途立つあなたへ

 付き合い始めてまだ間もない頃、半同棲のように過ごしていた日々。私は週末のたった二日間、あなたを実家に帰すのが寂しくて仕方なかった。
 しばらくして、仕事で一週間東京に行くと言われ、ほとんど泣きながら送り出した。
 またしばらくして、友達と三週間ほどオーストラリアに行くと言われた。完全に泣きながら、初めて会うあなたの友達にあなたを託した。
 付き合いも数年経った頃に、仕事で一ヶ月、タイに行くと言われた。仕事前、早朝の福岡空港であなたを見送り、国際線ターミナルから戻るシャトルバスの中でひとり泣いた。職場のトイレでもこっそり泣いた。
 それからもあなたは色々な場所で、色々な長さを過ごし、その度に私のもとへ帰って来てくれた。
 だから私ももう、ちょっとくらいのことでは泣かない。途立つあなたの背中を、そして帰ってくるあなたの顔を、真摯に見つめ続ける。もしも心離れて、これが最後になるとしても。

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