ジャック・ロンドン「赤死病」#12

 少年たちはテキパキと機敏に手を動かした。誰がどの歯を貰うかの熱い話し合いの最中には、みなとにかく早口になった。少年らの単音節の言葉と、短く断続的な文の区切りは、一つの言語というにはいくぶん難解にすぎるものだったが、とはいえその言葉にはうっすらと文法構造がうかがい知れ、何らかの高等言語における活用のなごりも感じ取れた。少年たちはもとより老人の話す言葉もひどく乱れたもので、もし仮に一言一句そのまま書き留めれば、読む人はほとんど意味を解することができないだろう。しかし老人の言葉がいたく乱れるのは、少年らと会話するときだけだった。
 独りで自由にぶつぶつ喋る段になれば、老人の言葉はしだいに純然たる英語に近づいていった。一文一文は長さを増し、その発音には講壇からの説教さながらのリズムと落ち着きがあった。
「じいさん、レッド・デスについて教えてよ」歯の配分が揉め事なく終わると、ヘアリップは老人にお願いした。
「スカーレット・デスね」エドウィンがすかさず正す。
「でもさ、意味不明な言葉はなしで頼むよ」ヘアリップがさらに言った。「サンタローザの人みたいにわかりやすく喋って。あの人たちはじいさんみたいに変てこな喋り方しないから」

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