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cakes連載〈「 おいしい」をつくる料理の新常識〉第1回余談

本日、cakesで〈「 おいしい」をつくる料理の新常識〉という連載記事の1回目を掲載していただきました。

第1回目のテーマは『世界一おいしいご飯の炊き方』です。こういった連載は読んでもらわないとどうにもならないので、みなさまよろしくお願いします。

書き切れなかったマニアックな話をこちらに書きます。

米の吸水について

記事で扱っている米の品種は日本で一番作付面積が広い、コシヒカリを想定しています。実際には米の品種によって吸水曲線はみな違います。記事中では洗い米とそのまま浸水させるパターン、それぞれに触れていますが、実際には米の品種に応じて吸水させることが理想です。例えば料理研究家の土井善晴さんは『洗い米』というザル上げでの吸水方法を推奨していますが、これはササニシキでは非常に有効な吸水方法か、と思います。

実際にコシヒカリとササニシキで、洗い米とそのまま浸水での炊飯方法で比較してみましたが、コシヒカリはそのまま浸水したほうが、ササニシキはザル上げしたほうがふっくらと甘く炊けました。おそらくササニシキが硬いお米だからでしょう。ザル上げをすることで表面にヒビが入るので、水が吸水しやすくなり、デンプンも溶出し、うまく炊けた、と推測できます。ササニシキは作付面積が全体の1%もない希少品種なので、一般化はできませんが……。

こうして考えると昔の料理屋さんが『洗い米』というザル上げをしていたのは、昔の米が硬かったからでしょう。現在の主力品種であるコシヒカリはザル上げをせずにそのまま浸水したほうがいいようです。

また、記事中では浸水時間は5℃で120分としていますが、浸水率は温度に依存するので例えば10℃の水を使った場合はちょうど60分で吸水が完了します。吸水しすぎると若干、柔らかい食感になってしまうので、ジャストのタイミングを見極めることが重要です。なぜか? というのは次の加熱で説明します。

加熱について

cakesの記事の文中では8分〜12分で沸点に持っていくという説明しかしていますがどのような構造変化が起きているのでしょうか。米の温度を計測すると60℃を超えたところで主に胚芽部からデンプンが溶出をはじめます。そこから80℃までで米が膨らんでいきます。

100℃近くに達するといよいよ糊化が進むのですが、糊化と簡単に言っても段階があります。デンプンは糊化させすぎると弾力が失われてしまうので、充分に糊化させた米とそうでない部分が点在している状態が最も理想的という話になります。そこで重要になってくるのが吸水で、吸水させすぎると加熱が早く進んでしまい、全体が糊化させすぎた状態になってしまうんですね。

理屈の上では農産物である米はもともと均質ではないので、吸水が終了した状態で加熱をはじめれば、適度にばらけておいしく炊けるということです。

結局のところは……

記事中にも書きましたがこのあたり、実は炊飯器メーカーの研究がめちゃめちゃ進んでいて、もはや炊飯器で炊いた方が楽だし、おいしいという時代になってしまった気がします。もちろんある程度の価格がする炊飯器を使う必要はありますが。

以下、余談……

タイトルに「おいしさをつくる」という言葉がありますが、僕らがおいしさをつくっているわけではありません。数年前、岩手の短角牛生産者を取材したんですが、彼は自分のことを「生産者」とは言わないんですね。「自分は牛を生産しているわけじゃない。育てているだけだから」と。

なるほど、と反省しました。人がなにかをつくっていると勘違いしちゃいけないんだな、と。料理も同じで、おいしさは自然に元々、あるものなんですよね。大事なことは食べ物を人の手で「まずくしない」こと。それが食材や生産者に対する礼儀だと思っています。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!