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「大自然に打たれた布石」アフリカ大陸縦断の旅〜ナミビア編➉〜

 2018年9月18日午前1時頃、とある閉まったレストランの前でチャリ旅に向けた最終確認をしていた私たちでしたが、その姿に気が付いてくれたお店の女性2人のご好意により、室内で暖かさを感じながら少し仮眠をとることに成功。そして、とてつもなく寒い夜の荒野へと繰り出し、チャリ旅開幕。しばらく夢中で漕いでいた私たちの頭上には、一生忘れることのない満天の星空が広がっていました。

 あれほど感動を覚えた星空にも慣れ始め、再び懐中電灯を点けて夢中で自転車を漕ぎ続けていた私たち。

「めっちゃ眠なってきた。漕ぎながら寝てまいそう。」

「俺もいつでも寝れる。まだ初日やし、そこまで飛ばさんでいいか。体調壊した方が厄介やしな。」

「えーっとな、今で56km進んでる。5時間弱でこれは良いペースじゃない?」

「せやな。確実に寝不足ではあるから、今からは日中に備えとこうか。」

 思い返せば、リビングストンからウィントフックまでは20時間を超えるバス移動、そしてすぐさま自転車旅に向けて準備を開始、そこからはほとんど極寒の荷台で過ごし、ようやく辿り着いたケートマンスフープで30分の仮眠の後、4時間以上の自転車爆走。十分な睡眠を取っていたとは到底言えない、準備不足の肉体はすでに限界を超えていました。

「この辺の草むらにテント張るか。こんなところに人けえへんやろ。」

「地図見る限り荒野のど真ん中って感じやな、街はないはずやで。ただ暗過ぎて周りに何があるか全く分からへん。」

「襲われるとしたら動物か。でもそんなこと言ってたら、どこにもテント張られへんで。」

「運次第。やな。」

 半ば諦める形でテント組み立て、どちらかが起きるまで眠ることにした私たち。

「ではぴょんすさん、お邪魔します。」

「ほんま、何でテント捨ててるん?これ一応1人用やで?」

「いやぁすまんすまん。あんなデカイの背負って自転車1000km漕ぐ自信なかってん。」

「長距離バスの時も何時間も歩いた時もチャリ旅のためやって言ってここまで持ってきてたのに、すぐ捨てた時マジで引いたもんな。」

「こんな睡眠環境やったら早くゴールしたい、と思えば自転車のペースも上がるはず。良いことやん。」

「だる。いびきうるさかったら、次から外な。まぁ人間の体温によるテント内の温度上昇には期待しとく。」

「何でもプラスに捉える。良い心がけですわ。」

 訳の分からないナミビアの荒野で野宿をするという行為にワクワクが止まらず、眠ることなく会話を続けていた私たち。それは、冗談を言うことができる余裕が、まだ自分たちにはあるんだと言い聞かせているようでした。


 午前6時半、テントを貫く朝日によって起床。重たい体を起こしてチャックを開けて外に出ると、そこには別世界が広がっていました。

「おお、こんなところで寝てたんか。」

「ほぼ遭難やな。」

 砂、草、木、岩、山。目の前に広がる緑少なめで刺々しくも圧倒的な大自然。テントに入る前と後では何もかもが異なる、異空間にワープしたような不思議な感覚。

「結局寝れたの2時間だけやけど気持ちええな。」

「さすがにこの環境で熟睡はできへんよ。でも疲れは飛んでる。」

「それもそうやな。動物に襲われへんかっただけ良しとしよう。」

 背伸びをしながら大きく深呼吸をし、両手を広げて目を瞑った私たち。

「そういえば、昨日のおばちゃんに貰ったのリップやろ?」

「ん?そうやで。しかも1本、しかも使いかけ。」

「餞別でリップ渡そうと思わせるぐらい、唇乾燥してたの何か恥ずかしいな。」

「そりゃあのトラックの荷台でずっと冷たい風、モロに受けてたから仕方ない。でも俺とぴょんすとおばちゃんの3人でシェアはきつくない?」

「ではテントお邪魔代と言うことで。」

「それ言われたらお終いや。リップ権、譲渡します。」

 冷たい風に吹かれて揺れる草木、何にも遮られることなく差し込む朝日。青空の下、荒野の上に寝転がる私たちはしばらくの間、笑いながら大地を感じていました。

「そろそろ行くか。リップも塗ったことやし。」

「唇乾燥したままやけど、行くか。」

 テントを片付けて水を勢いよく飲み、バックパックを背負った私たち。

「ちょっと待って。何かタイヤに刺さってるわ。」

 自転車に跨った私は、前輪に刺さった緑の何かに気が付きました。

「何やこれ。ちっちゃいモヤットボールみたい。」

「あぁそれ小学生の時、よく友達と投げ合ってたわ。アフリカにもあんねんなぁ。」

「既視感あると思ったらあれか。実家の近所にも似たようなやつ生えとったわ。」

 ミニモヤット植物を2つタイヤから取り除いて荒野に放り投げ、私たちは自転車を漕ぎ始めました。

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