「揺れるヒッチハイク」アフリカ大陸縦断の旅〜ナミビア編⑤〜
2018年9月17日午後3時半、そこそこ車通りのあることに安心し、B1でヒッチハイクを開始した私たち。しばらくは運転手と目が合わない時間が続きましたが、自転車を草むらに隠す作戦で何とか1台目を捉えることに成功。乗せてくれた彼の応援してくれる熱量に、背中を押された私たちは、そのままの勢いで2台目へ。しかし、停まった車は自転車2台を乗せるには厳しいサイズ。諦めようとしましたが、運転手は再び大きな車で私たちを迎えに来ると言い残して去って行きました。
「ほんまに来てくれると思う?わざわざ俺らのためだけに戻ってくるんやろ?」
「1時間ぐらいとか言ってなかった?てことは来てくれたとしても、夜ってことなんちゃう?」
「申し訳ないけど、そんなには待ってられへんよな。」
「続けた方がいい気がするけど。」
彼らの真意が私たちに分かるはずもなく、道路脇の荒野に座り込む私たち。
「(今からヒッチハイク成功して別の車で移動してまうと、もし戻ってきてくれた時に、俺らがおらんかったら申し訳ない。これまで色々騙されてきてるのに、無償の善意を裏切るほど、まだ冷徹にはなれん。でも、『2度と会うことない人やし、はやく進むことだけ考えたらいいやん。それであの人らが戻ってきてくれたら御の字やろ。』と思ってる自分もおる。はぁ、厄介極まりない。)」
ゆっくりと立ち上がった私たちの前を、西洋人観光客の車数台が猛スピードで駆け抜けていきました。特に相談することなく、ヒッチハイクを始めた私たち。しかし、重たい腕を高く上げようとすることはなく、縮こまったグッドサインが冷たい風に煽られていました。そんな私たちの力なき主張は荒野に掻き消され、ただ時間だけが過ぎていったのでした。
「待ってても日暮れてまうし、もうやるしかない。」
「せやな。車も減ってきてるし。」
それとない理由を口に出して自分を正当化させた私たちは、肘を目一杯伸ばして、やってくる車にグッドサインを押しつけました。そして数台に通り過ぎられ、しばらく経った頃。ケートマンスフープ方面から来たハイエース型の車が1台、私たちの手前で停車しました。
「まさかのさっきの人じゃない?たぶん。」
「絶対そうや。ほんまに来てくれてるやん!」
私たちがその車へと走り出す前に、運転席から降りてこちらに手を振る男性。それは間違えなく先ほどの彼でした。
「レッツゴー、レッツゴー!」
笑顔で肩を回すその姿を見て、おそらく引き攣った笑顔でお礼を伝える私たち。
「奥さんは来れなかったんだけど、これ、彼女から君たちに。」
そう言って、彼は500mlのペットボトルとパンを私たちに手渡してくれました。そして、私は数十分前の自分に嫌悪感を抱きました。
「(疑って踏み躙ろうとしてたのに、笑って話せてしまっている。彼の善意に対する純粋な感謝だけじゃなくて、先に進める喜びも強く感じてしまっている。)」
車の運転中もなお、私たちのこれからを心配してくれる彼の優しさに、申し訳なさを募らせながらも、できる限りの感謝を伝えた私たち。
そして、1時間ほど経過した頃、日が落ち切る前にとある村に停車。村とは言っても、荒野を切り開いた土地に、膝下サイズの低く白いフェンスに囲まれ、広い庭を持った西洋造りの大きな家が数件、距離を空けて建てられているようでした。
「僕が送ってあげられるのはここまでだよ。何かあればこの辺りの人に尋ねると良い。ここは安全だし、車通りも少なくないと思うよ。」
「本当にありがとうございます。」
彼と握手を交わした私たちは、ウィントフック方面に戻る彼の車を見えなくなるまで見つめていました。
「あの人、自分の家通り過ぎてるよな。」
「俺らのこと考えて、わざわざこの場所選んで送ってくれたんやな。」
湿った草の上に座り、彼から貰った水を飲む私たち。
「寝床はもうこの辺で大丈夫やろし、完全に日落ちるまで続ける?。」
「後30分ぐらい?粘るか。」
勢いよく立ち上がった私たちは、明らかに交通量が減る中で、1台たりともを逃さぬよう、荒野の奥を見つめていました。しかし、暗くなってきたこともあり、そもそも私たちの存在に気付かれているのかさえ怪しい状態に、ただただ冷たい道路を眺める時間が続きました。家の外に出てきて作業する近隣住民に目を逸らされながらも、たまに通過する車に飛び上がって主張する私たち。
そして、残されたわずかな夕陽にありがたみを感じていた頃、遠くから明らかに大きな車がやって来るのが見えました。これまでにトラックは何台か見かけましたが、すでに荷物がギチギチなのか停まってくれる様子はありませんでした。
「もう寒いし、通り過ぎる時の風いらんわ。」
「でも前出とかないと気付かれへんし、一応ちょろちょろしとこ。」
体を縮こませながら、トラックの風をモロに受ける私たち。
「さっぶ。やってられん。」
「次から日暮れのトラックはジャンケンやな。」
とすでにお互い、今日はここまでかと諦めてヘラヘラしていていたところ、行ったはずのトラックが絶妙な距離で停車しているようでした。
「俺らに気付いたってこと?」
「でもちょっと遠くない?」
「普通の車みたいにすぐ停まられへんねやろ。」
「まぁ行ってみるか。」