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ヘクスマップのインタラクションについて

この記事はBoard Game Design Advent Calendar 2024 の1日目の記事として書かれました。

こんにちは。戸塚中央と申します。
今回はヘクスマップに関しての記事を書こうと思います。
ヘクスマップとは六角形のマスが敷き詰められたマップです。多くのボードゲームで取り入れられていますから、この記事を読んでらっしゃる方ならどなたも一度は見たことがあるかと思います。
本noteではこのヘクスマップおよび平面充填系のマップで発生するインタラクションについて、いくつかの項目に分類し、ゲーム制作に新たな観点を導入することを目的としています。

ヘッダー画像はみんなのフォトギャラリーから

インタラクションについて

ボードゲームにおいてインタラクションとは「他者との相互作用」と訳されます。改めて説明する必要は無いかもしれませんね。
本noteでは、インタラクションが強い・濃いという場合「勝利に関して他者の干渉による影響度が大きい」ことを指します。弱い・薄いという場合はその逆です。

専有と共有

まずヘクスマップにおけるインタラクションとしては、専有と共有という分け方があります。そのマスを1人が所有するのか、相乗り出来るかです。
さらに専有と共有の中でも、それが永続的なのか一時的なのかで分類することが可能です。

永続的な専有

永続的な専有とは、1つのマスを所有できるプレイヤーは1人であり、かつゲーム終了時まで所有権が移らない、という状態です。
ただこれは必ずしもゲーム終了時ではなく、ラウンド終了時、時代終了時ということもあります。この期間はゲームルール側から設定されており、プレイヤーの意図は介在しません。

ボードゲームにおいてはそのプレイヤーの駒やタイルがマスに存在することで表現されます。
所有を示すために、何らかプレイヤーの分身となるものがマス上に置かれる形ですね。
多くの場合これらは建設アクションによって処理されます。
テラミスティカやガイアプロジェクト、クランズオブカレドニア、テラフォーミングマーズ等のゲームが該当します。

既に駒が置いてあるマスには建設出来ない

そのマスに建設したら以降奪われることは無いため、早取りの要素を持ちます。先に置いたもの勝ちのインタラクションです。
ゲーム中により多くのマスを確保することを目的とした「陣取り」として搭載されることが多いメカニクスです。

また陣取り(早取り)とは異なるインタラクションとしてエリアマジョリティも存在します。

駒を一個置いた瞬間にそのマスの所有権が獲得出来る早取りに対して、エリアマジョリティは駒を置いた瞬間には所有権を獲得出来ません。
エリアマジョリティではその後の決算において「そのマスに最も多く駒を置いていたプレイヤー」が所有権を獲得します。
ただし2位以下も勝利点を獲得出来ることがあるため、その場合所有権を一部分割していると考えることが出来ます。

そのマス(エリア)に最も多くの駒を置いたプレイヤーが所有権を獲得する

エリアマジョリティでは置くタイミングと所有権獲得のタイミングにタイムラグがあり、このタイムラグを用いて行われるのがプレイヤー間における上げ競りです。

上げ競りとはどういうことなのか、分かりやすいように1建物=1金と表現してみます。

まず陣取り(早取り)ではどのマスも全て1金で買えます
つまり全ての商品が1金で買えるオークションです。
そのためいくつか商品がある中で「誰が最初にその商品を買うか」を競い、最終的に買った商品の多さを比べるのが陣取りです。

対して、エリアマジョリティではマスの値段は決まっておらず、その価値(勝利点)もバラバラです。
そのマスを何金で買うのか、決算までの時間を使って皆で競りを行っています。
価値の低い商品を5金で買うこともあれば、価値の高い商品を3金で買えることもあります。その値段は他プレイヤーの動向によりどんどん上がっていきます。プレイヤー間で各商品の値付けを行い、最終的により価値の高い商品を競り落とした人が勝つのがエリアマジョリティなのです。

陣取りとエリアマジョリティ、混同されることがあるメカニクスなのですが、それは建物をマスに建設することでマスの所有権を獲得するという共通の要素を持つためです。
さらに混同しやすい理由として、実はエリアマジョリティと陣取りの合わせ技も存在します。

この場合、エリアがいくつかのマスに分かれており、決算時にマスの確保数でマジョリティ争いをします。
ただこれはエリアマジョリティの一種であり「競りに使用出来る総金額(マス数)に上限があり、青天井で値付けが出来ない」という形の上げ競りとなります。

ということで2つのメカニクスの差をまとめると
陣取り:1金の商品をより多く獲得した人が勝ち
エリアマジョリティ:価値の異なる商品を競り落とし、より高価値の商品を獲得した人が勝ち

となります

永続的な共有

永続的な共有とは、1つのマスを所有できるプレイヤーが複数おり、かつゲーム終了時まで所有権が移らない、という状態です。
1つのマスに対して2人以上が建設し、各プレイヤーが同等の権利を得られます。この点でエリアマジョリティとは異なります。

一つのマスに複数人が建設出来、全員が同等の権利を得られる

この場合早取りの要素は無くなり、インタラクションも弱まります
そもそもメインマップは他プレイヤーとのインタラクションを生み出すために実装されることが多く、共有だとそのインタラクションが希薄になるため、実装されているゲームは少ないように思います。
フェルト作のボラボラはヘクスマップでは無いものの、複数のプレイヤーが制限なく1つのマスに駒を置くことが出来ます。もちろんこのゲームにおいてメインマップでのインタラクションは希薄です。

一時的な専有

続いて一時的な専有の場合、1つのマスを所有できるプレイヤーは1人であるが、ゲーム中にその所有権を失ったり移ることがある、という状態です。
多くの場合、これらは主に移動アクション、そして戦闘アクションとして処理されます。永続的と異なる点はプレイヤーの意図により発生することです。マップ上を駒が移動することで、そのマスの所有権を一時的に示し、再度の移動、または戦闘によってマスの所有権が移行します。

1つのマスに入れるのは1人だけのため、移動=戦闘として処理されることがあります。
つまり既に他プレイヤーがいるマスに移動したら即座に戦闘を行い、敗北した方はそのマスから去る。そのマスにいれるのは常に1人だけ、という形です。
大鎌戦役がこれに該当します。

またいくつかのウォーゲームやフィギュアゲームでは、移動=戦闘ではなく「自マスから他マスへ攻撃」という処理を行います。
1つのマスに入れるのは1人だけなのは同じですが、移動によって戦闘が誘発されるのでなく、自身の駒(ユニット)がいるマスから他のマスへ攻撃する、という形です。

他にもエルドラドを探してのように、戦闘処理が無く、移動のみのゲームもあります。これは単に「既に他プレイヤーが入ってるマスには入れない」という形です。

一時的な共有

一時的な共有の場合、1つのマスを所有できるプレイヤーが複数おり、ゲーム中にその所有権を失ったり移ることがある、という状態です。
また共有から専有に移行するゲームもあり、その場合「移動」と「戦闘」が異なる処理として扱われます。
つまり
①他の駒がいるマスに移動する。この瞬間は2人でマスを共有する(一時的共有)
②その後戦闘を行われるとどちらかのプレイヤーの所有権が失われる(一時的専有)
といった形です。
クトゥルフウォーズやアンクといったゲームがこれに該当します。


というわけで、ここまでヘクスマップについて専有と共有、永続的と一時的といった分類を行ってきました。
また上記の早取り・陣取りやエリアマジョリティ以外のインタラクションとして、相乗りすればするほどお互いプラスになる(協力関係)とか、後からでも同じマスに入れるけれど先に建設してるプレイヤーにコストを支払わなくてはならない(先置き有利)とか、そういったインタラクションの派生はいくつかあります。
しかし大まかな分類はこれで全て出来たはずです。

……本当にこれで全てでしょうか。
しっくり来てる方と、なんとなくしっくり来てない方がいらっしゃるかと思います。
そこで、全く別の観点から新たな分類を試みてみます。

蒸気の時代

蒸気の時代(以降蒸気)もヘクスマップを用いた有名なゲームです。
蒸気の場合、ヘクスマップに対して建設アクションではなく敷設アクションを行います。
この敷設が先ほどの専有と共有どちらに分類されるか考えてみましょう。

蒸気では、まずあるマス上に1人のプレイヤーがタイルを配置し線路を敷設します。
その後、他プレイヤーもそのマスに相乗りする形で敷設することが可能です。

中央のマスには2人のプレイヤーが敷設している

2人まで相乗り可能ですし、タイルは取り除かれることがありません。先述した分類方法だと永続的な共有に分類されそうです。

本当にそうでしょうか。

実はこの分類は間違いであり、蒸気は共有ではありません。
蒸気で行っているのは辺の専有です。
“辺”という概念が新たに登場しました。
どういうことなのか、詳しく見てみましょう。

辺は専有されているため、同じ辺を使うような敷設は出来ない

つまり蒸気では、マスの所有ではなく1つのマスに存在する6辺(のうち2辺)の所有権を争っているわけです。
そのため一つのマスに対して、他プレイヤーは同じ辺を使用するような敷設を行うことが出来ません。
これは本記事で今まで述べてきた面(マス)ではなく、線(辺)に対するインタラクションなのです。

この「辺」の場合、1マスに対してプレイヤーが専有出来る場所が6箇所と多いのが特徴です。1箇所を奪い合う面(マス)の専有と比較してインタラクションは弱くなります。
ただ専有する辺がどのマス同士を繋いでいるかといった位置関係が影響するため、単なるマスの共有よりはインタラクションが強くなります。辺によって進める方向が変わっていくわけですね。
またこの位置関係によってパズル要素も追加されています。

蒸気では「タイルを配置する」といった挙動により、どうしても面(マス)に対してプレイヤー間でのやり取りを行なってると勘違いしがちです。これが1つのマスに対して相乗りをしてるかのように見えてしまう理由です。
ですが実のところマスに対して相乗りをしているわけではなく、インタラクションが発生しているのは辺なのです。

例えば、同じくワレス作であるウェンズリーデイル行き最終列車では、明確に辺の所有権を奪い合い、マスに関しては誰もその所有権を得ません。

画像はBGGより

辺に対して直角に木駒を配置するため、より明確に辺の取り合い、インタラクションが意識出来ます。

また他のゲームであっても、蒸気の敷設のように線路または道が描かれたタイルを配置するメカニクスは、どれも辺を対象としています。
インタラクションであってもパズルであっても、いくつかのゲームは面ではなく辺を対象としているのです(もちろん同時に面を伴う場合もあります)。

点について

面(マス)、線(辺)ときたら、点はどうなんだと。
そうお思いになった方もいるかもしれません。
その通りです。
点を対象としたゲームももちろん存在します。
それは全世界3000万個以上売れている超有名ゲーム、カタンです。

カタンは六角形の交点に建物(開拓地、都市)を建てていくゲームです。

画像はBGGより

カタンの場合、面(マス)に関しては誰も所有せず、資源の産出場所としてのみ振る舞います。
そして各プレイヤー間には点と辺の永続的な専有というインタラクションが発生します。

カタンと蒸気・テラミの違い

カタンと蒸気・テラミスティカは同じヘクスマップを用いているはずなのに、マップに対する感触はかなり異なるかと思います。

これには理由があります。
テラミスティカや大鎌戦役のように、駒をマスに配置する、または移動するという形のゲームでは、今いるマスに対して周囲の「隣接したマス」に対して制約を持たせています。
また蒸気の場合、マスにタイルを配置することで辺の専有を表します。
隣接したマスに対する制限、そしてタイル配置による辺の専有、このどちらもが辺に対して直交する形で制限を持たせています。

移動・建設・敷設のどれもが辺に対して直交している

対してカタンは点と点を繋ぐ形で道を置き、辺を専有します。
ただしカタンの場合、辺に対して平行する形での制限なのです。

辺に対して平行な制限を持つカタン

このように、面と辺(直交)に焦点を当てている蒸気やテラミスティカと、点と辺(平行)に焦点を当てたカタンではマップに対する感触が全く異なります。

その他のゲームを分類する

先日X(旧Twitter)にて、ヘクスマップのゲームと聞いて何が思い浮かぶかを募集いたしました。

皆さまご協力いただきありがとうございます!
集計した結果は以下となります。

5票:カタン、テラフォーミングマーズ 、テラミスティカ

4票:大鎌戦役、蒸気の時代

3票:アークノヴァ、エルドラドを探して

2票:ブルゴーニュ、キーフラワー、バトルテック、バロニィ

1票:ガイアプロジェクト、アップルジャック、インディゴ、ニューロシマヘクス、最後の巫女、異世界ギルドマスターズ、ヤバラス、キングダムビルダー、ウォーハンマーアンダーワールド、カスカディア、キャリコ、ティカル、エスケーププラン、キメラステーション、18XX、砂漠を越えて、ザ・ギルド・オブ・マーチャント・エクスプローラーズ、リバイブ、アクロポリス、メッシーナ1347、ドーフロマンティック、ウルヴズ、ハーモニーズ
(順不同)

やはりカタン、テラミ、テラフォあたりは強いですね。

この中で代表的なものとして、2票以上入ったゲームをピックアップし、面、辺(直交・平行)、点のいずれかを対象としているかを分類してみます。私自身未プレイのゲームを含むため、間違いがあればご指摘いただけますと幸いです。
ただし個人ボードのパズル要素がメインである、アークノヴァ、ブルゴーニュ、キーフラワーは除いています。

◾️面を対象としたインタラクション
・テラフォーミングマーズ (永続的な専有)
・テラミスティカ(永続的な専有)
・大鎌戦役(永続的、一時的な専有)
・バロニィ(永続的、一時的な専有)
・エルドラドを探して(一時的な専有)
・バトルテック(一時的な専有)

◾️辺(直交)を対象としたインタラクション
・蒸気の時代(永続的な専有)

◾️点と辺(平行)を対象としたインタラクション
・カタン(永続的な専有)

こう見てみると圧倒的に面を対象としたゲームが多い印象です。
また蒸気のような、辺(直交)を対象としたゲームは他にも18XXやファイユーム等、いくつか挙げることが可能です。
一方で、カタンのように点や辺(平行)を対象としたゲームは非常に少なめです。
もしカタンの他にメインボード上のヘクスマップにおける交点の取り合いを対象としたゲームがあれば、教えていただけますと幸いです。

まとめ

ヘクスマップにおけるインタラクションとして
所有権を誰が持つのか:専有、共有
その期間はどれくらいか:永続、一時
といった分類だけでなく
・面(マス)
・線(辺)
・点(交点)

といった、インタラクションが発生する場所に関する分類も可能なことが分かりました。

そしてこれらの分類はヘクスマップと限らず、全ての平面充填系のマップに当てはめることが出来ます。そしてさらにタイル配置等、図形を敷き詰めるタイプの他メカニクスにも転用可能です。

ゲームシステム制作において自分が用いているメカニクスを適切に分類することは非常に重要です。
なぜなら「ズラし」を適切に用いることが出来るようになるからです。
ズラしとは、例えば現在作ってるヘクスマップが面を対象としたものであった場合、それを点に変更してみる(または追加してみる)とか、専有から共有に、永続的から一時的に変更してみるとか、そういった同メカニクス内の別分類に変更することを言います。
同じメカニクスでも、分類を変えればその感触もガラッと変わるものです。

あなたがもしヘクスマップを用いたゲームを制作しているとするなら、分類することで他の類似ゲームも自ずと浮かび上がります。ライバルを知ることで自身が作ってるゲームの立ち位置も分かります。
また立ち位置が分かればズラしも容易になります。

そしてどうやらカタンのような、点を対象としたメインマップを持つゲームは少ないようです。
そこがブルーオーシャンなのか、はたまた「点の専有」自体に何かしらの欠点があるのか、是非皆さまに試していただけたらと思います。

というわけで本記事は終了です。ここまでお付き合いいただきありがとうございます。
本記事が皆さまのゲーム制作の一助となれば幸いです。

最後に補足として、平面充填系のマップに関しては実はもう少し掘り下げることが出来ます。
例えば四角形が敷き詰められたマップでは、1つのマスに対して4つのマスが辺で接しますし、交点を見ても4つのマスが接します。
対してヘクスマップでは1つのマスに対して6つのマスが辺で接するのに、交点の場合は3つしか接しません。
こう言った図形による差もそのままメカニクスの差へと繋がっていくのですが……今回はインタラクションの分類に焦点を当てた記事ですから、また別の機会にまとめることとしましょう。

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