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こんにちは。

 商売を長く続けていると、信用やブランドが築かれ、やがては経済的な価値をもつようになります。では、このような価値は、法律上どのように保護されるのでしょうか。この点を考える上で、以下で大学湯事件(大判大正14年11月28日民集4巻12号670頁)を紹介してみたいと思います。

1 どんな事件だったのか

 松本榮太郎は、井口梅三郎から、京都帝国大学の近くにあった建物を借り、「大学湯」という看板でお風呂屋さんを営業していました。6年後に、榮太郎はお風呂屋の営業をやめることにし、賃貸借契約を解約して建物を梅三郎に返しました。ところが梅三郎は、榮太郎が「大学湯」で築いた信用やブランド(裁判では老舗と呼んでいます)を売却させないようにしただけでなく、同じ建物を千太郎に貸して「大学湯」という看板で営業までさせていました。そこで、榮太郎は梅三郎らを相手に損害賠償を求める訴えを提起しました。

2 松本榮太郎の主張

 私は、950円ものお金を出して「大学湯」という老舗(つまり看板や信用、ブランド、ノウハウなど)を梅三郎から買い取って営業していました。賃貸借契約が終了するときに、梅三郎がその老舗を買い取るか、または私が第三者に売却することを認める特約があったのです。それなのに、梅三郎はその老舗を売却させないようにしたのみにならず、千太郎に「大学湯」の看板を使用させていたのです。これは明らかな不法行為である。

3 井口梅三郎らの主張

 賃貸借契約が終了するときに、私が老舗を買い取るか、それとも榮太郎が第三者に老舗を売却することを認めるといった内容の特約をした覚えはありません。また、榮太郎は「大学湯」の営業で築いた信用やブランドを意味する老舗を持っていると主張しているが、そもそも老舗は権利ではないので、侵害しても不法行為にはならないと思います。

4 大審院の判決

 民法709条における侵害の対象は具体的な権利に限らず、法律上保護される利益で足りる。大学湯という老舗が取引の対象となるものである以上、法規違反の行為によりその売却が妨げられたことにより、得べかりし利益が失われたとすると、それは所有権の場合と異なるものではなく、このような利益も不法行為により保護する必要がある。よって、松本の請求を認める。

5 「大学湯」という無形の財産を守る方法

 当時の民法709条の文言では、損害賠償をするのに「権利の侵害」が必要とされていました。また「大学湯」という看板の信用やブランドを守る法制度も整備されていなかったこともあり、民法709条の不法行為の規定を拡大解釈することに頼らざるを得なかったという事情があったのです。

 現在では、不正競争防止法2条1項で、類似の商品を規制できる可能性や、「大学湯」の商標を登録することによって保護することも可能となっています。

 古い判決を見てみると、商売上の利益を守るために、いかに法律が発展してきたことがよくわかりますね。

 では、今日はこの辺で、また。


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