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配信再リリース記念:早過ぎて遅すぎたPerfume!? ガールズシンセポップグループjellyfish TYOとは?(中編:1stアルバム「jellyfish」全曲レビュー)

【前回までのあらすじ】

 1989年の平成のスタートと共に新しい音楽の風が吹き始める中結成された女の子3人組ユニットjellyfish。早稲田大学多重録音芸術研究会にてYMO→TECHIE→TRIGGER LABEL→TRANSONICというテクノポップ〜TECHNOの流れを汲みながら、渋谷系の空気を存分に浴びて活動を続ける彼女達は、ライブ活動の末1998年に1stアルバムのリリースに至ったのでした。
 かたや90年代初頭に解凍P-MODELと共に知る人ぞ知る関西ニューウェーブ歌謡ユニット・オカノフリークの作品に衝撃を受け、新たなテクノポップ性を意識した歌謡POPSを探し始めていた筆者、TECHNOLOGY POPS π3.14は遂に運命のCDに出会うことになる・・・という話です(少々盛っていますw)。

 当時、ワタシが在住する大阪では外資系CDストアが花盛り。心斎橋のビッグステップ内にWAVE(Transonic等のジャパニーズTECHNO系たくさんありました)、すぐ近くにタワーレコード、心斎橋駅前のOPA内にHMV、心斎橋パルコ内にヴァージンメガストア、梅田には茶屋町のLOFT内にWAVE、大阪マルビル地下にタワーレコード、そしてHEPナビオ内にヴァージンメガストア・・・その他の地区にもそれぞれショップが乱立していましたが、ワタシが頻繁に通っていたのは上記の店舗でした。そこには洋楽はもちろん、邦楽POPSでも通常のメジャー流通の作品はもちろん、一般店ではなかなか見つけられないようなインディーズ流通の作品まで取り扱っておりましたので、重宝していたのです。
 そのような状況でいつものように心斎橋を1人でウロついていたワタシだったのですが(当時は連れ立つような同じ音楽趣味の仲間は周りにいなかったのです。今も似たようなものですがw)、1998年のある日、心斎橋タワーレコードの邦楽コーナーを例のごとくア行から順番に物色していると、サ行のコーナーに埋もれるように収納されていた1枚のCDを見つけました。「jellyfish」とだけ書かれた背表紙になぜか魅かれて引っ張り出したジャケットには水着の3人の女の子。大胆かつオシャレな雰囲気を纏っていましたが、帯には「みんな待ってた?ハッピー、ラブリー、超キャッチー!極上のPOPMAGICをプレゼントします。」と書かれていました。この「POPMAGIC」という単語、そして1曲目の「POPの魔法」というタイトルに「これは何かあるかも!」と思い立ちまして、そのままレジに持っていきました(当時は全て試聴コーナーにあるわけではないので、発掘するような作品はこうした暴力的な購入方法しかなかったわけですw)

 そのまま自宅に帰りまずはCDを開封しクレジット情報を確認するのがワタシのルーティンなのですが、当然のように知らない作編曲家が並ぶ中(アトム&増山の例のエピソードと合致するのはもう少し後の話)、注目したのはタイトルチューンの「POPの魔法」がヴォーカルの石崎智子(トモコ)が作詞作曲のみならず編曲も手掛けていたところです。てっきりヴォーカルトリオで作編曲は他人任せとばかり思っていたのですが、このクレジットを見てグッとアーティストとして見ることができるようになりました。
 続いて4曲目の「バンビーナ」の作編曲に本多伸光の名前が・・・
「あ、トロイの木馬の人だ!」
 またエンジニアのクレジットにアトム&増山の他に沢田朋伯の名前を発見・・・
「うわ、Mind Designの人!」
 そしてジャケットデザインと写真撮影にKEN KATSUMATAのクレジットが・・・
「あれ?ARCH TYPEの人じゃないの?何やってるの?w」
というように次々とTRIGGER〜TransonicのジャパニーズTECHNO黎明期のアーティスト達の名前が並んでいるじゃありませんか。ここで彼女達が只者ではないアーティストグループであったことを認識したわけです(ついでにTRIGGER〜Transonicがいかに早稲田録芸研に牛耳られていたのかも理解できましたw)。

 という出会いがございまして、いよいよCDプレイヤーにCDをスロットインしまして、聴いてみたわけです。ということで、ここからはいよいよ壮大な前置きの末の全曲レビューを始めさせていただきます。なお、このアルバムは「HYPER POP REVUE!」「OUR TOP SECRETS」「SHORT TRIP TO THE HEAVEN」の3部構成に分かれた全15曲収録です。それぞれCMぽいジングルを挟むというコンセプチュアルな作品でもあります。お楽しみ下さい。

◆「jellyfish」

 (1998.5.1:happy new ear)
 http://reryo.blog98.fc2.com/blog-entry-431.html

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produced by jellyfish [石崎智子+内田三詠+山川佐智子]
イシガキアトム(2,8)・増山龍太(5,10,14)・清水太郎(7)
recorded and mixed by 増山龍太・イシガキアトム・沢田朋伯・清水太郎

【HYPER POP REVUE!】

1.「POPの魔法」

 作詞・作曲・編曲:石崎智子

 本作のリードチューンにしてオープニングナンバー。いきなりの昇降するアルペジオで一気に引き込まれます。リズムはチープなハウス調ですがシンセサイザーの音色がいずれもチープながらも軽快で肌触りの良さが主張されていて、程よいアンニュイさを演出しています。当初はものすごくエレクトーン!な印象だったのですが、上げ過ぎず下げ過ぎずの絶妙なバランスのメロディラインという、ある種のノリきれなさがこの楽曲の魅力ではないかと思います。ポイントは意外なBメロの入り方と、2周目のAメロでメロディをあえて抜きながらアルペジオをフィーチャーしてくる部分ですね。このニクいセンスにいろいろと確信を持つに至りました。

2.「不道徳なカレ」

 作詞:jellyfish 作曲・編曲:イシガキアトム

 キコココ、キコココのクリックが松武秀樹イズムを感じさせるスタートのイシガキアトムプロデュース曲。パヤパヤッパ♪の合いの手も可愛らしいのですが、イントロの渋いボイスも魅力です。メロディ自体は少し地味目なのですが、Aメロのシンセのグニャグニャっとした音色が新鮮で、随所に飛び交うビーム系シンセも含めて確かなセンスを感じさせます。ポイントは後半に仕掛けられたタメの白玉。この部分と終わり近くに突然コードワークを変化させてくる部分です。

3.「ペパーミント・ランデブー」

 作詞・作曲・編曲:石崎智子

 しっとりした美メロとロータリーを効かせたオルガンサウンドと落ち着いたエレピで聴かせるミディアムナンバー。イントロをディケイの短いサイン波でトボトボとしたシンセフレーズなのが、より湿った空気感を助長させて雰囲気づくりもバッチリです。トモコさん本人は初期ピチカートの雰囲気を出したかったとおっしゃっていましたが、この湿度の高さはなかなか本家でも出せていなかったと思いますね。

4.「バンビーナ」

 作詞:内田三詠 作曲・編曲:本多伸光 コーラス編曲:石崎智子

 当初から期待感のあった「トロイの木馬」出身、本多伸光作編曲のテクノポップチューン。いきなりレトロなTVゲームの中の宇宙に飛んでいくかのような上昇&下降音にザップ音、相変わらずのチープなFMシンセ音の白玉パッドが素晴らしいです。そしてこの楽曲ではjellyfishの魅力の1つである、限りなく素人チックな合いの手&コーラスワークが堪能できます。この雰囲気が実に良いのです。どこまでも軽さを追求したかのようなリズム&サウンドには、コーラスが上手いとバランスを欠いてしまいますので、ウィスパーボイス系(Pizzicato Fiveの佐々木麻美子やMannaの梶原もとこ系列)のトモコヴォーカルには、このコーラスでないといけないと思います。

5.「天使のほほえみ [Devilfish Mix]」

 作詞:内田三詠 作曲:石崎智子 編曲:増山龍太
 guitars:増田秀生

 石崎デモを増山龍太がリアレンジしたという本作の中でもロック色が強い楽曲。とは言ってもリズムがKrafewerkにフィルターでグチョグチョした音ですし、2拍目と4拍目がYMO「BGM」のアレっぽいので基盤はテクノポップです。小節の終わりに来るロングリバーブがかけられたアタック音が良いですね。増田秀生のギターはガチャガチャと汚しにかかっていますが、ドタバタフィルイン後のギターソロ以降はガンガン弾きまくっているしベースラインも動き回り、これだけでも十分盛り上がるので、非常にライブ向きではないでしょうか。楽曲に起承転結が感じられるのも一種の才能ではないかと思います。

6.「jellyfishのテーマ〜ご機嫌いかが?」

 作詞:jellyfish 作曲・編曲:石崎智子

 ジングルその1。サウンドは本チャンの15曲に置いておくとして、こうした小ネタを挟んでくるところも何とも可愛らしいではありませんか。この抑え切れない手作り感、こうした部分も彼女達の魅力ではないかと。この小ネタ、グループで考えたのでしょうか?神輿、担ぎたいですw

【OUR TOP SECRETS】

7.「身の程知らずの恋」

 作詞・作曲・編曲:清水太郎

 ここから第2部の開幕です。ゆったり海に揺られるようなある意味ジェリーフィッシュ的なR&Bミディアムナンバー。オシャレなコードワークや後半に進むにしたがって徐々に主張し始めるピアノフレーズなどから、R&BというよりはAOR〜シティポップ風味を醸し出していて、もう少しLo-Fiなサウンドを施せば、Vaporwave的な雰囲気にも変化できる可能性があります。楽曲自体に抑揚は少ないのですが、これも味といえば味。アンニュイさを前面に押し出した真夏の15時頃に似合う感じです。

8.「恋なんてくだらない [Album Version]」

 作詞:内田三詠 作曲・編曲:イシガキアトム

 ライブでも踊れる四つ打ちハウス系ダンサブルナンバー。これはミエさんフィーチャー楽曲でしょうか? シンセベースのツボを押さえたフレーズ、サビ前の転調具合、サビにおける「恋なんてくだらない〜♪」のキャッチーなボコーダーコーラス。音を詰め込んでも良いタイプの楽曲ながらそれほど音数が多くもなく音の音の間に空間が生まれていることで、繊細でクールなボーカルが生きていると思います。またこの楽曲のポイントは明らかにPizzicatoオマージュである部分でしょう。タイトルの文言の選び方もそうですが、歌詞に「それは神の御業」と入っていますしねw

9.「淡水魚」

 作詞・作曲・編曲:石崎智子

 ますますアンニュイ度に拍車がかかるボッサフレンチバラード。トモコウィスパーの独壇場といったところでしょうか。トモコさんご本人のコメントでは小池玉緒の名曲「鏡の中の十月」から着想を得ているということですが、テクノらしさはそれほどないものの、このゆったりフレンチな雰囲気はテクノポップ好きにも受け入れられる部分ではないかと思われます。白玉パッドで埋めながらあくまで地味に展開していきますが、その中でもフルート音色を模したシンセソロが良いアクセントとなっています。

10.「jellyfishのテーマ〜海辺のヴァカンス」

 作詞:内田三詠 作曲:石崎智子 編曲:jellyfish
 ambient mix:増山龍太 ukulele:内田三詠・山川佐智子

 アンニュイな第2部を締めるのは、まさかのアンビエントmix。そしていきなりの「まるで、クラゲみたいだ・・・」ボイスには、聴いた当初も苦笑いしてしまいましたが、これは増山さん本人が若気の至りで入れてしまったそうで、ここにもYMOカルトQで見せたキャラクターが垣間見えるようです。しかしそのmixは様々な仕掛けもされていて、普通に南国趣味のウクレレバージョンだったのに大胆にremixするもんだなあと好印象であったことを思い出します。ところでミエさんは本当にPizzicato Fiveが好きだったんだなあと「海辺のヴァカンス」の「ヴァ」を見て再認識した次第です。ウクレレにはフェアチャイルドの「UKULELE」を思い出しましたがw

【SHORT TRIP TO THE HEAVEN】

11.「tête-à-tête」

 作詞・作曲・編曲:石崎智子

 jellyfish流のキュートなサマーソング。まるでパジャマトークみたいな可愛らしさをこの楽曲からは感じるわけですが、ヴォーカルへのリバーブのかかり具合が程よくドリーミーで、小品ながら癒し度は相当なものです。トモコさんによれば、学生時代のトラックをそのまま使用しているということですので、納得の手作り感ではありますが、そのトラックから滲み出る若さもこの楽曲のキュートさを如実に表現しているものと思われます。

12.「ピンクのフラミンゴちゃん」

 作詞:内田三詠 作曲:永利裕志 編曲:永利裕志・石崎智子

 本作では少々異色な直球のアイドル歌謡にチャレンジしています。これはアレですよ、どう考えてもアレです。うしろ指さされ組w これはワタシの中では完全にサチコ楽曲なわけですが(勝手なイメージ)、実は3人代わる代わるボーカルを取り合っています。この妙な南国風味、あからさまなアゴゴのリズムがとてもコミカルでニヤついてしまいます。サビの始めの「ピ・ン・ク、フラミンゴ〜♪」(ここでなぜかお尻を振りながら横揺れで踊り出す←勝手なイメージですw)のリズム感が素晴らしいです。このような楽曲を何のてらいもなく演じることができるのも、実は芸達者な御三方の成せる技ではないでしょうか。

13.「恋するジェリーフィッシュ」

 作詞・作曲・編曲:石崎智子

 ある意味テーマ曲とも言えるキューティーテクノポップチューン。Aメロのピコピコシーケンスから続くBメロのサイン波フレーズの流れが美しいです。そして相変わらずの音の隙間っぷりがエレガントで、エレクトーンで作曲をしていた時代の名残というか初期衝動をそのまま瑞々しく受け継いだ青春のメロディラインが眩しいです。盛り上がった歌終わりのアウトロで転調させて哀愁と可愛らしさが同居してエンディングに着地する構成もセンスを感じますね。心地よい楽曲です。

14.「POPの魔法 [Repopped by MICROHEAVEN]」

 作詞・作曲:石崎智子 編曲:増山龍太 コーラス編曲:三井ゆきこ
 guitars:増田秀生 bass:吉岡勲 keyboard:松本浩一
 chorus:三井ゆきこ

 リードチューンのリアレンジ版ですが、実はこのバージョンがオリジナルになるはずだったそうです。しかしこれは余りにやり過ぎでしょうw テルミンはグイングインいわせていますし(余りにやりたい放題で笑っちゃいますw)、曲調はゆったりボッサバラードですし、普通にダブバージョンですし、サウンド面での情報量はこれまで以上に多いです。ポイントは三井ゆきこのコーラスアレンジ。工夫されたコードワークを支える(特にサビの)コーラスの雰囲気作りがなければ、もっとアヴァンギャルドであったでしょうし、あくまで「POPの魔法」として成立しているのはこのコーラスアレンジあってこそ。

15.「jellyfishのテーマ〜夢で会いましょう」

 作詞:内田三詠 作曲・編曲:石崎智子

 そしてこの真のテーマ曲でエンディングを迎えるわけなのですが、これまでもジングルで聴いてきたお馴染みのイントロ。この何とも言えないエレクトーン感。ものすごくノスタルジックです。本人達が大好きだった渋谷系の名残ということですが、渋谷系以前の昔々のリズムボックス付きのエレクトーンで弾いた時のような懐かしさを感じるのです。かく言うワタシも実は幼少の頃はエレクトーンをかじっていましたので、その頃の雰囲気を思い出してしまいます。昇級祝いに銀河鉄道999の模型を親からプレゼントしてもらったあの頃を(どうでも良い話w)。その模型を買ってもらったのが当時秋田市に在住していた関係で、「協働社」というデパートだったのですが、そこで流れていた店内BGMを思い出してしまうのです。となると、思い出すのが最近アナログレコードで再発された2007年リリースのBEST MUSIC 「MUSIC FOR SUPERMARKET」というアルバムなのですが、まさにあの感じのテイストを既に表現していて、さもすればVaporwaveの先取り感もあるという、興味深い楽曲と言えるでしょう。


 しかしこの懐かしさを90年代末期の当時、沖縄アクターズスクール全盛期の当時、ヴィジュアル系バンド全盛時の当時に、知らず知らずのうちに醸し出していたグループはやはり稀有であったと思うのです。このアルバムはまだまだアマチュア上がりで粗さの目立つ楽曲も散見されているのかもしれませんが、そこには宅録を始めた頃の初期衝動が高純度で表現されています。そのノスタルジーが、本作に惹きつけられる要因の1つなのかもしれません。


というわけで、1stの全曲レビューはここまでです。参考になるかはわかりませんが、彼女達の雄姿は是非冒頭の5分間メドレーの動画で確認してみてください。ということで、そのまま2ndアルバムの全曲レビューの後編へと続きます。(どれだけの方が読まれているかわかりませんが)お楽しみに!

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