ジャック・ロンドン「赤死病」#16

 話は少年らの理解の範疇を越えてしまっていた。少年らは老人の話や思考が脇道に逸れても放っておいた。老人の語りはしだいに取り留めのないものになっていった。
「食料をとってくる者、それは"自由人"という呼び名だった。むろんこれはジョークだ。我々支配階級にあったものが、土地やら機械やら、ありとあるものを所有していたからな。食料をとってくる者はな、いわばわしらの奴隷だったんだ。確保された食料のほぼすべてはわしらがいただき、彼らにはほんと少しだけ残してやった。それを食って働いて、より多くの食料をとってきてもらうためにな」
「僕は自分の食料は自分で森からとってくるけどね」とヘアリップ。「もし誰かが奪いとろうとしたら、そんなやつ殺しちゃう」
 老人は笑った。
「言ったじゃないか。我々支配階級が森も土地もすべて所有してるんだ。だから食料をとってくる者はわしらの食い物をとってこなければ、罰を受けるか、最悪の場合餓え死にしてしまう。だからほとんど反抗してくる手合いはいなかったな。みなわしらの食料を確保するほうを選んだし、さらにはわしらの衣服も作ってくれた。そしてわしらの思い描く以上の快楽と歓び――フーフーよ、ムール貝もあったぞ――を準備し施してくれた。わしは当時スミス教授――ジェイムズ・ハワード・スミス教授――と呼ばれていたんだ。講義も人気があったんだぞ。つまりな、数え切れんほどの若者が喜んでわしの話を聞いてくれたんだ。偉大なる先人が残した本の話をな。」

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