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道具コラム『フライパン』

前回、鍋について書いた時『フライパンは鉄でもテフロン加工でも好みのものを』的な話を書きました。その項の補足。

鍋に関する研究の多くは材質や形状についてがほとんど。調理に言及したものは少ないですが、『鉄製とフッ素樹脂加工アルミ製フライパンの基礎調理性能』(肥後温子 富永暁子 井部奈生子著)という論文では乾式調理においてフライパンの材質がどのような影響を及ぼすのか、というのがまとめられています。

こちらの論文で実験に用いられたのは厚さ1.6mmの鉄製フライパンと厚さ2.8mmのアルミ+テフロン加工フライパンです。 

厚さ、1.6mmだとこのあたりの商品と同等の性能だと思います。

テフロンはおそらく一般的な製品でしょう。この論文では含水率の異なる試験用食材をそれぞれ調理し、官能調査を行っています。結果は

(1)Fe製鍋は調理時間がAl-F装鍋の約7割と短い割に焦げ色が濃く,(2)表面温度や焦げ色などの外部要因をそろえて対比すると,Fe製試科は加熱時間が短いためにAl-F製試科より軟らかい食感が残り易いことが確認できた。
(3)Fe製試料の方が焦げ色,食感などの官能評価が高い場合もみられ,(4)食材による鍋材質の使い分けが必要であると思われた。
                         (以上、抄録から引用)

というものでした。これだけ読んでもよくわからないですが、まとめると

鉄のフライパンのほうが早く焼き色がつき、結果として調理時間は短い

ということです。つまり、牛肉のステーキなどは鉄製フライパンが有利で、なかまで火を通したい鶏肉を焼くときにはテフロン加工フライパンがいい、ということは言えるかもしれません。では、炒飯はどうでしょう? 炒飯は表面に火が通ってパラリとして、米の内側に水分が残っていることが大事なので鉄のフライパンが向いています。テフロン加工フライパンでつくる場合には最終的に水分を補うなど工夫が必要でしょう。

例えばもやしや青菜炒めはどうでしょうか。野菜の加熱には高熱を必要としないのでテフロン加工フライパンでも加熱時間を調整すれば十分に対応できます。しかし、火を通しすぎてしまった場合(炒めるのがへたな人)は鉄製フライパンで流出してきた水分を飛ばしてしまったほうがシャキッと仕上がるかもしれません。

しかし、 論文のなかに

多様な成分をもつ食品の乾式調理性能を ひとまとめに論ずるのは困難であるが,両 フライパンにおける調理性能の差異の多くが単純に調理時間の違いで説明できることがわかった。

とあるように調理時間を調整することでどちらでも同じように調理することは可能でしょう。とはいえ、熱容量を考えるとステーキを焼くのならおすすめはやはり分厚いスキレットですね。

スキレットは使っているうちに酸化した油(重合といいます)が表面を覆い、錆びることも肉がこびり付くこともなくなります。デメリットはとにかく重いということ。というわけで僕は普段使いは軽いテフロン加工のフライパン、勝負をかける時はスキットという具合に使い分けています。

熱容量と温度ドロップ

ところで熱伝導率がアルミニウムよりも低いはずの鉄のほうがなぜ早く焼き色がつくのでしょうか。それは鉄のほうが熱容量が大きいので、水分が蒸発しても鍋肌の温度を保つことができるからですよね。フライパンに食材を入れることで温度が下がる現象を『温度ドロップ』と呼びますが、温度が下がると調理時間が余分にかかるので、結果としてステーキの場合なら肉汁が失われてしまいます。

専門店のキッチンでは厚い鉄板のグリドルの導入が進んでいますが、厚い鉄板は熱容量が大きいので、肉や魚などを入れても温度が下がらないのがメリット。(フライパンの洗い物がなくなるというオペレーション状の利点もありますが)グリドルを使えば魚の表面だけに薄く火を入れるといったことも可能ですし、もう一つメリットがあります。それは香ばしさが出やすいということ。

メイラード反応は『自触媒反応』を起こすので、反応容器(この場合はフライパンやグリドル)に褐変反応物質(この場合は焦げ)があると反応速度は速くなります。つまり、連続して焼くと後から焼いた肉にはきれいな焦げ目がつきやすいのです。

逆に野外でバーベキューをする場合は褐変反応物質が溜まらないので、肉にあらかじめ溶かしバターか油脂を塗っておきましょう。それで熱が油脂を媒介して全体に熱が回ります。加熱時間も異なるので何回か実験が必要でしょうか、慣れていれば次第にうまく焼けるはずです。

今日はちょっとした小話というか、コラム的な話題でした。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!