箱庭ゲームの愛でられデザイン

インタラクションの弱いゲームが主流になってきている昨今、「愛でる」はとても重要な感情だと考えています。
特に箱庭ゲームにおいては、この「愛でる」を重視してシステムデザインからコンポーネントまで考えた方が良いだろう。
という主旨のnoteです。

愛でるとは

め・でる【愛でる】
1.美しさを味わい感動する。
2.いつくしみ、愛する。かわいがる。
3.感心する。ほめる。
(コトバンクより引用)

ボードゲームにおいては、その見た目と能力合わせて「愛でる」に繋がると考えています。
そのためプレイヤーに愛でられるための条件を下記に列挙します。

・プレイヤーの意思で獲得する
・コスト(機会、資源)を支払い獲得する
・ゲーム中にプレイヤーへ恩恵をもたらす
・ゲーム中に何度も見る(参照する)
・特別感(他者との差別化を図れる)
・失われない
・見やすい場所(手元、個人ボード)にある
・見やすい形状をしている(立体物である)
・華やかである(イラスト・アートが綺麗)
・フレーバーがある

もちろんこれら全てを併せ持つ必要はありません。いくつか抜けがあっても大丈夫です。
と、ここまでで本noteは9割方終了なのですが、一つずつ取り上げていきましょう。

解説

・プレイヤーの意思で獲得する

プレイヤーはランダムで配られるものより、自身で選択することに快感を見出し、また選択したものに愛着を持ちます。
ランダム配布ではない、ドラフトやマリガンの利点の一つはここにあります。
※ドラフトにおけるカットや戦略性の付与等の利点はもちろんのこととして

ゲーム中においてもランダムに与えるのではなく「自分の意思で、自分の箱庭に迎え入れた」という感覚を得られることが重要だと考えます。

・コスト(機会、資源)を支払い獲得する

人は損を嫌う生き物です。
そのため自分がコストを支払って獲得したものに対しては、そのコスト分またはそれ以上の働きを求めます。期待すると言うやつですね。
「愛でる」は、その期待に応えた時に大きく発生します。損を回避出来たこと、また自分の選択が正しかったこと。二重にプレイヤーへ喜びを与えてくれます。
そのため無料で手に取らせるのではなく、あえてコストを支払わせて獲得させる必要があります。
このコストは具体的に言えば8金で買ったとか、10手番しか無いゲームで1手番使って獲得したとか。そんな感じです。

・ゲーム中にプレイヤーへ恩恵をもたらす

これは前項とも繋がる話なのですが、自分の箱庭において目的(ゲームの勝利)のために働いてくれる姿は愛おしいですよね。
毎ターン1金くれたり、コストを安くしてくれたり、手番を圧縮してくれたり。
とは言っても、ほとんどの場合ゲーム中に獲得したものが全く無意味であることは無く、この条件は自然とクリアされるものだと思います。
あえて条件を追加するのであれば「ゲーム中に」という部分です。
「ゲーム終了時に勝利点をもたらす」よりも
「ゲーム中に1金をもたらす」のが、愛でるに繋がってくれると考えています。
それは勝利点自体が拡大再生産等の快楽にはなりにくいこと、もう一つはこの後の項目で述べる参照の頻度です。

・ゲーム中に何度も見る(参照する)

ゲーム中プレイヤーは多くの情報に晒されています。
全ての盤面情報を均等に取得することは困難であり、その時々で必要な情報のみに注視します。
なので必要の無い情報は見なくなり頭の中から追い出されてしまうわけですね。
「ゲーム終了時に10点をもたらす」はゲーム終了時に参照すれば良いわけで、ゲーム中に参照する必要は無くなってしまいます。
単純接触効果に近いものがあり、何回も注視させることでより愛着を持たせることが出来ます。
また基本的に箱庭内を参照する場合は、恩恵をもたらしてくれるタイミングと重なるため「何度も見る=何回も恩恵をもたらしてくれる」ともなります。

・特別感(他者との差別化を図れる)

「自分だけの箱庭」を演出するためには他者との差別化を図る必要があります。
紙ペンゲームのように、全員同じ形のタイルを与えられるけれど配置は自由。といった差別化の方法もありますが、やはり魅力的なのはユニークであることですね。
ユニークな効果、ユニークなイラスト。
それによる他者の箱庭とは全く異なる様相。
これらはやはりプレイヤーの快感が強くなると思います。

・失われない

これは当たり前のように感じるかもしれませんが、
・コストとして支払ったりしない
・他者に破壊されない
の2点が重要です。
例えばニューヨークズーでは、動物木駒が最終的に失われてしまう点で、やや愛でにくいなと考えています。
また大事であればある程、破壊された時のストレスも大きくなるため、他者に破壊される可能性のあるゲームでは愛でにくくなると考えます。破壊を受けた時のことを想定して、予めストレスを回避しておく防衛機構ですね。

・見やすい場所(手元、個人ボード)にある

参照しやすい。と同じですね。
手元に無いと特別感が損なわれるやすい部分もあるかと思います。
またゲームの性質上、メインボードを他者と共有する場合は何かしらのインタラクションが発生することが多く(陣取りやエリアマジョリティ等)、そもそも箱庭自体が手元で行われるシステムです。
(メインボード上で各プレイヤーが自分の区画を持つ箱庭ゲームも楽しそうですね。既にあるかもしれませんが)

・見やすい形状をしている(立体物である)

フィギュアが所有欲を満たしてくれることに関して優秀なのは説明不要でしょう。
これもまた、参照しやすいと繋がる話ですね。

・華やかである(イラスト・アートが綺麗)

対して、カードやタイルの場合はそのイラスト・アートが華やかだと所有欲が増すと考えています。
可愛い・綺麗・カッコいい・オシャレ。これらはそれ単体で「愛でる」を誘発します。

・フレーバーがある

フレーバーがあれば、自分の箱庭に物語が発生します。
よくある「ゲームの待ち時間にフレーバーを読むのが楽しい」というのも、プレイヤーは自分が選択した結果手元に集まった物語性に思いを馳せているわけです。
もちろんシステム自体やアイコン、イラスト、コンポートにもフレーバーは付与されているので必ずしも文章である必要はありません。
「自分が作ったのはどんな背景のある箱庭なんだろうか」という感情へ、上手く導くことが出来るかが重要なのです。

まとめ

ここまで特徴を上げましたが、その殆どを網羅しているゲームがウィングスパンです。
その素晴らしいアートだけでなく、そのアート自体の参照頻度やプレイヤーへの恩恵、芳醇なフレーバー。
ウィングスパンはエンジンビルド、カードコンボというシステム面の魅力だけでなく「愛でる」に特化した箱庭ゲームであると思います。

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