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何故ジェットコースターは楽しいの?

ジェットコースターが楽しいのは何でだろう…?そんなことを<物語構造>をキーワードに考えてみた。そして、<スプラッシュマウンテン>の凄さを知るのです…。


ジェットコースターを眺める日々に…

今年の3月のこと。僕は、遊園地のおにいさんだった。バイトとしてね。仕事としては、ジェットコースターの安全バーを上げたり下げたり、「いってらっしゃい」と手を振ったり、そんな感じ。その日、ジェットコースターの担当になると、1日中ジェットコースターを見ていることになる。ジェットコースターと言えど、小さい遊園地の子供向けのミニコースター。そんなに混んでいるわけでもなく、ボーッとコースターを眺めていると、疑問が湧いてきた。いや、なんでこんなのが楽しいんだろうって。乗ったことがあるから、ミニコースターでも楽しいのは知っている、ましてや子供なら。でも、コースターが見飽きた存在に変わってしまうと、どうして楽しいのか不思議で仕方なくなったのだ。イベントデザインみたいなものを考えるのが趣味の僕には、格好の餌食だった。この体験のデザインを知れれば、何かに生かせるかもしれない!そうして、更にジェットコースターを楽しいものにするにはどんなものをつけるといいのかを考え始めたのであった…。

ジェットコースターに乗る子供たちを見ていると、妙なことに気が付いた。子供たちが一番楽しそうにしているタイミングが落ちる瞬間ではないのである。では、いったいどの瞬間なのかというと、ジェットコースターが降り場に着く直前なのだ。全てのアクションを終え、コースターが減速して、ガタガタと乗り場に戻ってくるその瞬間、最高の笑顔を降り場スタッフの僕に向けてくるのである。何も子供だけではない。その親や若いカップルも皆、降りる直前に最高の笑顔になるのである。つまり、ジェットコースターで楽しさがピークになるのは落ちる瞬間ではないということになる。じゃあ、何が楽しいのか…?考えた結果、辿り着いた僕なりの解釈は、ジェットコースターには物語があるというものであった。もっと言うと、<行きて帰りし物語>の物語構造をしているというものである。順に説明しよう。

<行きて帰りし物語>とは?

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行きて帰りし物語とは、物語の基本構造の一つである。簡単に言うと、主人公が日常を脱して、非日常を旅して成長し、何らかの成果と共に日常へ帰ってくる物語である。具体例を挙げると、ももたろう、一寸法師、かいじゅうたちのいるところ、不思議の国のアリスなどなど。ももたろうで言えば、ももたろうが鬼退治をして、成長し、財宝をもって村に帰ってくる、その構造。なんとなくイメージが湧いただろうか…?ポイントとなるのが、幸せな環境を旅立ち、幸せな環境に帰ってくるというところである。それでは、ジェットコースターの場合を見てみよう。

ジェットコースターにおける<物語構造>とは?

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ジェットコースターにおける幸せな環境というのはジェットコースターの<乗り場>に当たる。子供からしてみれば、楽しい遊具があり、それで遊ぶことを全肯定されて、一緒に並ぶ父母も上機嫌になって話してくれる。更に遊園地のおにいさんという見知らぬ大人もニコニコ手を振って一緒に遊んでくれる。そんな非日常の塊であるこの乗り場というのは天国に等しい、まさに<幸せな環境>であると言える。

そんな幸せな乗り場という環境から、コースターに乗り込み、彼らは恐怖に立ち向かう。ガタガタ揺れる車体、段々高くなっていく世界、落ちるんじゃないかという焦らし、振り落とされるようなカーブ。そして、フワッとした感覚を伴うドロップ。そんなスリルに耐えながら、子供たちは自分の成長を知るのである。

そして、全てが終わる。無事、生きてあの<幸せな乗り場>に帰ってこられたのだ!超ハッピーエンドなのである♪その安心感や達成感、諸々の感情をひっくるめて、彼らは満面の笑みと共にいうのである。「楽しかった、もう一回!」

こう考えると、笑顔のタイミングに納得がいく。ハッピーエンドを確信した降り場直前に楽しくて仕方なくなってしまうのだ!あの、無機質なただのジェットコースターにさえ、元々楽しくなるような物語を含有しているのである。では、その物語の効果をより引き出すにはどうすればいいのだろうか?

母は強し。

まず、遊園地のスタッフが出来ることとしては、<乗り場の幸福感>を最大限まで引き上げることである。冒険に出る前の乗り場が楽しければ楽しいほど、最後乗り場に帰ってくることが嬉しくてしょうがなくなるのである。遊園地のスタッフに出来ることは単純で、なるべく、楽しく子供に絡み、温かく見送り、そして、温かく迎え入れることだ。笑顔を伝播させることが大事という結論に至る。

次に考えるのは、遊園地のアトラクション自体を変えずにこの物語を引き立てる方法である。ここで、大切なのが、<行きて帰りし物語>を重ねるということである。同じ物語構造のものを重ねると、体験を補強することが出来る。では、いちばん簡単に生み出せる<行きて帰りし物語>が何かというと、母親から離れるというものである。母親というのは、子供にとって一番の、絶対的ホームなのである。お母さんの元を離れ、ジェットコースターという冒険をして帰ってくる。これは、どんな物語にも勝るほどの力を持った最強の体験を提供してくれる。現に、ジェットコースターを観察し続ける中で、お母さんが乗らずに外から見ている場合、帰還時の笑顔の輝度は150%くらいに上昇するのである。母のもとに帰るという体験は根源的な喜びを含んでいると言える。ちなみに逆も然りである。子供から離れ、親だけで乗っているコースターも笑顔の輝度が高くなる。子供もまた、親にとって絶対的ホームなのである。

最後に考えるのは、遊園地のアトラクションとして物語を引き立てる方法である。つまり、遊園地側が用意した<行きて帰りし物語>を重ね、体験を補強するのだ。これが上手く出来ると、待ち時間が何倍にも、何十倍にも膨れ上がるわけだが、これを上手くやった例がディズニーランドが誇る超人気アトラクション<スプラッシュマウンテン>なのである。

<スプラッシュマウンテン>の凄さとは?

まず、スプラッシュマウンテンについてざっくり概要を確認しよう。スプラッシュマウンテンの元となるアトラクションは<急流すべり>と呼ばれるものである。いかだに乗って昇っていき、最後に水しぶきと共に長いドロップをするというもので、ジェットコースターを更に簡略化したようなものである。そのアトラクションのために、エリア1つを丸々使って世界観を付与し、何十体ものアニマトロニクス(動く人形)を使って10分以上の物語を付与している。では、そのストーリーをざっくりと図に落としてみよう。

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ストーリーとしては、主人公のうさぎどんが、家である茨の茂みから、笑いの国を目指し旅をするが、それをきつねどんとくまどんに邪魔される。それをとんちで上手くかわしていく。終盤、きつねどんに捕まるが、またもとんちで切り抜け(このエピソードが落ちる理由として機能している)、「茨の茂みこそ笑いの国なんだ、やっぱりお家が一番」と家に帰りハッピーエンドである。

是非、上のジェットコースターの図と見比べていただきたい。もう、完全なる程に流れが一致するのである。つまり、スプラッシュマウンテンは、ジェットコースターが元々持っている<行きて帰りし物語>に対して、全く同じ、家を出て、冒険をし、帰れてハッピーという物語を重ね、更に<落ちる>というジェットコースターの特徴にストーリー上の明確な意図付けをするという非常に計算しつくされた構造になっているのである。これを、圧倒的予算&圧倒的スケールで作り出した世界観の上に再現しているのであるから、人気アトラクションにならないわけがないのである。この一手間があることで、僕のバイト先の遊園地では20分待ちがいいところの<急流すべり>が120分待ちの<超化け物コンテンツ>に様変わりするのである。

こうして考えると、物語の力って偉大である。そして、そのアトラクションとの親和性の大切さも窺える。今回取り上げたのはジェットコースターであったが、大抵のアトラクションの持つ物語は大体同じであると考えられる。つまり、<行きて帰りし物語>を最大限活用できるようになると、遊園地をもっと楽しくするアイデアが浮かんでくるかもしれないということだ。そんなことをジェットコースター乗り場でボーッと思い付き、多分これ以上の考察/発見は出来ないなと思って、春休みで遊園地のおにいさんを引退したのであった…。

まとめ

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以上、全て僕の見解です。悪しからず。

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