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Member Story [タカラヅカ式 チーム・ビルディング本編]

<このnoteはTPOメンバーの星みずほ、元タカラジェンヌが書いています。>

前説はいかがでしたか。

いよいよここから本編です。
「タカラヅカ式 チーム・ビルディング」10の要素をご紹介しましょう。

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1.共通の目標
「今回の作品を最高のものにする」と毎回稽古初日から
生徒全員が毎回、認識。
作品ごとに必ず「集合日」があり全員で台本の読み合わせ。
その瞬間から全員が「この作品をつくる」という明確な目標を持って稽古に入ります。

2.大家族感
入団してから退団するまで
「右も左もわからない初舞台生から中堅・ベテラン上級生になるまで、
   同じ釜の飯を食う」。
上級生・同期・下級生、
父であり母であり、
兄であり姉であり、
弟であり妹であり。
大家族のような感覚があります。
よく厳しさばかりが取りざたされますが、叱られるだけでなく
褒めてもらったり、一緒に悔しがったり、喜んでくれる、
そういうあたたかさがあります。

3.伝統的な上下左右の序列
上下関係+同期、全方向で自分の立ち位置が明確。
上下関係=入った年次順、同期生=成績順、という明確な序列。
一期上は必ず一期下の面倒を見る、という構図が音楽学校時代から明確。
この序列ゆえ、情報伝達が非常に早く正確
舞台は生死にも関わるような怪我や事故が時として起こります。
この情報伝達の早さ・正確さによって、そういった怪我や事故が最小限に抑えられています。

音楽学校卒業式

4.礼儀・マナー
親しき仲にも礼儀あり、心が卑しいとどんなに隠しても
舞台に立った時にバレます。
舞台上で絡むすべてのちょっとしたことにも、関係性は透けてみえるもの。
全員がその役になりきるには、お互いが「一所懸命」であること、
お互いを思いやることが不可欠。
自分だけが良い評価をもらおうとすると
その卑しさで作品をぶち壊してしまう
のです。

5.組子全員が弱みと強みを共有
舞台を作るときは真剣勝負、強さ・弱さは隠しても隠しきれません。
お互いの強さ・弱さは全員が知っています。
稽古場はさながら戦場です。
できないことに対して演出家も振付家も作曲家も容赦しません。
何度でもやり直しをさせ、時には立ち位置を入れ替えたり、
生徒を変更したりすることも。
強みは誰もがみてわかります、大切なのは弱さです。

「●●さんはダンスは得意だが、歌は苦手」
「こういう役柄は合わないのだな・・」

一人一人がそれぞれの弱み・苦手なことと、真正面から向き合う強さ。
弱みをも腹をくくって周りと分かち合えば、
怖いものがなくなります。

6.ユーモアと笑い
あまり知られていない宝塚のもうひとつの顔。
実は関西が拠点、どんなに苦しく辛い時にも
「笑える」何かを貪欲に探すのが宝塚です。

それは震災の時でさえも。
ちょっとしたユーモアで場の空気は和み、
可愛がってもらえる人間になることを学びました。
笑いは辛さを軽減し、生きる力をもたらします。

「人を笑わせることができる役者は、人を泣かせることができる」

演出家や上級生からよくかけられた言葉です。
心の垣根を外し、自分自身をこだわりなくまっさらにできる人ほど、
人の心に訴えることができるからです。

●舞台_どんな日も演じる

7.真摯な姿勢
長い宝塚の歴史には悲しい事故も。
かつて舞台のセリと衣装が絡む事故で亡くなられた
上級生がいらっしゃいます。
在団中に当時いらした上級生からもお話を伺いました。
また私自身の在団中にも事故があり、上級生がセリから落ちて
大怪我をしたことも。
華やかな舞台の裏では、文字通り身体を張った本気があります。
生半可な気持ちでは舞台に立てません。

それでも長い間、相当な公演数、生徒が無事に公演できている背景には、
スタッフさん全員のあたたかくも厳しい、
プロフェッショナルなお仕事があります。

●裏方さんあっての舞台2

少しでも危険なことをしそうになると、大道具さんに怒鳴られます。
立ち入ってはいけない舞台の危険な場所に間違えて立ち入ったり、
舞台装置に真面目な気持ちで向き合わず、惰性で載ったり、
舞台上に何かを落とした・忘れた、次の場面に残した、など、
どんな些細なことにも気を配ってくれるスタッフさんのおかげで、
夢の舞台はつくられています。

「役者は親の死に目に会えぬと思え」とは有名な言葉。
宝塚も然り。
母親を初日前日に亡くした生徒でも毎日
「泣いてる暇があったらお稽古だよ」
というセリフで皆を励ます役を演じなければならなかったり、
父親を亡くしたばかりの生徒が、
底抜けに明るい三枚目役を毎日演じなければならない。

組子(同じ組に所属する生徒全員のこと)はみんな口に出さずともわかっています。
●●さんは今辛い時だ、何かあったらすぐに支えられるように、と。

同期生は直接言葉をかけ励まし、
上級生下級生は静かにあたたかく見守ります。
もうひとつの家族だからです。

●裏方さんあっての舞台

8.謙虚さ
役者は稽古場でも舞台でも力量をごまかせません。
歌い、踊り、芝居をすれば一目瞭然だからです。
できない自分を素直に認め、教えを請い努力する姿勢
トップスターも初舞台生も等しく、
自分が、いつ、誰に、
支えてもらうことになるかわからないからです。

自分が芸事ができるからと言って威張っていては、
独り舞台しかできません。
気に食わないあの人が、嫌いなあの人が、
明日から自分を振り付けでリフト(持ち上げる)するかもしれない、
自分が思わぬ怪我や病気をした時、
その人が代役をつとめてくれるかもしれない・・・
誰にいつ支えてもらうかわからないからこそ、
普段からの謙虚さは大切です。

9.本気のぶつかり合い
どんなことがあっても初日の幕は開いてしまうという厳しさ。
脚本や演出、振付や音楽が、万が一、急遽直前に変わっても、
舞台に立ちお客様の前に出るのは生徒のみ。
幕が開いたら、言い訳はできません。

「さっきセリフが変わったばかりなのです」
「振り付けが急遽変更になったのです」
「私は代役で突然この役をやるのです」

そんなことを発表して言い訳する場は一切与えてもらえません。

だからこそ、どんなことがあろうともお客様のために、
作品を完成させるために、
本気のぶつかり合いが生まれます。

一瞬の気の緩みや、躊躇が、
振り付けや殺陣などの立ち回りの時、大怪我に繋がるため、
問題があれば、すぐに
「ここがうまくいかない」「暗転の後ぶつかりそうになる、危険だ」
「どちらかが譲らないと危ない」と声をあげ、
本気で解決に取り組む体制ができています。

退団公演千秋楽


10.宝塚の生徒である誇り

「宝塚」の生徒であることへの誇り。
ここにいる自分、同じ場所にいる仲間、それこそが誇り。
お互いを尊重し、組や年次を超えて
大きな「宝塚歌劇団」という枠の中の大家族、
歴史の一端を背負っているという気持ちがあるからこそ、
どこへ行っても、自分の大家族に恥をかかせたくない、
宝塚歌劇団を好きになって欲しい、
とOGも現役生徒も、同じように思うのです。

冬物語

宝塚にいた頃「チームビルディング」という言葉なんて、
知りませんでした。

でも、退団して何年も経った今、
あの当時にやってきたことは紛れもなく
「チームビルディング」だったのだとわかります。

100年超の歴史と伝統の中で、誰ともなしに積み上げられた手法。
今もなお、私のもうひとつの大家族は大切な宝物です。

●宝塚ベルばら銅像



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