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『チェンジ・ザ・ルール!』~ITベンダ編~ テクノロジーではなく、バリューを売れ!

『チェンジ・ザ・ルール!』エリヤフ・ゴールドラット 著

全体最適を目指したテクノロジーの導入を描いた小説、『チェンジ・ザ・ルール!』(原作名:Necessary But Not Sufficient)。様々な立場からシステム導入の難しさが描かれている。

今回は、主人公サイドであるITベンダの視点でシステム導入を行う場合に心がけたいことをまとめようと思う。本書以外で学んだ内容と共通する部分も多く、納得しながら読み進めることができた。

膨張する要求を整理せよ!

本書は全6章から構成される小説であるが、その第一章のタイトルは「バグ」だ

ERP(Enterprize Resource Planning:統合業務パッケージ)システム導入を事業とする主人公たちは、プロジェクトの遅延や人員の不足に悩んでいた。その原因となっていたのが、膨張する顧客要求と、それにより複雑化するシステムだった。

顧客ニーズに応えるために機能拡張を行うというのは、ITベンダの対応として一見正しいように思える。しかし、良かれと思ったこの行動が、皮肉にもITベンダ自身の首を絞める結果となってしまっていたのだ。

システムに対する機能を多くすればするほど、システムの内容は複雑になる。結果として、バグの発生する遠因にもなる。また、新しい機能追加を承認するための判断時間も必要となってしまう。

顧客からの要求を安易に受け付けず、顧客に要求を整理してもらうことが必要なのだろう。要求整理が不十分なままシステムを実装した場合、多機能ではあるもののユーザーフレンドリーでない高額システムが完成するのは目に見えている。

もちろん要求定義の失敗はユーザー側に責任がある。だからといって、ITベンダが要求整理を提案をしなくてよいということにはならない。ましてや、目先の売上欲しさに機能拡張を推進するのは愚か、ということなのだろう。

システム導入の前には、プロセス標準化が必要。これはベンダとユーザーの両方に共通して求められる認識だ。

テクノロジーではなくバリューを売れ!

さて、本書では繰り返し登場する言葉がいくつかある。そのうちの一つが、「テクノロジーではなくバリューを売ることへの転換」だ。これは間違いなく本書の重要テーマだろう。

主人公たちのITベンダ会社は、主要ユーザー企業から「御社のERPを導入することでどれだけ利益が上げられるのか」と問われる。それによって、既存の営業文句だけでは顧客への説明が不十分であったことに気づく。

それまではERPにはどのような機能があるのか、どれだけ優れたアルゴリズムが使われているのかといった説明を多用していた。しかし、顧客目線に立った際、そうした技術的な説明は必ずしも大きな魅力になるとは限らない。

システムを導入するうえで最も大切なのは、顧客にどのような価値を提供できるか。顧客の利益向上に貢献できるかどうか。そして、利益を測るための指標(KPI)の改善につながるかどうかだ。

「すべての会社の目的は共通している。お金を儲けることだけが唯一の目標(ザ・ゴール)だ。」という『ザ・ゴール』の教えがここに登場する。そして、理論を知ることと活用することは別であることを思い知らされた。

すなわちITベンダ会社がシステム導入を進めるとき、それが顧客の利益向上に貢献するものかどうかということを意識しなければならない。テクノロジは目標達成の手段であり、決してそれ自体が目的となってはいけないのだ。

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