無意識に恐がっている。Bパート頭ですばるの父親が職場から持ち帰ってきたエラー品のエンジンパーツの話がED後に家族の会話に繋がるのも良いですね。
 でもって、いきなり水着回かと思ったら水中ライトが何気にラリー用のフォグランプだし、成層圏上昇で息切れして誉エンジンかよ、と思ったらインタークーラー用のダクトが開いてターボチャージャーが作動するわ、地平線が丸く見えて宇宙空間ではないってことは中間圏のカーマン・ライン辺りで、時速28'000km=秒速7.7kmだから第一宇宙速度超え……って3話要素多すぎ(笑)
 あと、いまさらだけど星空が凄く綺麗。
  
   2020年6月3日午前3:22
 

 時刻表示が以前と違うのは、6月からTwitterの仕様が変わったためです。


>全ては可能世界とでも言うの?

 可能世界という言葉は、どんなことでも起こり得る世界といった意味合いで使っています。有り得ないという否定からではなく、有り得るという肯定から入る仕掛けは、不可能のラインがわかりにくいという謎を秘めている世界でもあります。

 これを『放課後のプレアデス』に照らし合わせると、会長が言った「最高の可能性を持つ者を引き寄せたはずなのに、その一点に5人が集まってしまい、結果として5人の運命線が寄り合う世界になった」という話(強引に要約した)に当たります。
 いまの世界が本来は有り得ないはずの世界だと明言するのと同時に、そういった確率を操作できるほどの技術をプレアデス星人が持っているという発言を裏付けている部分です。

 そういう世界ができてしまったのは、5人の可能性が会長らプレアデス星人達でも制御できないところまで自分達の技術を引き出したことでもある……と遠回しに言っているように思えます。
 しかし、彼(便宜上)からしてもこの事態は不本意なのか、ややこしくなるから話から省いたのか、そういう方向へは話を持っていかないんですね。

 ただ、運命線が絡み合う絵と「あらゆる物事における可能性は認識できないだけでどれも実在するとしたら」という会長の言葉に、すばるが自分がいた運命線におけるあおいといまの運命線におけるあおいの姿を思い出してはっとするカットが差し挟まれていて、みんなが気付いていないことに気付いているような描写があるものの、それが何を意味するかまではわからないのですね。

 一応、会長も「君達は何にだってなれる」といった意味合いを含む言葉を細々と挟んでいるとはいえ、

会長(プレアデス星人)
「子供でもなければ大人でもない。そして、まだ何物でもない。あるいはなろうとしない。幼い心のまま大人に近づいた、そんな矛盾した存在が君達だ」

 と言い切ってしまっているのが結構大きくて、

ひかる
「……ポンコツだ」
「聞こえは良いけど、要は私達って何物でもないポンコツってことだよね?」

 となってしまうわけです。
 謎の少年が出現して、カケラを連続でかっさらわれた後というのもネガティヴな見方を悪い意味で後押ししていると思います。

 余談ながら、私が可能世界という言葉を知ったのは、桑島法子さんが出演していた『東京星に、いこう』という白倉由美さん原作・脚本(大塚英志さんと共同だったかも?)のラジオドラマからでした。
 ドラマ自体はCDで全部聞いたものの、詳しくは知らないのでS-neryというユニットについて良く知っている人は、機会があったら私に解説してください(ぶんなげ)。


>少女ではなく女性でもない女の子は境界面

 これは先に引用した会長の台詞を言い換えた形で、どっちつかずであるが故に両方の特性を持っている不確定な(不安定な)立ち位置といった意味合いです。
 少女という言葉は強すぎるため──年齢や容姿などをすっ飛ばしてイメージを確定させられる語だから──まだ何物でもない、あるいはなろうとしないという位置づけを強調するのに、魔法少女というわかりやすい言葉を捨てたことを絶讃しているのですが……。

 過去の自分、もう少しわかりやすく書け、と言いたくなりました。

 話を戻すと、『放課後のプレアデス』では魔法使いという言葉は良く出てきますが魔法少女という言葉は一切出てきません。少女という言葉にしても、作品から一歩距離を置いたあらすじであるとか、キャラクター紹介とかくらいですよね。小説版は読んでいないのでわかりませんが。

 そうなるとクローズアップされてくるのが中学生という部分で、内面的な捉え方で「子供でもないが大人でもない。まだ何物でもない」という意味合いを設定年齢によって補強する作りをしている、とも言えます。

 この感覚は、すばる達当事者からしても、すばる達を見ている視聴者からしても、進む先が手探り状態になるのが面白いです。

 あと、これくらいの年頃にある浮かれたり落ち込んだりの切り替わりが忙しない時間が、コスプレ研究会立ち上げ・カオスな部室完成(かんぱーい)から、カケラ争奪戦に負けました・反省会に移行して、時間軸が現在に戻るところにも表れていてました。


>エラー品のエンジンパーツ。

 ここですばる・父が極めて重要な事を言っています。

すばる・父
「ばらばらで見たら、たしかに変な形かもな。でも、このどれもみんなで一生懸命考えて一つ一つ形を決めていったんだ。どの形にもちゃんと意味があるんだ。そうしてこしらえたものをちゃんと組み合わせさえすれば信じられないほどの力を生み出すんだ」

 実に技術屋らしいものの見方がストレートに表れた言葉なのですが、言葉選びが丁寧で娘を意識しているのが窺えます。
 視聴者からすると、言っていることが完全に伏線なので、この部分はBDで見直してちゃんと引用しました。
 すばるが親しい相手との距離感ちょっと近めなのは、すばる・母の影響かもしれませんね。

 ところで、すばるの自宅駐車場に停まっている車がスバル・R2(たぶん)からレガシィB4に変わっていたのは、第1話前半ですばるがいた世界とは違う世界という演出なのか、たまたま新車に代わる直前だったのか……。

 まあ、メカ好きという人間はそういうところが気になってしまうしょーもない人種なのです。たぶん、発売タイミング的に後者(新車に代わる直前)だと思います。


>水中ライトが何気にラリー用のフォグランプ

 ドライブシャフト先端の左右にヘッドライトが点灯するので、あれはフロントグリルがモチーフなのか、と気付けるシーンでもあります。

 ラリー用のフォグ(霧)ランプ(=ライト)というのは、WRCなどのラリーカーのボンネットの上に並んでいる丸いライトのことです。
 あおいのドライブシャフトのモチーフであるインプレッサWRX STI→WRX STI(VAB)は、日本車では三菱・ランサー・エボリューションとWRCで肩を並べた競技車のベースに使われている車です。

 このシーン、5人だったのが6人いる! ってなるのも面白いですよね。お前いつの間に……。


>成層圏上昇で息切れして誉エンジンか

 誉《ほまれ》エンジン。富士重工業の前身である中島飛行機が開発した2000馬力級のレシプロ戦闘機用エンジンの海軍側での呼称です。陸軍飛行隊での呼称ハ45。空冷複列18気筒の星型エンジン(Radial Engine)。

 BD1巻付属冊子とアートワークにドライブシャフトの設定画があるのですが、後部の星に星形エンジン(英語表記はないけど、たぶんStarなんちゃらEngine)と書いてあって思わず笑いました。

 この誉エンジン自体の性能は高かったのですが、高度が高くなると大気が薄くなるので、おおよそ高度8000m(7000mや9000mとする資料もあり)で燃焼効率が落ち始めて、出力が上がらず上昇が難しくなり、高度約10'000mを飛ぶB-29爆撃機の迎撃に悪戦苦闘していた過去があります。

 高度3000~6000m辺りが大体の雲頂(雲のてっぺん)なので、積乱雲をバックに上昇しようとしては落っこちそうになる演出は、出力の足りないプロペラ機を連想させます。一応、調べてみたところ積乱雲の中には雲頂が高度15'000m(15km)に達するものもあるらしいです。

 エンジンが息切れするというのは、つまり大気が薄くなって燃焼効率が下がって出力が上がらないから高度も上がらないという意味です。


>インタークーラー用のダクトが開いてターボチャージャーが作動

 空気が薄くなってきて燃焼効率が下がっても、まだ解決策があります。
 エンジンを作動させるのに必要な空気が確保できているなら、下がった燃焼効率を上げればいいわけで、その役割を果たす機構がターボチャージャー(排気タービン式過給機)です。

 ターボチャージャーは、一度燃焼して生じた排気ガスの流れを再度コンプレッサーで圧縮してタービン(羽根車)を回すことでエネルギーを得る(再度燃焼させる)装置です。
 もともと高高度飛行を行う航空機用に研究されていたものが第二次大戦を経て進化し、この技術が現在の自動車に装備され独自進化を続けています。

 インタークーラーは、ターボチャージャーが稼動することで圧縮され高温になったエンジンを冷ますための冷却補機(熱交換器)です。このインタークーラーに冷たい空気を当ててターボチャージャーとエンジンを冷却するのと、エンジンが吸入する空気の密度を高めてより多くの酸素を取り込むという自動車と航空機双方のメカニズムを反映した演出です。
 ダクトと書いてますが、正しくはエアインテーク(空気取り入れ口)でして、スバルWRXやフォレスターのボンネットに付いているアレと繋がっています。
 インタークーラーはスバルならエンジンの上部が定位置で、日産や三菱だとフロントグリル中央下寄りに装備されるので、ドンピシャなセッティングでした。

 このドライブシャフトが変形する際、いつき側にメーターパネル型魔方陣が映ります。
 3連メーターは、左がエンジンの回転計(タコメーター)で、中央が速度計(スピードメーター)、右がブースト計(負圧計:ターボチャージャーで圧縮された空気の圧力=過給圧を指す計器)というのも凝っています。

 あと、ドライブシャフト変形前にすばるがいつきの前に出て風(大気の流れ)を見せようとする動きがそのままスリップストリームになっているので、この一連の機動こそが変形の鍵になっている、というメカ好き垂涎の演出だったりします。


>中間圏のカーマン・ライン辺り

 カーマン・ラインは、大体高度100kmに設定された境界線で、これより上が宇宙空間と定義されます。ちょうどオーロラと同じくらいの高度なので、作中の絵と「厳密には宇宙ではない」という台詞からそう判断しました。ちなみに、国際宇宙ステーションは高度400kmを周回しています。

 地球の大気は下から順に、対流圏、成層圏、中間圏、熱圏、外気圏(この上が宇宙空間)の5つに分類されていて、高度が上がるほど空気(正確には大気密度)は薄くなります。高度50'000m(50km)が成層圏境界面でここまで来ると空気が薄くなってきて、燃焼・爆発によってエネルギーを得る内燃機関の効率も落ちてきます。
 ジェットエンジンも燃焼・爆発の力を利用しているので、まともに機能しなくなるわけです。

 現状、地上から宇宙へ行くのにロケットエンジンが必要なのは、その高さで必要な推力(押し上げる力≒前に進む力)を発揮するエンジンが他にないから、というごく単純な理由だったりします。


>時速28'000km=秒速7.7kmだから第一宇宙速度超え

 第1宇宙速度は、地面に落下することなく地球を回り続けられる速度で、秒速約7.9km(時速28'440km)、マッハ23くらいです。
 いま気付いたのですが、ツイートの方がちょっと間違っています。状況から時速→秒速換算時に会長が端数の440km/hを端折っていることに気付かなかった私のミスです。

 要するに、人工衛星のなるために必要な速度なのですが、映画『王立宇宙軍~オネアミスの翼』のシロツグの解説がわかりやすいので拝借(引用)すると、

「投げられた石は地べたに落ちる。当たり前のことだな」
「この石を地面と水平方向に加速してやる。ずっと遠くに落ちる」
「これをさらにうんと加速する。この石の速度がある一点を超えたとき、地平線の向こうまで果てしなく落下し続けることになる」
「これが人工衛星だ」
「上げるんじゃない。地球の丸みに沿わせて落っこどすんだ」
「ただ、空気のあるところではその速度を出せないから、高いところへ放り上げてやる」
「地上に戻るときはちょっと空気に当ててやれば、それだけあっという間に減速し、地上に降りてくれる」
 
   『王立宇宙軍〜オネアミスの翼』1987年 GAINAX

 この一定の速度が第1宇宙速度。秒速約7.9kmを下回らない限り、その物体は延々と地表には落ちずに飛び続けるわけです。
 速度以外にも円軌道とか楕円軌道とか他にも色々と要素あるのですが、それはちょいと置いといて、第2宇宙速度(秒速約11.1km)以下であれば、どれほど高度が上がっても地球の重力に捕まったまま周回し続けます。
 逆にちょっとでもこの速度を下回れば、あっという間に地球に向かって落下します。

 とまあ、ここに書いたことを観ただけで大体わかってしまう人間なので、古い馴染みに「『放課後のプレアデス』を観てない」と言ったらそりゃ驚かれるわけですよね。

 第3話の要素が多いのか、たまたま自分のストライクゾーンに入ってきたタマが多かったのか。実際に書いてみても、判断に迷うところです。水着回でもあるため衣装に注目する人もいるでしょうし、すばるとみなとのいちご牛乳を挟んだやり取りに注目する人もいるでしょうし……。

 ともあれ、次回はお月さまに行きます。ひかるちゃん回です。


 つづく。


※今回のヘッダーは、Mitakaでシミュレートした2015年9月頃(正確な設定日を忘れました。すみません)の中間圏付近の画像です。

ご支援よろしくお願いします。