ジャック・ロンドン「赤死病」#10

「ねえ、"キョウイク"って何?」エドウィンが口をはさんだ。
「赤を緋色って呼ぶことだよ」ヘアリップは嘲るような調子でそう返し、ついで老人に向き直った。「父さんから聞いたんだけど、ちなみにそれは父さんの父さんが死ぬ前に言ってたことらしいんだけど、サンタローザ出身のじいさんの奥さんは、からきし駄目な人だったんだってね。赤死病の前はキュウシニンをやってたんでしょ。キュウシニンが何か知らないけど。教えてよエドウィン」
 だがエドウィンも知らないらしく首を横に振った。
「そうだ、妻はウエイトレスだったさ」老人は認めた。「でも素敵な女性だったのは間違いない。それにお前の母親は彼女の娘なんだぞ。疫病の後、女性の数はまるで少なくなった。たしかにお前の父親の言葉どおり妻は給仕人をやっていたが、わしが見つけることができた唯一の相手なんだ。ともあれ、ご先祖様を悪く言うのは良くないことだぞ」
「父さんが、チョーファ家を始めた男の妻は"レイジョウ"だったって――」
「レイジョウって?」フーフーが割って入った。
「チョーファの女ってこと」すぐさまヘアリップが答えた。
「チョーファ家の最初はビルという男で、さっきも言ったがその辺にいるいい奴といったような雰囲気だった」老人は説明をはじめた。「だが彼の妻は金持ちの子、高貴な育ちの女だった。彼女が赤死病の前に結婚していたのは、ヴァン・ウォーデンという産業界のトップ、アメリカを統べる十二人のうちの一人だ。財産は十億ドルとも、八億ドルも言われていた――ドルというのはエドウィンの袋にあるお金のことだ。そんななか赤死病がやってきて、その禍が去ったあと、彼女はビルの、つまりチョーファ家を始めた男の妻となった。だが、ビルは妻に手をあげることもあった。わしはこの目でみたこともある」

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