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裏切られてもむせび泣いても、香取慎吾は前を向く:『凪待ち』レビュー

AERAの記事を読んで気になっていたのだけど、アトロクの映画評を聴いて、もうこれは行くっきゃないな、と。アトロクの映画評がよすぎて、それにすごく引っ張られた観方になってしまったけど、でも聴いてから行けたことに満足している。そうじゃなきゃ見逃してしまうポイントがたくさんあったと思うから。

断片的に感想をまとめておく(どちらかというと、既に観た方向けかも)。

主演の香取慎吾について

・宇多丸さんも話していたけど、香取慎吾はダークな役が似合うな…と感じた(この映画の中で慎吾は、ギャンブル依存症でどんどん堕ちていく男を演じている)。物語の舞台の石巻の雰囲気にもすごく合っていた。寂しそうな怒り、諦めたような笑い、理性を失ったような目。掴みどころがなくて怖い感じもする。だけど華がある、色気がある。汚い格好をしていても、疲れていても、絶対に消えない主役感。

・彼の「でかさ」なくして、この映画はこの仕上がりにならなかったな、と思う。
大きい故の「恐ろしさ」(殴りかかるときの慎吾、この間Twitterでみた、本気で喧嘩するヒグマのことを思い出しました…)、大きい故の「情けなさ」(例えばムックみたいなモンスターとか、育ち過ぎた野菜を髣髴とさせる感じ)。

・郁夫(香取慎吾が演じているキャラクター)ってキレやすい人なんだけど、それでもなにかを押し殺して話すようなシーンが何回かあって、エネルギーの気配が画面に満ちる感じに引き込まれた。それが爆発するシーンも何度か描かれるんだけど、そのうち泣くところが特に好きだった。ああ、この人は全力で生きてるって思って(一緒に歩いてくれる人がいるということは、なんと幸せなことなんだろう)。次々と襲いかかる悲しい出来事に打ちのめされても歩き始める郁夫を見て、私も「まだ死んでない」から、なんとか生きたいと思った。

モノの存在感について

・香取慎吾が「でかい」こともそうなんだけど、モノの「硬さ」とか「重さ」とか「大きさ」とか、そういうことを感じさせるシーンが多かったように思う。

特に、小野寺さん(リリー・フランキー)の仕事(氷屋さん)の描写。あのがっちりとした感じは、命の儚さとの対比なのだろうか?

・ラストシーンも、モノが語るものに心揺さぶられた。宇多丸さんが「最後まで席を立たないで」と言っていた理由がよくわかった。

「駄目な人」について

これもきっと宇多丸さんの評を聴いたからなんだけど…ナベさん(慎吾の前の職場の競輪仲間。いじめにあって退職することになる。競輪で多額の借金を抱えていた)がすごくよかったな、と思う。

最初のシーンではフラフラ乗ってた自転車、次に出てくるシーンでは颯爽と乗りこなしていて、「わあ、ナベさん!」と思った。金属バットを捨てるところを見て、「思いつめていたけど、郁夫の声を聞いて気持ちが変わったのかな」と思った。けど…。
この映画は、悪い人/いい人って二項対立で人間を描かない。そこが恐ろしくもあり、希望でもある。

時々コミカル、について

・宇多丸さんも言ってたけど、「吐きながら謝る人」って…表現として斬新すぎだろ…(そして吐瀉物の量が多すぎてどうやって出してるのか気になった笑)。

・「かわいいっす」「かわいいっす」のシーン、間抜けで好きです。

・「お腹冷やしてねぇか?」「冷えた」みたいなシーンも、好きです。
 
その他、印象に残ったとこ。
・大事な船に「美波丸」と名付けるおじいちゃん、それだけで私は泣きそうになってしまったわ…。

・ギャンブルは怖すぎるから、やるとしても一回社会科見学で行くくらいにしておこうという決意を固くしました。

・亜弓さんの心には、いつも海があるんだなと思った。パナマのサンブラス諸島、メモメモ。

・とれたての魚介、めちゃおいしそうだったなあ…。

・小野寺さんがすごく気になるキャラクターだった。あの人はどういう心境でいたのだろう?美容院開業のシーンが何かのヒントなのか…。

・題字は、なんかもっと合う書体があったのではないか…。

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ジャニーズ関係の問題で、この映画の宣伝はあんまり東京のテレビではされてないらしい(私はテレビを捨ててしまったので、わからないのだけど、インターネットでそういう記事を読んだ)。もったいないと思う。素敵な映画だった。観てよかった。すごくおすすめ。

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