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「ポストコロナ」の観光振興、国が果たすべき新たな役割とは?-マッキンゼー

 マッキンゼーが、観光産業がコロナ禍から回復するために国が求められることをレポートで発表していました。簡単にご紹介します。
(レポート原文:https://www.mckinsey.com/business-functions/risk/our-insights/responding-to-coronavirus-the-minimum-viable-nerve-center)

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 観光産業は2019年実績で世界のGDPの10%を占めて約9兆米ドルに達し、農業の3倍近い規模。にも関わらず、サプライヤーや中間業者のバリューチェーンはバラバラに断片化していて、産業の大部分を構成する中小業者同士の協調(coordination)は限定的であり、それに対する国の関与も限られる。

 しかし世界観光機関(UNWTO)によると、コロナの影響で2020年の世界の海外旅行者数は60%から80%減となり、観光消費額がコロナ前の水準に回復するのは2024年を待たなければならない可能性。最大で1.2億人の雇用が影響を受けるとされている。

 こうしたなかで、安全に、かつ旅行者にとっての魅力を維持し、さらに経済的に実行可能な方法で観光産業が回復していくためには、かつてないレベルでの協調が必要となる。そしてそれは国が主導するべきであり、具体的には次の4点について観光産業への国の関わり方を提案する。

1.コロナ対策を一元化する

 従来、観光省・庁の役割はデスティネーションマーケティングや産業振興、調査などだったが、コロナによって求められる役割は変化する。

 まずは、観光や衛生に関係する省庁や民間企業の垣根を取り払うため、コロナ対策を一元管理する対策センター(Tourism nerve center)を創設するべき。「雇用と旅行者の保護」「産業の経済的救済」「コミュニケーションと需要喚起」「産業再生」「産業分析」の5テーマでプロジェクトチーム設置を。

 24ヶ国の観光関連の景気刺激策を分析すると、観光産業に直接投じられるものだけで1000億米ドル近く、観光との関わりが大きいものを含めると3000億米ドルに迫るが、出どころがバラバラ、情報が分かりにくいというような理由で、産業内のプレーヤーに知られていなかったり価値が伝わっていなかったりする。回復には迅速なフィードバックと予算使途の見直しが不可欠。

2.助成・補助のあり方を見直す

 1000億米ドルのほとんどは助成金や債務免除、中小企業と航空会社向けの助成金といった形態を取っている。しかし、マッキンゼーの予測では需要が2019年の水準に戻るのに4年から7年かかるため、供給過多の状態が中期的なニューノーマルとなることから、産業へのファイナンスのあり方も見直されなければならない。現在の形態では、国も企業も保たない。

 一例は、収益をプールしてシェアする仕組み(※航空業界のジョイントベンチャーのような)。例えば、同地域の複数のホテルが低稼働率で競争しあうよりも、少数の施設が高稼働率で営業して収益をシェアすれば、全体で見ればコスト削減が可能で国の支援も少なく済む。休館したホテルがリニューアルに助成金を投じれば地域の魅力も増す。

 政府主導で民間資金を観光産業の中小企業の資本増強に結びつける取り組みも。複数企業をまとめて証券化することでリスクを低減したり、デューデリジェンスの手間暇を簡素化したり。


3.感染防止策を一貫して実施し、それについて明確な情報発信を継続する

 国際航空運送協会(IATA)やWTTCなどがガイドラインを設ける一方、地方自治体がさらにその上にルールを追加したりしていて、消費者目線では安心できず、需要回復の妨げにもなる。そのため、国や公的機関による一貫した感染拡大防止策と、それについての明確で信頼できる情報発信が重要となる。

 ギリシャは他国に先駆けて入国制限の緩和の日付や条件などを公開し、その通りに実行したところ夏の旅行需要の獲得に成功。ドイツ市場において夏の旅行先として上位5位以内に入ったのは今回が初めて。7月と8月にギリシャを訪れる航空券の販売は昨年の約50%まで回復(※額か枚数か不明)。

 拡大防止にはテクノロジーの活用も鍵となる。

4.産業内におけるデータ活用をアップデートし、デジタル化を促進する

 これまでの需要予測方法が意味をなさなくなって企業がマーケティング予算の使途などについて混乱しており、政府はデータ提供のあり方について考えるべき。シンガポールでは、コロナ前から「Singapore Tourism Analytics Network (STAN)」の取り組みを始めていて、訪問者数や消費、アンケート調査などのデータを提供しているほか、各種インジケータのリアルタイムデータや、数週間から数ヶ月の予測(nowcasts)などの情報も利用可能としている。

 こうしたデータ活用の見直しは、業界のデジタル化の推進にもつながるはず。

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