
ep.15 サッカーを愛する男。
2006年1月、僕はカメラマンとして独立した。最初に訪れたのはエジプトだった。アフリカ・ネーションズカップ。2年に一度おこなわれるアフリカの覇者を決める大会だ。
なぜわざわざこの大会に行ったのかといえば、来たるべきワールドカップに向けたプレビュー写真を撮り貯めるためだった。
日本と同じ組にアフリカのチームはいなかったけれど、それまでアフリカの常連といわれたナイジェリアやカメルーンの代わりにコートジボワール、トーゴ、ガーナ、アンゴラとサッカーの世界で言えば新興国が台頭し始めた大会だったので興味が湧いたのだ。
取材を進める中であるジャーナリストの先輩と知り合うことになった。試合後、メディアバスに乗り込んで作業をしていると日本語で声をかけられた。
「おつかれさま〜♪」
視線をあげるとそこにいたのはT樫さんだった。
「おおお、ジャンルカさんだよ(心の声)」
T樫は黎明期の日本サッカーを支えたジャーナリストだ。当時、業界についてまったく無知だった僕からすると、T樫さんはテレビに出ている有名人という印象だったから、まさかエジプトの現場でお会いして声をかけられるとは思ってもいなかった。
そのあとも記者会見場やバスで顔を合わせ会話を交わすようになった。話の中で分かったことは、T樫さんはセリエA以外にもアフリカでの取材経験が豊富で、サッカーを愛していて、誰にでも優しく接してくれる気さくな人で、家がご近所さんということだ。
僕は他の取材の関係でグループリーグの途中でエジプトを後にした。いつものようにメディアバスで一緒になったT樫さんに今日で取材を終えることを伝えた。
「なんだ〜残念だなぁ。これから面白くなってくるのに〜。落ち着いたらさ、ご飯でもいこうよ。またね♫」
そう言いながら僕より一つ手前のバス停で降りていく姿を見送ったのが、T樫さんにお会いした最後になった。その後もエジプトで取材を続けていたT樫は現地で風邪を拗らせて、帰らぬ人となってしまったのだ。
僕はT樫さんについて語るほどの付き合いではなかったけれど、今でもたまに「あのあとご飯に行ったらどんな話が聞けたのかなぁ」と思うことがある。何故そう思うのか自分でもよく分からないけれど、そう思わせる不思議な魅力こそがT樫さんだったのかなぁと今は思う。
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