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フィラデルフィアでの恐怖と憎悪③

ふと目を開けると、外の空模様はうっすら明るくなっていた。4時間位はそのまま座って寝ていたのであろうか。ウェイトレスを呼び、おかわりのコーヒーと軽い朝食を注文する。一晩居場所を提供してくれた、自分なりに感謝を表したつもりだった。

「今日はどうするの?」

「うーん、取り敢えず連絡を待つかとるかしないと何ともいえないけど、あまり長居しても迷惑だと思うから6時になったら出ようと思う。」

「あら、そんな心配はいらないよ。でも、外は寒いから気をつけてね。」

そうか、ここはペンシルバニアか。店内の温かみがそれを忘れさせていた。まだ暗くて外は何も見えなかったが、温度差で曇った窓がそれを物語っていた。わたしは、たった6日前から4000キロも離れた場所にいるのかと考えると小さな達成感を覚えた。グレイハウンドでの大陸横断は全くの地獄だ。禄にシャワーも浴びれず、同じような食事を何日も摂り、窮屈な席で昼夜を過ごす。そして時には隣の席に他の客が来ることだってある。疲れる。という言葉では形容することが決してできない試練、いや、拷問である。

そのうちEからやっと連絡が来た。

「ごめんね、昨日色々あって‥でも今からいくね。どこにいるの?」

わたしは彼女の気まぐれさと歯切れが悪い説明へ覚えた若干の苛立ちを隠しながら居場所を教えて店を後にすることにした。会計を済ませると、シフトが終わり、帰途につこうと準備をしていたあのウェイトレスが奥から顔を出して挨拶をしてくれた

「なんとかなりそう?よかった、神のご加護を。」

そう言って彼女はわたしを送り出してくれた。

外へ出ると、また冷たい空気が肌を刺した。地下鉄とバスでこの街に来たのは夜だったから、初めてその景色を目にした。家々やショッピングモールはあるにせよ所々に雪の平原が広がる片田舎のようなところであった。雪化粧をした茂みも所々に見られた。その中を一人荷物を持って道沿いを歩いて行くと程なくして反対側から白い息を吐きながら歩いて来るEを見つけた。

「おはよ。昨日はごめんね。ちょっと色々あって。でも、今日からはなんとかなりそう。」

「そっか。よかった。」

そうして2人は肩を並べ、雪の中を歩き出した。一歩一歩進むごとに今までの寒気と疲労が忘れられていくように感じた。もう少し歩けばつくから大変だろうけど頑張ってね?そう言葉を投げかけられEはわたしの手を握りしめた。日も完全に昇り、温もりを与えてくれる。これからは全てが上手くいくような予感をわたしの胸に覚えさせた。

つづく

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