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小説「対抗運動」第5章4 閉じた体系と開いた体系

舞ちゃん「おいさん、地域通貨はいっぱいあるやろ?」

おいさん「いっぱいあるねえ。」

舞ちゃん「なんで種類だけ増えるのに普及していかんのやろ?」

おいさん「狭い地域で、とか仲間内とかボランティアがやっとったような仕事にしか使われんね。種類が増えとるんは、今の経済に疑いを持つ人らが、とにかくやってみようとするからじゃろね。交換する時、今の地域通貨を使うなら、人は相手と向き合わざるを得ない。これは、フェアーなことや。けど、すべてに地域通貨を使うんは、面倒でかなわんよ。いちいち、相手の合意を求めもってやるんじゃから。イべントの時なんかは、すぐに話しがまとまって交換がスムーズにできるけんど、欲しいものがなかなか手に入らんのは困るよ。」

舞ちゃん「それは、おいさんがせっかちなだけで、地域通貨の欠点と違うんやない?」

おいさん「舞ちゃん、お金の秘密は、一般的等価形態におかれとることじゃ。お金だけがそうなんじゃ。ほじゃけん、値段だけ決めといたら、あとは自動的に取引されるんじゃ。」

舞ちゃん「地域通貨も同じやろ?」

おいさん「その地域だけ、会員のなかでだけ、一般的等価形態にあるね。しかし外では通用せん。」

舞ちゃん「複数の地域通貨使うたら?」

おいさん「品物も増えるし、取引可能になる相手も増えるけど、それはどちらかの地域通貨が、共通の、一般的等価形態になることやない。決済は別々にせないかん。舞ちゃん、地域通貨がええんは、言うたら不便なからや。一回ずつ、きちんと相手に向き合うて交換せざるをえないからフェアーなんじゃ。共同体、すなわち閉じた体系の中にある良さじゃね。その中のルールに従わざるをえんけん、自分だけ都合がええようにすることはできん。けど、こんなに分業がすすんだ複雑な世の中で、普及していくことは無理やと思うよ。」

舞ちゃん「市民通貨Cはどう違うん?」

おいさん「円とくっついとるけん、開かれた体系じゃね。円で買い物したら何%かもらえる。次ぎからは、円と同じように使える。お店が発行するけん、買い物する人はなんの面倒もない。」

舞ちゃん「フェアトレードにも使えるやろうか?」

おいさん「舞ちゃん、地域通貨なら、もう使うとるとこがあるんじゃ。国分寺に、おいさんらも時々利用しとるカフェスローいう店があるんやが、ここの母体はNGOのナマケモノ倶楽部いうてね、フェアトレードでエクアドルの雑貨やコーヒーを扱つこうとる。何年も前から地域通貨も導入しとったんじゃが、去年の秋から工夫してフェアトレードに利用できるようにしとる。」

舞ちゃん「どうやっとるんやろ?」

おいさん「来週、複数の地域通貨が同時に使えるフリーマーケットの試みをやるそうじゃから、行って聞いてくるよ。まや・ラミスさんも歌いにくるそうじゃけん楽しみじゃ・・・。
おっと、フェアトレードに利用しとる地域通貨の単位はナマケ、あの動物のナマケモノからとったそうじゃ。エクアドルのエコシティで生産しとるエコパペルいう再生紙で作った紙幣と、タグアいうて象牙ヤシの実から作った硬貨を利用するんじゃ。紙幣には100ナマケと500ナマケがあり、タグアは1000ナマケじゃそうな。これらを、1ナマケ=1円で買うて使うんじゃて。タグアはもともと高級ボタンの材料じゃったそうな。ナマケモノ倶楽部はこの売上から必要経費を引いて、残りをエクアドルの基金にプールするそうな。そしてそれを現地のサスティナブルな事業に寄付していく。じゃが、この再生紙エコパペルとタグアの継続的な輸入がまずフェアトレードになっとるそうな。ほじゃけん、地域通貨の取引がどんどん浸透していくことが、フェアトレードの拡大につながる、いうことかいね。」

続く
執筆:飛彈ゴロウ、2003年6月11日

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